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飢えの村、試練の王女

獣人族の集落に着いた翌朝、リヤとルマンは村の中心部に呼び出された。冷たい風が吹き抜ける広場の中央には、石の円卓が据えられ、その周りには村の代表者ラウスと数名の長老が座っていた。彼らの厳しい視線が、リヤの覚悟を試すように注がれている。広場を囲む村人たちもまた、値踏みするような目でリヤを見つめていた。


リヤは耳の先がかすかに震えるのを感じながら、深く息を吸い込んだ。頭上のうさぎの耳は緊張と不安を隠しきれず、小刻みに動いている。だが、彼女はそれを意識的に隠そうとはせず、毅然と顔を上げて歩み出た。


「昨日は話を聞く時間をいただき、感謝しています」

リヤの声は静かだったが、広場全体に響き渡り、その姿勢は揺るぎないものだった。


ラウスは静かに立ち上がると、リヤに向き直った。その瞳には長老としての威厳がありながら、どこか深い考えを巡らせているような光も宿っている。


「リヤ王女。あなたがこの村に来たこと、その意図については昨日聞きました。だが、この村の者たちは言葉だけで信じるわけにはいきません。あなたがどれだけ本気で我々と向き合うつもりか、それを行動で示していただきたい」


その厳しい声に、周囲の村人たちがざわめき始める。「混血の王女が何をできる?」といった声があちこちから漏れ聞こえた。リヤは頭上の耳が再び震えるのを感じたが、動揺を抑え、静かに答えた。


「おっしゃる通りです。私の言葉だけでは足りないでしょう。どうすれば、私が誠意を持っていると信じていただけるのか教えてください」


ラウスは少しだけ目を細め、円卓に手を置きながら言葉を続けた。

「試練を与えます。私たちが置かれている状況を理解し、それを変える手立てを示してください」


その一言に広場全体がざわつく。リヤはラウスの言葉に耳を傾けながら、彼が次に語る言葉を待った。


「人間族の商人たちと交渉し、私たちに必要な食糧や物資を調達してください」


ラウスの低い声が広場全体に響いた。


「我々の村では何度も試みましたが、すべて拒絶されてきました。偏見と恐れが我々を拒む壁となっているのです。もしあなたがその壁を越えられるというのなら、私たちもあなたの言葉を信じましょう」


リヤは息を呑み、周囲の視線を感じながら、深く頷いた。


「分かりました。その試練、必ずやり遂げます」


「リヤ王女」

ラウスの目はなおも鋭い。


「覚えておいてください。成功すれば私たちはあなたを歓迎するでしょう。しかし、失敗したなら、それ以上私たちと関わることは許されません。それほど、この試練は重要なものです」


広場を囲む村人たちからは小さな嘲笑が漏れる。「人間族の商人が混血の王女に何かを譲るわけがない」といった冷たい声が聞こえる中、リヤは毅然と顔を上げた。


「どんな困難でも、私は諦めません。必ずこの試練を成功させてみせます」


広場を後にしたリヤとルマンは、村の外れにある小さな小屋で一息ついていた。窓の外に広がる森は静かで、しかしその景色はどこかリヤの胸を締め付けるようだった。


「商人たちが獣人族との取引を拒んでいるのは、単なる偏見ではない」

ルマンが口を開いた。その声は冷静で、しかし彼女を気遣う優しさも込められていた。

「彼らにとって、獣人族と取引すること自体が社会的な信用を失うリスクになる。簡単なことではないぞ」


リヤは窓の外を見つめたまま答えた。


「分かっているわ。でも、ここで諦めるわけにはいかない。私が諦めるわけにはいかないの」


ルマンは彼女の横顔をしばらく見つめたあと、小さく頷いた。

「あなたが進む道に、私は必ずいる。どうか、それだけは忘れないでほしい」


その言葉にリヤは少しだけ微笑んだが、その表情はどこか寂しさを帯びていた。彼女の頭上では再び耳が震え、彼女の内面の不安を物語っている。


「この森の中には、まだ私が知らないことがたくさんある……」

リヤは窓辺に腰を下ろし、小さく呟いた。


ふと、昨日見た村人たちの動きが頭をよぎる。彼らが森の音を頼りにし、目を使わずに危険を察知し、薬草を探し出す姿――それは人間族には持ち得ない特別な能力だった。


「彼らの特別な力を、何かに活かせないだろうか……?」


その考えが、リヤの中に一筋の希望を灯した。森の奥深くから吹いてくる風が、彼女に何かを語りかけるように感じられる中、リヤは決意を新たにした。

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