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第9話 カインの道中

次の日……


俺は馬車の中で、昨日の夜に湧いた疑問をアイーズさんに直接聞いてみた。


「お父様が『炎羅白虎』の毛皮を用意して下さいましたの。ふかふかで快適ですわよ」


そこは火蜥蜴の皮じゃないのが貴族クオリティーだな。

『炎羅白虎』は魔物の中でも特に数が希少でとにかく強い。

魔物の討伐が主な生業である冒険者と呼ばれる専門家でさえ、対策を立てて集団で挑まないと勝てないと聞く。

魔物の討伐と冒険に何の関連性があるかは不明だが、昔から冒険者と呼ばれているらしい。

話が逸れたが、要は『炎羅白虎』の毛皮が超高価である事は間違いないだろう。


まあ、アイーズさんがちゃんと眠れているのなら問題ない。もしかして、立ったままか座ったままなのかと思っていたので一安心だ。


「そこで妬まないのがカインくんの長所ですわね」

「他人を妬んでるだけじゃ何も変わらないですから。そんな事に時間を掛けるくらいなら、どうやれば良いかを考えた方が建設的です」

「……良いですわね。今のお言葉、『カイン語録』に残しておきますわ」

「何それ、面白そう!」

「今夜寝る時にお見せしますね。結構溜まっているので見応えがありますわ」

「絶対に止めてくれ……」


そんな物捨ててしまえ!

後で見せて貰う振りをして闇に葬る事にした。


「ご安心下さい。観賞用と布教用の2部作成しておりますので……」

「……?」


この人は一体何を言っているのだろうか……



俺の発言を記録に残していたアイーズさんにドン引きしつつも馬車は進んでいく。


途中で盗賊団にも遭遇したのだが、接敵前にアイーズさんの『聖なる審判』一発でほぼ壊滅状態になり、すぐに掃討戦となった。


「すごーい!」

「アイーズさん。俺、火系魔法の初級と中級も教えたと思うんですが」

「…………使えませんの」

「えっ?」

「だから!『聖なる審判』しか発動しませんの!」

「マジかよ……」


何がどうなって1つの魔法しか使えなくなっているかは不明だが、深刻な状況なのは確かだ。

戦闘に於いて魔法の威力は勿論重要だが、強弱や緩急の調整も大事な要素だ。

弱い魔法でもフェイントに使えるし、相手の魔法をいなす事も出来る。

他にも、初級魔法は日常生活に使えたりする。

俺が昔使っていた『光源(ライト)』なんかもその内の1つだ。

『聖なる審判』はその魔法の特性上、常に最大限の威力を出す事に魔力が使われているので調整は不可能。

だが、アイーズさんの場合は高位魔法の魔力消費無しと詠唱無しなので、他と比較出来ない程のアドバンテージがある。

一概に悪い状況とは言い辛い。


「そんな、取って付けたようなフォローは要りませんわ……」

「いや、俺は事実……じゃなくて、アイーズさんが唯一無二って言う話を……」

「……ねえ、2人の会話って偶におかしくない?」

「えっ?ああ!……貴族の人って社交界とかで相手が何を考えてるかを探り合ったりするんだ。アイーズさんはそれに長けてるんだよ」

「ふ〜ん。やっぱり貴族って凄いんだね」

「そうだろ!アイーズさんは凄い人なんだぞ!」


ハルのおかげで話が有耶無耶になった……

ありがとう、ハル!!


「伝えるべきかしら?いや、でも……」


アイーズさんが何かをブツブツと呟いているが、俺は全力でスルーした。




今日も日が暮れる前に次の街に着いた。

山麓の街ガタンゴ。

標高が高いレトール山からの恵みを受け発展した街だ。

流石にここまで来ると、ハミルトン家の威光も届いていないと思ったが、街の代官が出迎えてくれた。


アイーズさんとお偉いさんは大事な話があるらしく、騎士数名を連れて来賓室に入って行った。

俺達は先に食事をする事になり別室に連れて行かれた。


料理はコースで順番に出されるようだ。

最初に出された美味しそうなスープを食べようとすると、ハルが怪訝な顔で唸っていた。


「何か味がおかしいかも?……うっ!……苦しい……」

「おい、ハル!どうした!?」


ハルが苦しみだしてそのまま床に倒れた。

だが、すぐに起き上がり叫ぶ。


「……これ、毒が入ってるよ!」


ハルが叫んだと同時に爆発音が聞こえ、食堂が衝撃で揺れた。

ハルが『解毒(リカバー)』の魔法で自身を回復しつつ、音が聞こえた方に向かってみると、先程アイーズさん達が入った部屋が木っ端微塵に吹き飛び周囲が燃えていた。

騎士達も命からがら部屋から逃げ出した様だ。


燃え盛る炎の中で悠然と佇むアイーズさんは、昔見た絵物語に出てくる破壊神にそっくりだった……


「お2人共ご無事でしたか……」

「ハルが無事じゃなかったな」

「毒飲んじゃった……」

「それは……ハルさんでなければ危うかったですね」


アイーズさんに直接事情を話した事は無いのだが、頭の中が筒抜けなので大体の事情は察しているようだ。


「私が茶を飲む寸前まで、相手が殺意を隠していたので気付くのが遅れました。巻き込んでしまい本当に申し訳ありませんわ」

「いえ、アイーズさんのせいでは……」

「私はもう全然大丈夫だよ」

「ありがとうございます。お父様と対立している派閥の仕業の様ですわ。この件はお父様にお任せするので、流石に言い逃れは出来ないでしょう」


貴族世界の恐ろしさを垣間見た気がした。


代官は爆風に巻き込まれたが、何とか生きていたので騎士数名に連れて行かれた。

ハミルトン領まで連れて行くらしい。

この街を収める領主に任せたら、間違いなく口封じされるだろう。


残った騎士達の中には怪我をした人も居たのでハルの光系中級魔法『高回復(ハイヒール)』と俺の高回復薬(ハイポーション)で治して回った。

俺が治しているのにハルの方を羨ましそうに見るのは止めて欲しかったが、男ならば致し方ないか……




その後は、特に大きな事件も無く順調に国境に着いた。

検問で騎士の人達と別れ、隣国のバイスデール中立国からは徒歩での移動になった。

バイスデールはその名の通り他国の政治的な干渉からも中立の立場を貫く国だ。

そしてそれを可能にしているのが、国王バトラー・カシオンの存在。

土系特位魔法『隕石落下(メテオ)』が使える唯一の魔法使いである。

本人が好戦的では無く、他国は彼の魔法を恐れて今の状況が出来上がったと言う訳だ。

バトラーが若い頃に立国した国なので歴史は浅いが、懲役も内戦も無い平和な国だ。



そんな、平和な国の街道を3人で歩いていると、目の前で商隊と思われる集団が魔物に襲われているのを発見した。

……まあ、魔物には国の平和は関係ないからな。


「助けよう!」

「ああ……」

「あれ程密集していては私は役に立ちませんわね……」


アイーズさんのネガティブ発言を聞きつつ、俺は懐からメイスを取り出して構えた。

簡素な打撃武器だが、剣と違って修練しなくても扱えるのが強みだ。


そんな俺の意気込みとは裏腹に、アイーズさんの姿を発見した魔物達は一目散にその場から逃げて行った。

襲われていた人達も何が起きたのか分からず戸惑っている。


これは……

アイーズさんの存在自体が魔物避けになってる!?


「……もう、何も言えませんわ」


アイーズさんの落ち込み具合が酷い。

おい、俺のフォロースキル仕事しろ!


「アイーズさんの魔法は最強ですから魔物が逃げるのも当たり前です。魔法を放つ姿は凛々しくて男のロマンそのものですよ!……ほら、ハルも褒めろ!」

「アイーズさん。私は絶対に負けませんから!!」


何言ってんの!?

褒めろって言ったじゃん!


「……はぁ。カインくんはともかく、ハルさんに情けない姿は見せられませんわね」


ハルの言葉の何が響いたのかは分からないが、アイーズさんの気持ちも上向いた様だ。

俺は密かに胸を撫で下ろした。


「ところで……私はバトラー国王よりも強いのかしら?」


それは、何とも答え辛い質問だった……







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