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第8話 カインの出立

貴族の豪華な生活を体験した次の日……


俺達はアイーズさんの家の玄関に集まっていた。

アイーズさんとテレーズ夫人が抱き合って別れを惜しんでいる。


「カインくん、娘の事を頼むぞ」

「……はい。ですが、本当に宜しいのですか?」

「娘の達ての希望なのだ。家宝の魔道具も渡してあるし心配はしておらんよ」


家宝!?

そんなのあるのか……


「逆に、娘がやり過ぎて仕舞わない様に見張っておいてくれ」

「はい!」

「聞こえていますわよ! 」


周りの使用人の人達がテキパキと準備を済ませていく。

そんな中、豪華な馬車が目に入った。


「国境までは我が家の馬車で送ろう。騎士数名も同行するから道中も安心してくれ」


俺は歩きで行くつもりだったのだが、ここはご厚意に甘えておこう。

俺達が今居る王都リュオンからエルフ国まではかなりの距離がある。

馬車でも1ヶ月は掛かる距離だ。

国境まででも送って貰えるのは素直にありがたい。

どうやら護衛も着けてくれるそうだ。

アイーズさん1人で既に過剰戦力ではあるが、夜営した時の事を考えると見張りなども必要だろう。


「ハルは準備出来たか?」

「アイーズさんの服を貰っちゃった。でも……」

「ハルさん……それ以上言ったら戦争ですわよ」

「はは……」


まあ、なんと言うか……そう言う事らしい。


「はぁ……。それで、カインくんは大丈夫ですの?」

「俺ですか?アイーズさんが教室から回収してくれた鞄に着替えは入ってるから大丈夫ですよ」

「カインくん、何で学校に着替え……あっ……」


まあ、服を汚される事なんて頻繁にあったからな。

酷い時は私物は隠されるし、燃やされるし、汚物まみれにされていた。

しかもそれは、女子連中が殆どだった……


「ハルさん、怒りを鎮めなさいな。もうあの様な連中とは関わらなければ良いだけの話ですわ。私は許しませんが……」


許さないのか……

当の本人は既に諦めてたから、代わりに憤慨してくれて気持ちが少し楽になった。


「娘からは聞いていたが、最近の学園は本当に腐っているようだな。特に教師が加担しているのは見過ごせん。そうだな……君達が帰って来る頃には普通に学園に通えるよう私が尽力しておこう」

「ど、どうして、俺なんかの為にそこまでして下さるのですか?」


声が震えた。

魔法を使えなくなってから、こんなに優しくされたのは初めてだった。


「言っただろう?我が娘に助力してくれた事を感謝していると。恩人に報いねば貴族として面目が立たぬよ」

「……あ、ありがとうございます……」


零れた涙が止まらなくなる。

返して貰う恩が大き過ぎるとは思うが、ありがたく受け取っておこう。

そして、アイーズさんを無事に家に帰す事を心に誓った。





「では、道中気を付けて行くのだぞ」

「アイーズ、全力でカインくんをお護りするのですよ」

「はいですわ!お父様、お母様、行って参りますわ!」


こうして、俺達は盛大に見送られて王都を出発した。



「ずっと気になってたんだけど、カインくんが腕に付けてるのって何なの?」

「ああ、これか……」


王都を出て街道を走る馬車の中で雑談していると、急にハルが聞いて来た。

俺は左腕に手甲を上腕まで伸ばしたものを装備していた。

侯爵様から餞別として、俺が眠っていた時に使っていた魔道具の携帯版を貰った。

その魔道具と手甲を一体化させた物を専属の鍛冶師に徹夜で作らせたらしい。

これで動きながらでも高魔力回復薬(ハイマナポーション)が定量摂取出来るので、万年の体調不良が改善されるだろう。

絶対高価な物だし、勿論最初は断ったのだが、侯爵様の押しに負けて頂く事にした。

作ってくれた鍛冶師には会えなかったが、感謝を伝えて欲しいと頼んでおいた。


俺はもう一生侯爵様に頭が上がらないだろうな。

まあ、それは元からではあるが……


「流石はお父様……着々ですわね」

「アイーズさん、何か言いましたか?」

「うふふ。いえ、何も……」


何もないなら、何で君は笑っているんだい?


「私もパパとママに会いたくなっちゃった……」

「……帰って来たら、一度村に帰ろうか」

「うん……」


俺達の村はエルフ国に向かう方向とは真反対にあるため、立ち寄るのは難しかった。

今迄はハルの事で精一杯だったが、出来ればあの悪魔の情報も集めたい。

今の俺ではどうにもならないが、万能完全回復薬(エリクシール)を手に入れればきっと先に進める筈だ。




馬車の窓から外を眺めると、田園風景から一変し建物が建ち並んでいた。

まだ出発して半日も経っていないが、今日の目的地に着いたようだ。

衛星都市ラナドゥ。

色んな人と物が集まる商人の街だ。


「着いたようですわね」

「お尻が痛いよー」

「今日は宿に泊まれるんですね」

「ええ、ハミルトン家が懇意にしている商会があるので、今日はそちらに頼みます」


専属と言うやつだろうか?

貴族は商人が家に物を持って来るので、買い物に行かなくても良いと聞いた事がある。


「では、騎士達が馬車の出口を固めておりますので外に出ましょうか」

「やっと歩けるの!?」


尻が痛いハルは一目散に外に出て行った。


「あっ!おい……」

「全く……」


要人の暗殺などは乗り物から外に出る時が一番危険だとされる。

対象の位置が固定されるし、余計な動きが出来ないから。

まあ、ハルは特に一般人代表みたいな所があるからしょうがない。

後で説明しておこう。


「カインくんは、ハルさんに甘いですわ」

「そうですかね?自分では余り感じませんが……」

「……まあ、良いですわ。」


じゃあ、俺が先に降りて……

次に降りるアイーズさんに向けて手を差し出した。


「あら?嬉しいですわね」

「段差にお気を付け下さい」


慎重にエスコートしてアイーズさんが地面に降り立った。

街中で貴族の豪華な馬車が停まったので、周囲に人集りが出来ていた。


「キャアアアア!!!」

「ひ、人が燃えているわ!」

「誰か衛兵を呼べ!!」


あっ!忘れてた。

この人の左腕燃えてるんだった…… 



騎士達が周りの人達に事情を説明して、漸く宿に入れた。

何と説明したかが気になる……


「……私は炎の精霊に憑かれた可哀想な令嬢らしいですわ」


可哀想じゃなくて嬉々として憑かれに行ったの間違いでは?


……ごめんなさい。無言で左腕を額にロックオンするのは止めて下さい。物凄く熱いです!


「ねえ、早く行こうよ〜」

「カインくんのせいですわ」

「ごめんなさい……」



そこは凄く豪華な宿だった。

部屋は広く天蓋付きのふかふかのベッドとソファーが置いてあり、アイーズさんの家の部屋と遜色がない。

貴族向けの宿なのだろうか?


3人が別々の部屋となり、美味しい夕食の後に時間が出来た。

俺が鞄から道具を取り出して準備しているとハルが訪ねて来た。


「カインくん、入っても良い?」

「良いぞ〜」


ハルが恐る恐る中に入って来た。

風呂の後だったらしく、まだ若干濡れている髪が垂れているせいで普段と全然印象が違っていた。

色っぽい?艶めかしい?……違うな、単に俺の好みなだけだった。


「何してるの?」

「これか?回復薬(ポーション)の補充をしておこうと思ってな」

回復薬(ポーション)って錬金術の?」

「ああ。必要だったから覚えた。自分で作った方が節約になるんだ」

「……あっ!?私のせいだよね」

「違うぞ。ハルのためにだ。そこは間違えて貰ったら困る。俺がやりたくてやってるんだ」

「……うん、分かった。私もう落ち込まない」

「ああ、そうしてくれた方が俺も嬉しい」


横で見ていた筈のハルの頭が、何故か撫で易い位置にあったので、俺は優しく撫でてやった。


「えへへ。じゃあ、部屋に戻るね」

「ああ。ちゃんと髪乾かすんだぞ。……おやすみ」

「うん、おやすみ!また明日ね!」


ハルが元気良く手を振ってくるので、俺も軽く振り返した。



ハルが帰った後も作業を続けていると、急にふとした疑問が湧いた。


アイーズさんはどうやって寝ているのだろうかと……





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