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第4話 カインの境遇

朝起きて男子寮を出ると、寮の前にアイーズさんが立っていた。

今日も左腕には炎が揺らめいているが、俺は気にせずに新しいファッションだと思う事にした。

いや、無理があるな……


「アイーズさん、おはようございます。どうして此処に?」

「おはようございます。護衛は常に一緒に行動しないと意味がありませんわ」

「そう……ですね」


アイーズさんは実際に護衛が着く身分なのでそこら辺も詳しいのだろう。

護衛の心構え的なものを教えて貰いながら登校した。

こんなに溌剌とした気分で登校したのは入学当初だけだったので嬉しかった。


教室に入るまでもかなりの注目を集めていたのだが、教室に入ると全員の視線が此方を向いた。

アイーズさんの金髪ドリルと腕の炎が相まって目立ち過ぎる!


席に着いて一息ついていると、一人のクラスメイトが俺達に近付いて来た。

このクラスの委員長でモノクルをかけたインテリ野郎だ。


「アイーズ様。そいつは初級魔法も使えない屑野郎ですよ。貴女の評判も悪くなるから一緒に居ない方が良いと思いま……」


インテリが言い終わる前に、熱線が彼の頬を掠って窓を突き破り上空で大爆発を起こした。


「「「うわあああ!!!」」」

「「「きゃあああ!!!」」」


教室の中は阿鼻叫喚だ。


「あら、ごめんなさい。手が滑りましたわ。貴方も自分の発言には注意なさった方が宜しくてよ」


これはかなり怒ってるな。

アイーズさんもこの前まで初級魔法を使えなかったからな。

少しでもアイーズさんの事を知っていたら出来ない発言だろうに。


と言うか、今のアイーズさんは超危険人物なのでは?

そして案の定、教師が来て事情聴取された……




教室に落ち着きが戻り、インテリが席でガタガタと震える中、ハルが俺達に近付いて来た。

どうやら何か物申したいらしい。


「ねえ。アイーズ様だっけ?戦闘でもないのに人に魔法向けるのは良くないよ?」

「……ハルさん。はじめまして、アイーズ・ハミルトンと申しますわ。因みに今の言葉は本心から言ってらっしゃるのかしら?」

「そうだよ。強い力には責任が伴うの。無責任に力を振るってたら、いつか痛い目に遭うわ」


アイーズさんは驚いた顔で俺の方を向く。

俺は小声で説明した。


「ハルは知らないからしょうがないんだ」

「知らないのですか!?」

「コソコソしないで堂々と言いなさいよ!!」


俺達がヒソヒソと話しているのが気に食わなかったのか、ハルは更にヒートアップしていた。


「では、言わせて頂きますわ。ハルさんはカインくんが魔法を使えない事をご存知ですわね?」

「知ってるわよ」

「では、魔法の実技の授業の時、カインくんが何をされているかもご存知で?」

「実技は男女別だから詳しくは……」

「カインくんは他のクラスメイトの魔法の的になっていますわ。幾ら授業とはいえ魔法が使えない生徒に一方的に魔法を放つのはただの私刑(リンチ)なのではないですか?」

「えっ?嘘……」

「それに、ハルさんが見ていない所でカインくんは様々な方から嫌がらせや暴力を受けております。最近では教師もいじめに加担しているみたいですね。……ですが、幾らカインくんが隠していたとは云え、少なからず違和感程度なら気付けたのでは?」

「アイーズさん、やめてくれ」


ずっと隠し通せる事でもないので、アイーズさんの話を大人しく聞いていたが、ハルを責めるような言い方までは見過ごせなかった。

これは俺が選んだ事で……ハルは何も悪くない。

それに、もう今更な話だ。


「か、カインくん。何で……」

「何で相談しなかったか。それも明白ですわ。ハルさん、貴女自身も原因の一端なのに幼馴染であるカインくんが言える訳がないでしょう?」

「アイーズ!やめろ!」

「は、はい。申し訳ありません」


本当に今更伝えた所でどうしようもないだろ……


「……皆も知ってたってこと?」


ハルは女友達を見るが目を逸らされていた。


「カインくんが何も言わないのを良いことに、ハルさんが見えない所で常習的に行われていたみたいですわね。本当に反吐が出る連中ですわ」

「……………」

「私はカインくんを護ると誓いました。ですが、教師も嬉々としていじめに加担している状況では学園は頼れませんし、多少手荒な手段になっても構わないと思っておりますわ」


アイーズさんが言い終わると、ハルは数歩後退って背を向けて駆け出した。


「ハル!」


俺は急いでハルを追い掛けた。



2人が出て行った後、アイーズはクラスメイトに向き直った。


「皆様、改めてよろしくお願い致しますわ。私もある意味異常者になりましたから、同じ異常者同士仲良くなれるかもしれませんわね」


皮肉が効きまくった敵対の意志をニコニコと笑いながら連ねる姿に、教室全体が静まり返った。





ハルは……屋上か?

ハルの足が速すぎて見失ってしまったが、魔力を辿って何とか追いついた。

屋上のドアを開けると、ハルは落下危険防止の柵の向こう側に立っていた。

俺は慎重にハルに近付く。


「……カインくん、ごめんなさい。私のせいで……」

「いや、アイーズさんが言った事は事実だけど、ハルが気に病む事じゃない」

「事実なんだね。……はは。私って大馬鹿だ。そんな連中と一緒にヘラヘラ笑って過ごして……今まで何やってたんだろ」

「俺が魔法を使えないから招いた事だ。ハルのせいじゃない」

「……でも、小さい頃はカインくん魔法使ってたよね?ずっとはぐらかされたから聞かなくなったけど……」

「それは…………」

「やっぱり教えてくれないんだね……」

「…………」


ハルが俯いて涙が地面にポタポタと落ちる。

そんな表情をさせたい訳じゃないのに、何やってんだ俺は!


「カインくん、ごめんね……」


ハルが勢い良く屋上の端から飛び出した。

距離があったので柵越しに伸ばした手は当然届かない。

その瞬間、ハルの姿が掻き消えた……




屋上の端から下を見る。

倒れたハルを中心に地面に血が広がっているが、ハルは何事も無かった様にすぐに立ち上がった。


「……………何これ?」



本当に最悪だ……





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