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第3話 カインの特訓

クラスメイトと先輩の取り巻きと通りすがりの生徒、更に教師達からも嫌がらせを受け始めた今日この頃。

不登校も視野に入れ始めたが、何か負けた気がするので気合いで学校に向かった。

正直な話、自作の回復薬(ポーション)が無かったら怪我で学校に来れないレベルになっているので、奴等にはいつか俺の手で天罰を下したい。

と言うか、先輩の取り巻きが未だに俺に関わってくるのが謎だったが、俺をボコしながら「俺達に対する扱いが酷過ぎる」とボヤいていたので先輩も同罪にした。


そして、何よりも辛いのがハルが俺を無視するようになった。

話し掛けても違う方を向いて顔を逸らす。

なにかやらかしたかと謝ろうとしてもすぐにその場を立ち去るのだ。

心当たりは……一つしかないが、アレを回避しろと言うのは土台無理な話だ。

まあ、ハルは幼馴染だし俺に対して友愛の情くらいはあるだろうから、軽い嫉妬だと思う事にした。

そうでなければ俺の精神が崩壊するので、暗示の如く自分に言い聞かせた。



そんな、自らハードモードに設定した生活を送っていたある日の事……


隠れて昼飯を食べようと彷徨っていると、校舎裏に良さそうな場所を見つけた。

だが、そこには先客が居り、昼休みなのに魔法の練習をしていた。


図書室で遭遇する金髪ドリル貴族のアイーズさんだ。

俺は一瞬どうするか迷ったが、今日はもう時間が無いので近くに腰を下ろして食事を始めた。


「あら?カインくん……」

「どーも、自分の事は気にせず続けて下さい」

「ちょっと休憩にしますわ」


そう言って俺の横に座るアイーズさん。

……何だ?俺の弁当を狙っているのか?


「ふふ。魔法競技会の件、噂で聞きましたわ」

「ぶふぉっ!!」

「きゃあああ!!!」

「げほっ!げほっ!……」


思わずむせて驚かせてしまったが俺は悪くないぞ!


「すみません。大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です。ですが、魔法競技会の話はなしでお願いします……」

「分かりましたわ」


そう言って微笑むアイーズさん。

一体どこまで本気なんだか。


「アイーズさんはここで一体何を?」

「魔法の練習ですわ。競技会で主役だったハルさんと違って、私は初級魔法も碌に扱えないので……」


初級魔法が扱えないのは余程だな。

アイーズさんが良ければ教えてあげれるんだが……


「えっ?」

「……あれ?俺、口に出してました?」

「え、ええ!ですが、カインくんは魔法が使えないと聞き及んでいますわ」

「魔法が使えないと言うより、使う魔力が無いというのが正しいですね。まあ、意味は一緒ですが……」

「……では、教えて下さるかしら?」

「ええ、良いですよ。アイーズさんの魔力量次第ですが、高位魔法まで使えるように特訓しましょう!」

「私が……高位魔法を?」


アイーズさんの魔力量は一般の魔法使い並みだが、高位魔法を2、3回は発動出来る量だ。

奥の手で使えば競技会でも十分に健闘出来る筈だ。


「お、お願いしますわ。お師匠様!」


ああ。ハルにも「カイン師匠!」って一時期呼ばれてたっけ……

……いや、もう過ぎた日々だ。

俺は未来(まえ)を見て進んで行くぞ!!


「…………お師匠様?」

「良し!俺の修行は厳しいが着いて来れるか!?」

「はいですわ!」

「良い返事だ!先ずはイメージからだな。なりたい自分を常に頭の中に描くんだ!」

「はいですわ!」

「アイーズ、お前は最強だ!その腕の一振りで周囲の塵を薙ぎ払え!」

「は、はいですわ!!」


…………

………………

……………………


そんなこんなで1日目の特訓は終了した。

火系初級魔法の『ファイアボール』の発動は勿論、炎を腕に纏わせて発動待機状態まで出来るようになったのは僥倖だった。

最終目標は勿論、火系高位魔法の『聖なる審判』だ。


アイーズさんに課題を出してお開きとなった。

そして、俺は昼飯を食べ損ねた……




次の日……


自作の高魔力回復薬(ハイマナポーション)を顔に掛けて魔力切れで倒れたアイーズさんを叩き起こす。


「アイーズ!貴様に休んでる暇はあるのか!?」

「な、ないですわ!」

「そうだ!周りとの差を埋めるには普通ではダメだ!今まで周りがしてきた努力の数十倍は覚悟しておけ!」

「はいですわー!!!」


この日は火系中級魔法の『ファイアバーン』まで使えるようになった。



そして、1週間後……


左腕に蒼い炎を纏わせたアイーズさんが詠唱を始める。


「……我は裁きし者。この神の炎で汝の罪を全て焼き尽くさん……『聖なる審判』!!」


アイーズさんが腕を振るうと熱線が高速で放たれた。

熱線は使われていない旧校舎の壁をなぞり……一瞬の静寂の後に大爆発を起こした。



「や、やりましたわー!!」

「う、うむ。上出来だ!」


爆風が襲い掛かるが、アイーズさんは気にもせず喜ぶ。

俺は後方で腕組みをして特訓の成果に満足していた。



「か、家事だー!!」


喜びも束の間、燃え盛る旧校舎を見た生徒が叫ぶと、教師達がぞろぞろと集まり出した。

アイーズさんは左腕に炎を纏わせたままだったのですぐに連行された……


こうして、10日程の充実した特訓の日々は幕を下ろした。




旧校舎爆破事件のほとぼりも冷めた頃、登校して席に着くと隣の席にアイーズさんが居た。

まあ教室に入ってゆらゆらと燃える蒼い炎が見えた時点で分かってはいたのだが……



「アイーズさん、何故隣の席に?」

「危険人物扱いされて、クラスを追い出されましたの」

「え〜っと。そりゃあ、腕にずっと炎を纏わせてたら危険だと思います」


俺は至極当然の事を言ったのだが、アイーズさんはニコニコとこちらを見てくるだけだ。

……目が笑ってないので凄く怖いです。


「腕の炎が消えませんの。カインくんが責任取って下さる?」

「……えっ?」「えっ!?」


何故かハルが椅子をガタンと鳴らし反応していた。


アイーズさんから事情を聞いた所、俺との特訓の後も自分の家の庭で『聖なる審判』の鍛錬をしていたらしい。

魔法の鍛錬ではなく『聖なる審判』の鍛錬なのが曲者だ。

魔力が切れたら親が用意してくれた高魔力回復薬(ハイマナポーション)をがぶ飲みし、破壊の限りを尽くしたらしい。

アイーズさんの親は娘が魔法を使えるようになった時に泣いて喜んだ程の親馬鹿なので、只管にアイーズさんの好きな様にさせていたとの事。

そして、『聖なる審判』の発動が千を超えた辺りで魔力の消費が極少になり、調子に乗って更に発動した結果腕から炎が消えなくなって魔力も消費しなくなり、詠唱も必要無くなったと……


……これは俺が悪いのだろうか?

俺は例外だが、普通の魔法使いがこんな短期間の内に高位魔法を千回以上使うなんて事はありえない。

神の癒し手である聖女や知の探求者たる賢者であればワンチャンだが、この短期間で千回は単なる異常者である。

それに、俺にはその兆候さえ無い事を考えるとアイーズさんが特殊なケースなのだろう。


「す、凄いですね……。高位魔法を無尽蔵に発動出来るなんて、化け……羨ましい限りです」

「代償が大き過ぎますわ。それに、このままでは将来嫁の貰い手がありません」


責任取れってそう言う事!?

は、話を変えねば!


「え〜っと。そう言えば、先程クラスを追い出されたと……」

「両親にお願いしてクラスを変えて貰いましたの。因みに、親からは今度カインくんを家に連れて来るようにと言われていますわ」


アイーズさんの父親は侯爵様だったかな。

権力って凄い……

あと、どさくさに紛れてとんでもない事を言われた気がする。


「それに……」


アイーズさんはクラスを一回り見渡した後、俺に目を合わせた。


「カインくんがいじめられている事は勿論、誰の助けも無い事も聞き及んでおります。なので、これからは私がカインくんをお護り致しますわ」


い、いかん。ちょっと泣きそうだ。

自分が思ってたよりも限界に近かったらしい。


「……分かりました。俺からは特に何も返せませんが、アイーズさんがそれで納得するのなら、これからよろしくお願いします」

「見返りは不要ですわ。それに、私に特訓して下さったお礼もまだしておりませんので……」


俺はアイーズさんと握手を交わす。

燃える左腕が気になって仕方なかった。



こうして、俺に用心棒が出来た……





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