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第2話 カインの取引

クラスメイトと先輩の取り巻きからのいじめに耐えつつ、何とか日々勉学に励んでいると、魔法競技会の時期になった。




「今回の大会には何とエルフ国の重鎮であられる『魔王ミリア』様が視察にお越しである!諸君、日頃の成果を十二分に発揮して大会を盛り上げて貰いたい!」


学園内でも一番広いグラウンドに全生徒が集められ、太った学園長のありがたいお言葉を頂戴して大会がスタートした。

どうやらこの場にはその魔王は来ないようだ。


大会はサバイバル形式の予選とトーナメント式の本戦に別れている。

生徒数が多いので予選は各所にあるグラウンドで行われ、数減らしを含んでいるのでとても雑に行われる。

代わりに本戦は広い観客席があるスタジアムで一対一のタイマンなので盛り上がるのだ。

ヴォルド先輩も言っていたが、優勝者は他生徒や教師からもその強さを認められるため本人のステータスになる感じだ。


まあ、俺はどうあがいても予選敗退なんだけどな。


…………

………………

……………………


負けたので帰ろうと思っていたのだが、今回はどうやらエルフ国のお偉いさんのおかげで閉会式まで残らなければならないようだ。


次々と行なわれる試合を観客席から見ていると、ハルが思いの外健闘しており準決勝まで勝ち残っていた。

そう、ハルは強い。

特に魔力操作に秀でており、搦め手を得意としている。

魔力に目覚めてからずっと努力していたのを知っている身からするととても感慨深い。


今の試合も光系高位魔法『光の翼』の高速空中移動で相手を翻弄し、『光の羽』の集中爆撃でトドメを刺していた。


あ〜、不味いな。

体調がすこぶる悪い。

俺はポケットから高魔力回復薬(ハイマナポーション)を取り出すと一気に煽った。



決勝はハルとヴォルド先輩だった。

歓声も男子がハル、女子が先輩と完全に二分されている。


「ハルくん。ただの試合ではつまらないから賭けをしないか?」

「賭け……ですか?」

「ああ、僕が勝ったら君はあの男と別れて僕と付き合う。もし君が勝ったら僕は金輪際君には近付かないと約束しよう」

「分かりました」

「…………」


ハルが若干食い気味に答えた。

余程あの先輩が嫌なのだろう。

男子からはあの男とやらへの怨嗟の怒号、女子からは悲痛な叫び声が上がっていた。


「始め!」


審判の合図で両者が詠唱に入った。


先に動いたのは先輩だった。


「……我に纏うは紫電の王。その顎で全てを喰らい尽くせ『雷龍の顎』!!」 


おお!先輩が大技を仕掛けた!

『雷龍の顎』をあの速度で発動出来るのは実力が伴っている証左だ。

どうやら口先だけのイケメンでは無かったようだ。


紫色の雷が大きな龍の頭部を形作りハルに迫る。

対するハルはその場を微動だにしなかった。

そして、直撃する瞬間に左手を前に出し雷を絡め取った。


「……顕現せよ!『雷神バルド』!!」


相手の初動に応じて高速詠唱の高位魔法で上書きか。

ハルはどこまで成長するのか。


全身に雷を纏ったハルは、美醜を通り越して神々しささえ感じる。

観客は大盛り上がりだ。


「はは。流石ハルくんだ。どうやら僕では釣り合わなかったようだね」

「いえ、単純に会話にならない相手とはお付き合い出来ません」


ハルはそう言って巨大な雷鎚を振り下ろした……



閉会式も試合が行われていた舞台でやるようだ。

表彰者に魔王ミリアから直々に賛辞が贈られている。

それにしても、あのミリアってエルフは控え目に言って化け物だ。

例えこの場の全員が束になって挑んでも短時間で決着が着くだろう。

魔王ってもしかして魔法使いの王って意味だろうか?


そんな事を考えていると表彰がハルの番になった。

ハルに対峙するミリア。

だが、何か様子がおかしい。


「この魔法陣は……隠蔽されておるのか?しかも、何らかの条件で自動で発動しておるのう。……ふむ。一度構築してしまえば後は発動都度術者から魔力を補えば問題ないと。何じゃ、この摩訶不思議な魔法は……」


全部バレてるんだが!?


「この魔法の術者は誰じゃ?」


当然、周りは何を言っているのか分からないので誰も答えられない。

不味い……とても不味い状況だ。


「ではこの娘に直接聞いてみるか……」


俺は急いで懐から出した玉を地面に叩きつける。

物凄い量の煙がスタジアム全体を覆った……





「はぁ、はぁ、はぁ……」

「………」


俺は混乱に乗じてミリアを人気がないスタジアムの外に連れ出した。

ただでさえ息が苦しいのに、更に酷くなった。


「そうか、お主が術者か。名は何と言う?」

「……カインだ。何で黙って付いて来たんだ?抵抗というか反撃出来ただろ?」

「殺気が無かったのでな。それに、あそこで何か起こすなら当事者しかおるまい?」


まんまと炙り出されたって訳だ。

それに、息が苦し過ぎて思わずタメ口になってしまったが、何もお咎めが無い。


「……はぁ。で、俺は何をすれば良いんだ?」

「話が早くて助かるのう。あの魔法陣の事を説明せよ。あの様な超高等な魔法陣が作れるのはエルフ族の中でも一握りしかおらん。……それに、何故あの娘は常に死にかけておる?」


嘘は……通じなさそうだ。

それに、あの多重隠蔽した魔法陣がバレてる時点でどうしようもない。

俺は全てを話す事にした。


…………

………………

……………………



「……産まれて10年其処らでアレを作った?お主、化け物か?」

「化け物じゃない。魔法が得意だっただけだ」

「しかも、人の身でその魔力消費量はあり得んぞ」

「まあ、昔からずっと魔力は枯渇スレスレ。おかげで疲れ顔、老け顔なんて言われてるよ」

「…………魔王の肩書きを返上しようかのう」

「あの時からずっと解決策を模索してきた。今の所、万能完全回復薬(エリクシール)が無いとどうしようもない事が分かっただけだ」

万能完全回復薬(エリクシール)なら我が国にあるぞ」

「えっ?」


……あるの?


「じゃが、流石に万能完全回復薬(エリクシール)はエルフ族の中でも希少品じゃ。タダで譲る訳にはいかん」

「……金は無いぞ」

「金なぞ要るか!妾が欲するのはお主の知識じゃ!」

「……知識?」

「そうじゃ。お主の事じゃから、考案したのはあの魔法だけではあるまい?」


本当に鋭いなコイツ。

確かに、ハルを助けたい一心で考えた魔法が山程ある。

まあ結局、どれもが現状を打破出来るものでは無かったが……


「その反応はどうやら当たりのようじゃの。では急いで取りに戻るとしよう」


こうも呆気なく話が進むと逆に怖くなるんだが……



その後も、ミリアが次々と今後の事を決めていった。


「お主が居れば帰りは退屈しなくても済むかと思ったのじゃが……」


ミリアは俺と一緒に万能完全回復薬(エリクシール)を取りに行くつもりだったようだが、そもそも今の俺ではエルフ国からの帰路で無事で居られる可能性の方が低い。

ミリアに持って来て貰った方が遥かに確実である。

まあ、その対価として俺が考案した魔法を一つミリアに教える約束をした。

どんな魔法かを説明をしている間、ミリアの目がガンギマリだったので少し引いた。


「まあ良い。あの娘が良くなれば幾らでも自由が利くじゃろうて」


何とも恐ろしい事を呟いたので、俺は聞こえないフリをした。




「うむ。ハルとやら、素晴らしい魔法じゃった。今後も研鑽するが良い」

「あ、ありがとうございます!」

「これを受け取るが良い」


あの後、ミリアと別れて会場に戻った。

ミリアは適当な事を告げて何事も無かったかのように続きを再開した。

そして今、ハルに金色の腕輪を手渡した所だ。


「……これは?」

「エルフの鍛冶師が作った特注の腕輪じゃ。無くすでないぞ」

「は、はい!常に身に着けておきます!」


魔力の消費を抑える腕輪か……

俺を気遣ってくれているのだろうか?


「学園長、今回は楽しかったぞ。戻ったら礼を贈らせて貰おう」


ミリアは余程機嫌が良いのか、会場に戻ってからはずっと笑顔だ。

学園長は相変わらずご機嫌取りでヘコヘコしていた。


「では諸君、また会おう」


ミリアは皆の拍手に見送られながら会場を跡にする……筈だった。

そのまま出て行くのかと思ったが、観客席に飛び移りズンズンと俺に近付いて来た。

……な、何だ?


ミリアは徐ろに顔を近付けると俺の唇に自分の唇を重ねた。


……えっ?


「うむ。これは妾が考えた魔法じゃ。これで何時でもお主の居場所が分かるぞ」

「なっ、なな……」

「興味がある異性の事を知りたいと思うのは人族では普通なのじゃろう?」


お前が興味があるのは俺の知識だろうが!


ミリアが去った後も余りの出来事に辺りは静けさに包まれている。


俺はこの後の事を考えて途端に憂鬱になった……





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