第19話 カインの疑念
俺達は再び牢屋にぶち込まれた……
「何も悪い事してないのに……」
「4人で襲い掛かるのは立派な犯罪ですわ」
「我の体が勝手に……この街には何かあるぞ」
何もねえよ!
いや、まさか……モフモフトラップ、モフトラか!?
「先ずは此処から出る事を考えよう」
「?……出るだけなら檻を壊せば良かろう」
「違う!平和的に話し合いで解決してからだ!」
「面倒臭いな」
このまま逃げたら絶対に追われるだろう。
流石に逃亡生活は嫌だ。
「我が故郷で悪事を働く不届き者とは、あなた方の事でしょうか?」
先程の悪行の言い訳を考えていると、白銀の鎧を来た女騎士が現れた。
その言葉通り、女騎士には虎の耳と尻尾が
生えていた。
「私達、悪い事はしてないよ!」
「あなた方のせいであの善良な熊人は精神を病んでしまいました」
「あう……」
レスバ最弱のハルは置いておくとして……
さて、どうしたものか。
「ほう、幻獣種か……」
「竜王ラゼンドール様……。竜種ともあられる御方が何故この様なお戯れを?」
「い、いや。それは……」
ラゼが茶を濁しつつ……
「幻獣種『白虎』……私の寝具『炎羅白虎』の毛皮と関係があるのかしら?」
アイーズさんが無知を装って煽る……
マジでこの人何言ってんの!?
「炎羅白虎の毛皮?……そう言えば先日、東の名持ちが人族の群れに討たれたとの知らせがありましたね。卑劣な罠を仕掛けられ無念の内に倒れたと……」
しっかり食いついちゃってるじゃん!
しかも、まさかの知り合いだった!?
「どの様に討伐されたかはご存知あげませんが、今は私に快適な睡眠を与えてくれておりますわ」
「確かに貴女は人族特有の醜悪な顔をしていますね。目が穢れてしまいそうです。早くこの世から消えて下さいませんか?」
「……このド畜生は殺してもよろしいかしら?」
よろしい訳ないだろうが!
煽り耐性全然無いのに煽るなよ!
煽って良いのは煽られる覚悟がある奴だけだって昔の偉い人も言ってたぞ。
「私を殺す。ふふ……貴女如きでは私は倒せません。そうですね、その腕の炎があれば薪に着火するくらいは出来そうですから、火付け要員として私が飼ってあげましょう」
「それが最後の遺言でよろしくて?ああ、畜生の丸焼きなんて臭くてとても食べれたものではありませんのに……」
……俺はアイーズさんの頭に拳骨を落とした。
「アイーズさん?」
「……も、申し訳ございませんわ。お口にチャックですわ!」
もう遅いよ!
ほら、もう激おこ……じゃないな。
「…………か、カイン様?」
俺と目が合うと急におどおどしだした白虎騎士さん。
此方を見詰める表情には微かに見覚えが……
「……もしかして、シーナさん?」
「カイン様、矮小な私の事などを覚えて下さっていたのですね!」
抱き着いて来たシーナさんを止める事が出来ずにそのまま地面に押し倒された。
「カインくん!」
「……不味いですわね」
「別に竜王がモフモフしたっていいではないか……」
ラゼは離れた場所に座っていじけていた……
シーナさんは昔俺が助けた女の子で、隣の村に来ていた商人の娘だった。
魔物に襲われている所を助けて、隣村まで送り届けただけの短い時間だったが、こうしてお互い覚えているのは嬉しいものだな。
……ん?でも、何で様付け?
場所を移して飲食店のテーブルを囲う。
シーナさんの部下は日頃とは違う彼女の挙動に戸惑っている様だった。
「神への祈りも通じず絶望していた私の前にカイン様は颯爽と現れました。『困ってそうだから助けてあげるよ』と、その御言葉と共に魔物は爆発四散。呆けている私に自らのお召し物を躊躇なく差し出し『怖がらないで。それあげるから、着てくれると嬉しいな』とだけ告げて、優しく私を包んで下さいました」
「うんうん」
「容易に想像出来ますわね」
「そして、私を親元まで導いて下さり、親がお礼を申し出ても『今一番辛いのはシーナさんです。美味しい物でも食べさせてあげてください』と謙虚が舌を巻いて逃げる程の他愛精神。そんな現人神であられるカイン様に生きている内にまた会えるとは……」
現人神って……
ああ〜。段々と思い出してきた。
あの時のシーナさんは魔物に襲われてほぼ半裸だったから、着ている上着を渡したんだったか。
その後も気分が沈まない様に明るい話題を振ったりと、幼いながらに結構頑張った記憶があった。
「はい。今は、聖女様をお護りする聖騎士としてお仕えしています」
やはりそうか。
話し込む途中で、見聞していた聖王国の騎士の容姿に似てるなと思って直接聞いてみると、望みの答えが帰ってきた。
これは、協力して貰う方が早いかもな。
……………
…………………
………………………
「まさか、カイン様がその様な業を背負われているとは……」
俺達の旅の目的を話したのだが、すんなりと了承されると思っていた為、返答を聞いて戸惑ってしまった。
俺のやった事って悪行だったの?
「カイン様にハルさんと言う幼馴染が居なければ、今頃は大勢の人々を救う救世主となっていたでしょう」
ああ?黙って聞いていれば、急に何言ってんだこの人?
「俺が選んで決めた生き方だ。シーナさんがそう思うなら勝手に思っててくれ。俺の行動まで制限される謂れは無い」
「カインくん……」
「カイン様、私がその女を裁きましょう。さすれば考えが改まるかと……」
今の俺では返り討ちだろうが、どうにも一発ぶん殴らないと怒りが収まりそうにない。
俺が一歩近付くとアイーズさんに肩を抑えられた。
「カインくん、私が代わりに殺りますので、どうか冷静に……」
「ハル様に手を出すつもりなら我も黙っておらぬぞ」
「わ、私だって戦えるから!」
これで4対1だ。
流石に諦めるだろう。
「ほう。これはこれは……どうやらハルさんは人々を惑わすサキュパス種でしたか」
「……此処だと流石に不味い。場所を変えよう」
街中でしかも建物内で暴れたら被害が尋常ではない。
俺達……と言うか実質2人は危ない存在ではあるが狂人ではないのだ。
「私は構いませんよ。カイン様の為ならば、如何なる悪意を向けられようとも耐えてみせましょう。この私の命如きでカイン様が目を覚まして頂けるのならば……」
何かがおかしいな……
戦う前に一度冷静になれ。
考えろ……
何でシーナさんが此処までやる必要がある?
信奉者だからか?
だが、その信奉する先は聖女では無くて俺っぽい。
シーナさんは昔の俺を神格化して、落ちぶれた今の俺を見ていられないから態と挑発する様な真似を……
いや、違うな。
そんな無駄な事をせずとも、シーナさんが勝手に幻滅してすぐに俺の元を去れば良い話だ。
そうか。
シーナさんが言っている事が全て正しい可能性……
「先手必勝ですわ!」
俺が考えに耽っている間に俺達はいつの間にか街を出ており、アイーズさんの『聖なる審判』の爆音で我に返った。
「アイーズさん、待ってくれ!」
俺の声は爆音に掻き消された。
シーナさんが3人に攻められているが、何とか凌いでいる状況だ。
白銀の剣と盾を使ってギリギリで致命傷を避けていた。
「カイン様に救われた命だ。カイン様に捧げる事に寸分の迷いも無い!どうか我が思いが少しでもカイン様に届かん事を!」
シーナさんは胸の正面に剣を構え、自らを鼓舞している。
「カインくんは私が護るの!」
「おお!ハル様、凛々しいですぞ」
「……しぶといですわね。ですが、もう少しで」
「やめろ!!!」
俺は限りなく大声で叫んだ……
ぼろぼろになって倒れたシーナさんを高回復薬で治療する。
シーナさんもかなりの実力者だと思うが、流石にこの面子相手の3対1ではどうにもならない。
勝手に戦い始めたハル達は後で詰めるとして、今は少し離れて貰ってこの場には俺とシーナさんの2人だけだ。
「シーナさん、大丈夫か?」
「カイン様を聖女マイナ様の下にお連れ致します。ハルさんの呪いと共に全てが解けると確信しております」
「どうして、そこまで……」
「……カイン様にとって私は気まぐれで助けた内の1人に過ぎないかもしれませんが、私にとってはそうではなかった。ただ、それだけです」
シーナさんはそう言って微笑んだ。
「上手くは言えませんが、今のカイン様は何かに囚われている様に感じます。ハルさんの呪いとそれを解呪しようとしているカイン様に特殊な強制力が働いているような……」
強制力……か。
ネックレスの『魅了』の呪いとは違う、もっと特別な何か……
心当たりが無くはないが……今は確かめようも無い。
「分かった。シーナさんの事を信じてみるよ。取り敢えず聖女に会わないとな」
「ありがとうございます!聖王国への道中は私と団員達で護衛させて頂きます。……必要無い気もしますが」
「トラブル続きで足止めが多いんだ。スムーズに進めるだけで嬉しいよ」
「あはは……」
シーナさんは呆れ笑いだった。