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第17話 カインの評価

結局、アイーズさん達は翌朝になっても現れなかった……


途中から待つのが馬鹿らしくなったので、俺とハルの2人で首都ランデルを観光する事にした。

ハルは眠気が我慢出来なかったのか、待っている途中で俺の肩に頭を預けてスースーと寝息を立てていたので、少しは眠れたと思う。

俺は完徹だが、慣れているので平気だった。




世界樹の枝の上に様々な大きさの建造物が建っている。

枝の数も太さも尋常ではなく、まるで空全体に空中庭園が広がっている様だ。

その視界に入る全てが幻想的だった。


景色を楽しみながら歩いていると、遠くまで見渡せる広間に着いた。

広間の端にあったベンチに2人で腰掛ける。


「此処で休もうか」

「うん。でも、本当に良い所だね!」

「ああ、ずっと急いでたから景色を楽しむ余裕は無かったしな」

「……カインくん。ちゃんと話出来てなかったんだけど、『万能完全回復薬(エリクシール)』があれば私の呪いが解けて、カインくんが魔力を使わなくて済むんだよね?」

「ああ、『解呪(アンチカース)』じゃ無理だったから、かなり特殊な呪いだと思ってる。『万能完全回復薬(エリクシール)』なら大丈夫な筈だ」


そう信じて今迄耐えてきたんだ。

思い込んでいないと心が折れそうだったから……


「私も頑張るね。アイーズさんより頼りないかもしれないけど」

「何を言ってるんだ?俺はハルを一番頼りにしてるぞ」

「えっ?」


えっ?って何だ?

確かにアイーズさんは戦力としては頼りになるが、今迄特に戦力を必要とする場面は無かった。

交渉事は大体失敗するし、あの見た目のせいで第一印象が最悪である。

逆にハルはレスバは弱いが魔法は一通り使えるし高位魔法も問題ない。

人を挑発したりもしないし高笑いもしない。

安心感と言う点で圧倒的な差が開いているのだ。


「で、でも……カインくんとアイーズさんが話してる時、何か通じ合ってると言うか、息が合ってると言うか」


そりゃあ、思ってる事が筒抜けだからな。

アイーズさんは俺が喋るのを待たなくて良いから会話のテンポも良くなる。

そう、まるで長年連れ添った老夫婦みたいに……


!!?

ハルにそう思われたらダメじゃん!!


「違う違う!あくまでアイーズさんは俺の護衛だよ!ちゃんと護れるように近くに居ないといけないし、情報交換も念入りにやっておかないとダメなんだ!」


かなり早口になってしまったが、(やま)しい気持ちなど微塵も無い。

でも、何で俺は言い訳しているんだろう?


「ふ〜ん」


ハルがジト目で俺を見る。

とても可愛いので身悶えてしまいそうになるが、此処で茶化すのは愚策だろう。


「ハル。アイーズさんは侯爵令嬢なんだぞ。平民の俺と何かある訳がないだろ?」

「う〜ん。でも、侯爵令嬢を護衛にしたらダメな気がする……」

「くっ!」


ド正論が胸を貫いた。

そんな事は重々承知だ!

だが、平民は貴族には逆らえない。

護衛をさせろと言われれば従うしかないのだ。


「と、とにかく!アイーズさんとは護衛と護衛対象の関係だから、ハルは心配しなくて大丈夫だぞ」

「……ふふ。分かった」


ふう。切り抜けたか?

世のご夫婦方はこんな駆け引きを毎日の様にやっているのだろうか。

いや、誠実に相手と向き合っていれば問題無い筈だ。


俺が自分を見詰め直していると、クルッポーが広間に降りて来た。


「クルッポー!」


これは、乗れと言う事だろうか?



クルッポーにぶら下がって運ばれていると、そのまま王城に着いた。

すぐにミリアが出て来たが、何やら顔が険しい。


「2人共捕まっておるぞ……」


俺は思わず天を仰いだ……




2人が捕まっている牢に向かう。


「一体何をやらかしたんですか?」

「2人で大喧嘩していたらしいぞ。発見して近付いた衛兵に怪我をさせて、漸く我に返ったそうじゃが……。正直、檻に入れておくのも怖いから早く引き取って欲しいそうじゃ」

「俺、もう嫌だよ……」

「カインくんが言いたかった事が分かった気がする!」


牢屋に着くと、未だに隣同士の檻越しに言い争っていた。

アイーズさんは俺が来た事に気付いたのか、急に背筋を正した。


「何だ?急に大人しくなりおって。やっと我の偉大さに気付いたようだな!」

「……カインくん。私は悪くありませんの!この駄竜が『聖なる審判』を馬鹿にして来たので、その身に刻んで差し上げましたの!」

「おお、カインか!良い所に来た。今日からこの娘はヒエラルキーの一番下だ!」

「……………」

「あわわわわ!」


俺の横顔を見たハルが慌てている。

流石にちょっと感情を制御しきれない。


「本当は2人共此処に置いていきたいんですけど、それだと周りに迷惑が掛かるので一旦回収しますね」

「う、うむ」


ミリアに一言告げ、2人を連れて牢屋を出た。

そのまま首都ランデルを出た後、街道を離れて広い草原に着いた。

到着するまで一言も喋っていない。


「こんな所に連れて来てどうしたんだ?」

「…………」

「悪い、俺が甘かったみたいだ。今から2人にはハルと戦って貰う」

「私!?」

「ハルに勝てたなら2人も今迄通り振る舞って貰って構わない。逆にハルが勝ったらもう2人に決定権は無しだ。俺が言う事には必ず従って貰う」

「分かりやすくて良いな。我は構わんぞ!」

「……カインくん。私は一度ハルさんに勝利していますわ」

「なら、今負けたら尚更恥ずかしいですね。俺なら恥ずかし過ぎて、もう街を歩けないかも」

「……良いでしょう。殺って差し上げますわ」

「ひいいい!!」


ハルは1人でテンパっていた。



先ずは、ハルとアイーズさんから。


「ハル、始まったら俺の言う通りにしてくれ。あと、これを渡しておく」


ハルの右手に『魔力物質化』の魔法陣を刻む。

魔法陣を描くだけなら魔力消費も微量だ。


「これって……」

「『魔力物質化』の魔法陣だ。これで人の顔と声帯を模して魔法を発動待機させてくれ。」


魔力操作に長けるハルだから頼める。

『並列思考』の魔法も合わせれば多分いける筈だ。


「分かった。やってみるね!」


素直なハルと対照的なアイーズさんには心の中で忠告しておく。


戦闘中は俺の頭の中は読まないで下さいね。

実は『聖なる審判』の無限撃ちより、そっちの方がチートですから。


「……お約束致しますわ」


アイーズさんはもう既に戦闘モードの様だ。

左腕の炎がいつも以上に燃え上がっている様に見える。


「では、両者とも準備は良いかの」


いつの間にか来ていたミリアに審判を頼んだ。

「こんな面白そうな事を逃す訳にはいかぬ!」と、はしゃいでいた。


「始め!」



「いでよ、唱える者共!」


ミリアの合図と同時にハルの周囲に幾つかの魔法陣が浮かび上がった。

各々の魔法陣から現れる女性の顔。

しかも、既に詠唱が始まっている。



うおおおお!カッコ良過ぎる!!!

俺は興奮しながら高魔力回復薬(ハイマナポーション)を煽った。


「……所詮小細工ですわ」


アイーズさんが左腕を振るうが、熱線はアイーズさんのすぐ前方で何かに当たって大爆発した。


「なっ!?」


更に、爆風の中から既に発動済みの『氷の大槍(アイシクルランス)』が、アイーズさんの顔面目掛けて強襲する。


「くっ!!」


アイーズさんが横に躱すが、その足元には小さな穴が掘られていた。


「きゃっ!」


バランスを崩したアイーズさんが尻餅を付いた。


「……顕現せよ、『氷神カルス』!!」


辺り一帯が氷に覆われ、アイーズさんの体を飲み込んで四肢の動きを一瞬止める。

アイーズさんが見上げた先には巨大な氷鎚を振り下ろすハルの姿があった……




「やっぱりハルは凄いな」


向こうでピースして喜んでいるハルを見ながら感嘆する。

簡単な指示出しはしたが、魔法発動のタイミングなどはハルに任せた。

初見の筈の魔法物質化を此処まで使い熟せるのは最早才能と言うしかない。

俺ですら数日掛かったのに……



「何じゃ今のは!あれが魔力物質化の進化系か!?」


そう言えば、ミリアには魔法陣の説明しかしてなかったな。


「声帯を物質化すれば詠唱が可能になる。魔力があれば高位魔法の乱れ撃ちも出来るぞ」

「な、何と!?……やはりお主を専属で迎い入れねば!」


聞こえない振りをして、アイーズさんに歩み寄る。


「……完敗ですわ。今後は何でも言う事を聞きますわ」


何でもとは言ってない……

まあ、勝てたのも対策を練ればって感じだしな。

初見なら『聖なる審判』の威力に警戒して身の回りを固めるのを優先する。

実際、バトラー王は魔法障壁で耐えながら次策を練っていた。


「もし、私が初撃で怯まなかったらどうするおつもりでしたの?」

「後2、3個は案がありますけど、試しますか?」

「……やはり遠慮しておきますわ。自信を失いそうです」




さあ、次は竜王だ。







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