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第14話 カインの嗚咽

エルフ国を発つ前に王城内のミリアの自室に寄った。


ミリアに教えたのは『物質化』の魔法陣だ。

悪魔が封印されていた宝箱を開けた時の腕もこの魔法陣を使っている。

この魔法陣の最大の利点は声帯を模して詠唱が出来る点だ。

魔力が続く限り幾らでも多重詠唱が可能なのだ。


この魔法陣を思い付いた当時の俺は色々と想像してワクワクしていた。


『いでよ、唱える者共!』

空中に浮かんだ複数の魔法陣から生える賢者顔が各々に高位魔法を唱えるのだ。


そう、魔力が無くなる前なら可能だったのに……



「おお、これは……」

「魔力の物質化か!ここまで見事に再現出来るとはの……」


王様とミリアが感嘆の声を上げる。

一応、エルフ国でも研究はしていたみたいだが、結果は出ていないらしい。

ミリア達も本当は俺を滞在させて色々知りたかったそうだが、今回は相手が竜王なので手を引いた様だ。

そんな存在である竜王に俺は今から会いに行くんだが……



全く現実感が無いままに翼竜の背中に乗る。

竜族と竜人族は別々の種族である。

遥か昔、竜族の王が変身魔法で人族の男に成りすまし、人族の娘と浮気した。

産まれたのは竜と人のハーフで竜人族が誕生したらしい。

別に大した話では無いな……


竜人族の王は竜人王になるので、今から会いに行く竜王は竜族の王だ。

そこら辺は間違えないようくれぐれも気を付けよう。



翼竜の背には鞍も付いており、クルッポーに比べると段違いに快適だった。

速度も圧倒的に速く、これまた半日程で獣人連合国の首都ゼールに着いた。

便利な移動手段に慣れると歩くのが億劫になりそうだ。


竜王が居るのは首都から更に離れた山の山頂らしい。

今日は一泊して明日向かう事になった。


王城にて立食でのおもてなしを受けたが、やはりアイーズさんとハルは人気者になり俺はポツンと寂しくご馳走を食べていた。


「隣、宜しいですか?」

「あ、はい」

「私はカノンと申します。カイン様は何故あちらに混ざらないのですか?」

「あ〜、この国は実力主義ですからね……」


急に話し掛けて来たのは、バクルトさんと同じ竜人族の女性だった。


「あれだけの実力者のお2人が貴方に付き従うのですから、何か事情がお有りの様ですね」

「……魔法が使えないただの学生ですよ」


今はその学生も休学しているので、最早何者でもなくなっている。


「で、でも!『万能完全回復薬(エリクシール)』を譲って下さったではないですか!」

「……本当は譲りたくはなかったんです。だけど、沢山の人の命を天秤に掛けたら私欲では決めれませんよね」


あれ?何で俺こんな馬鹿正直に喋ってるんだ。

取り繕わないと!


「あ、あれ?俺、何言ってるんですかね。今のは冗談と言うか言葉の綾と言うか……」

「貴方は強いですね」

「全然強くなんて無いですよ……」


いじめに反抗も出来ない。

魔物にもビビるし、他人を信用しきれない。

そして、何よりも……ハルを失うのが怖いんだ。


「いいえ、貴方は強いです。その決断に最大の感謝を致します」

「はは。どうもありがとうございます」


カノンさんにお辞儀してその場を離れた。

駄目だ。此処まで我慢してたのに……


広間を出てバルコニーのベンチに腰掛けた。

早く心を落ち着けて戻らないと……


グチャグチャになった心を鎮めていると、不意に足音がした。


「カインくん、大丈夫ですか?」

「アイーズさんか……」

「全然大丈夫ではないですわね」

「……全部お見通しか」

「続けて下さいな」


確かに俺は自分で選んで決めた。

ハルを死なせないって。

でも、何でこんなに上手くいかないんだよ!

俺だってずっとずっと耐えて来たんだ!

目の前に希望があるのに手が出せないなんて、神様も意地が悪過ぎるだろ!


俺はアイーズさんの胸を借りて声を殺して泣いた。



「……そうですわね。私から言える事は、まだ全てを諦めるには早いと言う事ですわ。カインくんとハルさんも生きていますし、私も居ります」

「……そうだな。アイーズさん、ありがとう」


何時までそうしていただろうか?

俺が落ち着いたので広間に戻った。




「……ふ〜ん」


離れた場所からバルコニーを睨み付ける人影。

その口は笑みで綻んでいた……




次の日、城門前に武装した竜人達の軍隊が並んでいた……


「只今より、竜王ラゼンドール様に『万能完全回復薬(エリクシール)』を届けに参る!道中は何が起こるか分からぬが、最後の1人になろうとも必ずやこの希望の雫を届けねばならない!全軍出撃せよ!」


竜人王の宣言により行軍が始まった。

竜王が居るガイナ山までは徒歩で向かう様だ。


俺の隣にはハルとアイーズさん。

そして、竜人族のバルクトとカノンさんが居た。

カノンさんはバルクトの妹さんで、昨日は1人になった俺を気にして声を掛けてくれたらしい

ぶっきらぼうな対応をしてしまい申し訳なく思っている。


「道中は凶悪な魔物が多い。戦闘は我らに任せて欲しい」


バルクトの忠告も虚しく、アイーズさんが暴れ回って周囲をドン引きさせていた。

……約1名を除いて。


「アイーズ嬢!貴女の様な勇ましくて凛々しい姿の女性は初めて見た。俺と結婚してくれ!」

「申し訳ありませんわ。私には心に決めた殿方がおりますので……」

「何と!アイーズ嬢に見初められるとは、きっと物凄い傑物なのだろうな!俺も燻っては居られぬ、更に精進せねば!」


凄いな。

振られても全く堪えていない。

きっと、自分を更に磨いて再挑戦するのだろう。

俺はバルクトを羨望の眼差しで見ていた。


「……何でそうなりますの?」

「アイーズさん?……そう言えば、あなたの頭の中には自重と言う言葉は無いんですか?」

「知らない言葉ですわ」


んな訳あるか!!

……聞き分けが悪い子にはお仕置きですね。


「……ゴクリ」

「アイーズさん、今後は俺の許可なしに『聖なる審判』を使う事は許しません!」

「ご、ご無体ですわ!お慈悲を!どうかお慈悲を!!」


アイーズさんが俺の腰に縋り付いて情けなく泣き叫ぶ。


「私には『聖なる審判』しかございませんの!私に死ねと申すのですか!?」

「俺がお願いした事を守ってくれるなら何も言いませんよ」

「そ、それは……」


馬車の中での約束は俺も冗談で言った訳ではない。

今後の事を考えて最善だと思った事を提案した。

簡単に破るようなら最初から約束した意味も無くなるし、俺の言葉は守る価値も無いって事だ。


「ご、ごめんなさいですわ。……ちゃんと守りますので……許して下さいませ」


アイーズさんはぽろぽろと涙を零す。

反省してるっぽいので慰めるために声を掛けようとすると、ハルが口を挟んだ。


「ちょっと良いかな?あのさ、アイーズさんはカインくんの下僕か何かなの?」

「……えっ?いや。別にそんな訳じゃ……」

「じゃあ、アイーズさんには好きにして貰って良いんじゃないかな。肝心な時にアイーズさんが動けないのは困るよ」

「……ハルさんには関係ありませんわ」

「関係ないのはどっちよ。カインくんに恩があるから付いて来てるだけの癖に……」

「…………チッ」


あわわわわわ!

2人は特別仲が良い訳では無かったが、こんな時に喧嘩しないでくれ!


「アイーズ嬢。怒った顔も素敵だ!」

「お兄様……」



俺達だけ別行動する訳にもいかず、気不味い雰囲気のまま登山を続ける。

登山道の途中からは魔物も発生しなくなり、全員無事に山頂に着く事が出来た。

山頂には大きな縦穴があり、竜王ラゼンドールは穴の奥で眠っているらしい。

ロープで穴を降り、更に横穴を進むと広い空間に辿り着いた。



其処には圧倒的な『力』があった……








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