第13話 カインの再会
「……ごめんなさい」
「まあ、あれだ。目の前で見せられると我慢出来ないよな」
知らなければ無かった事と同じなだけに、今回の事を全部ハルのせいには出来ない。
「本当に甘いですわね。でも、私も頭に来ていたのでスッキリしましたわ」
「……アイーズさん」
「でも、これからどうするかな……」
今回は3人とも同じ牢屋だ。
便器が仕切られているので多少の配慮は感じる。
今後の事を考えていると、扉を開けて1人のエルフが入って来た。
「下等な人族め!我が同胞をよくも……」
偉そうな人が来た。
すぐに殺すつもりで来たようだが、アイーズさんを一瞥して躊躇したようだ。
まあ、アイーズさんが律儀に捕まってるのも俺に合わせてくれてるだけだし。
いざとなったら、熱線で檻の鉄棒切って簡単に出ていけるからな。
「……そこの男からは魔力を感じられぬが。ん?ちょっと待て……もしかして貴様、カインと言う名か?」
「……ああ、俺がカインだ」
「……ミリア様の元に送るように命令されている。付いて来い」
こうして牢屋から出た俺達は、首都カリムに向かう事になった。
ミリアは俺の居場所が分かるって言ってたから、旅に出る時から魔法で位置を把握していたのだろう。
えっ?何それ、怖いんだけど……
「通常であれば丸3日は掛かるが、空を飛んで行けば半日程で着くだろう」
実は四魔賢人の1人だったハグートさんの提案で、フクロウ型の魔物に運ばれる事になった。
幾ら飼い慣らされているとはいえ、もし足の力緩めたら地面に真っ逆様なのだが……
あと、アイーズさんはどうやって運んだら良い?
「クルッポー!」
「…………」
フクロウ型の魔物が甲高い声で鳴いて羽ばたく。
流石に直には持てないので、アイーズさんは小さな鳥籠の中に入った状態で運ばれる事になった。
中々にシュールな光景だった……
寿命を縮める恐怖体験を味わった甲斐もあり、半日経たずして首都カリムの王城の一角に着いた。
クルッポー達はすぐに戻るために羽ばたいて行った。
とあるベランダで待っていると、バタバタと足音が聞こえ、勢い良く扉が開かれた。
「ふむ、よう来てくれた。約束が反故になる所じゃったわ」
「ミリア!」
早速出迎えてくれたミリアだったが、すぐに足を止めた。
「な、何じゃ。その化け物は?」
「初めましてですわ、魔王ミリア様。私の名はアイーズ・ハミルトンと申します。不肖、カインくんの一番弟子ですわ」
「もしや!ハドラーの『隕石落下』が消えたのは……」
「ああ。まだ認められてないけど特位魔法に匹敵する魔法が使えるんだ」
「おお!そんなもの、妾がすぐに認定させてやるわい」
3人で盛り上がっていたせいで、ハルの呟きは聞こえなかった。
「私が姉弟子なのに……」
ミリアに連れられて来賓室に着いた。
どうやら万能完全回復薬を持って来てくれるらしい。
や、やっとだ!
やっと戻れるんだ!!
手が震えて鼻の奥が痛くなる。
嬉し過ぎて涙まで出て来た……
俺は油断していた……
突如、爆発音が聞こえたかと思うと、建物が揺れた。
「敵襲!敵襲だ!!」
俺達がクルッポーにぶら下がって来た様に、獣人達が上空から攻めて来た様だ。
部屋の窓から僅かに見えたのは、獣人連合国の中でも穏健派と言われている竜人族だった……
俺達は急いで襲撃された場所に向かった。
完全に部外者なのだが、万能完全回復薬を取りに行ったミリアの事も気になるので兵に連れ立って歩く。
「もしかして王族が直接乗り込んで来たのか?」
「そう言えば、今の王は竜人族でしたわね」
「…………」
獣人連合国は王政だが完全な実力主義で、観衆を集めた元で一対一のタイマンの勝者が次の王となる。
この下剋上の仕組みをエンタメ化し、民衆の支持集めや観光資源の一部となっているのが驚きだ。
それに、負けた側の一族は別に粛清される事はなく、次の機会を虎視眈々と狙えるため若干混沌とした仕組みであるのは確かだ。
兵士に連れられて玉座の間に入ると、天井に大穴が空いており、エルフの王の前に数人の竜人が立っていた。
ミリアもエルフ王の側に控えており、此方に向かって謝る仕草をしていた。
「巻き込んで申し訳ない、だそうよ」
まあ、こんな状況の時に訪問した俺達も悪いのだが……
王を護る兵士と竜人達が睨み合って硬直状態が続いていたが、竜人の1人が声を上げた。
豪華な鎧を着ているが、鱗が見える部分の方が頑丈そうだ。
「なあ、国王サンよ。俺達の要求はそんなに難しかったかい?相応の金は出すと伝えた筈だが?」
「先約があると申した筈だ。それに竜人の事情などより魔法の発展の方が遥かに大事だ」
「てめえ……」
今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
身構えていると、アイーズさんに服の裾を引っ張られた。
「カインくんが仲裁に入った方が良いかと思いますわ」
「俺ですか?どうして……」
「どうやら竜人族が要求しているのは『万能完全回復薬』ですわ」
「……えっ?」
一瞬真っ白になってしまったが、アイーズさんの言う通り自分が竜人族の事情を聞かねばならないだろう。
その先約とやらが多分俺だ。
「あの〜」
俺は怖ず怖ずと手を上げながら2人の間に割り込んだ。
「……何者だ?」
「……おお、あの者が!」
ミリアが王に説明していた。
俺は竜人に向き直った。
「俺はカインと言います。先程話していた『万能完全回復薬』の先約が俺です」
「てめえが!?……いや。俺の名はバルクト、現王の息子だ。お前が割り込んで来た理由は何だ?」
どうやらバルクトは殺気を収めてくれた様だ。
普通は此処で当事者が出て来る必要はないからな。
「……取り敢えず、休戦しませんか?」
まさか自分が戦争を起こしている原因だとは思わなかったのだ。
万人を救いたい聖人みたいな思想は持ち合わせていないが、今も傷付いている人や亡くなっている人が居ると思うと一早く終わらせなければならないだろう。
「……此方は構わんぞ」
「……良いだろう。先ずは話を聞いてやる」
俺の考えに気付いたのか分からないが、ミリアが王に進言してくれて、この場は両者とも引いてくれた。
……でも、俺の決定一つで国家間の戦争の継続が決まるのおかしくない!?
場所を移し、再度集まった大広間でエルフ国王以下代表者達と獣人連合国の竜人達が対面で座っている。
俺とハルとアイーズさんは何故か上座に座らされた。
ミリアが進行してくれる様だ。
「始まる前に一言良いか?」
「うむ、何じゃ?」
「さっきから気になっていたが、そちらの娘は何者だ?」
バルクトの言葉で全員の視線がアイーズさんに集まる。
「自己紹介を頼むのじゃ」
「ええ。私の名はアイーズ・ハミルトンと申します。両国間の事は良くご存知あげませんが、もし我が主であるカイン様に仇なすのならば、国ごと燃やし尽くして差し上げますわ。オーホッホッホ!」
オーホッホッホ、じゃねえ!!
主になった覚えも無いし、この前の事全然反省してねえじゃん!!!
コイツ、気でも狂ってんのか!?
「……惚れた。俺の正妻として迎えたい」
惚れた。じゃねえよ!!
今の自己紹介で惚れる要素は一つもねえよ!!
竜人の感性なんて知らねえから!!!
「はあ……はあ……」
「カインくん、大丈夫?」
脳内で盛大にツッコんでいたら疲れてしまった。
ハルだけが癒やしだ。
「ふふ。やはりカインくんは面白いですわ」
「……笑顔も素敵だ」
バルクトがアイーズさんに見惚れているが、アイーズさんにその気は無いらしい。
完全無視を決め込んでいた。
俺とハルの自己紹介も終え、やっと話が出来る様になった。
「先ずは竜人族の事情をお聞かせ願えますか?」
「ああ、我ら竜人族の始祖である竜王ラゼンドール様が不治の病を患っていらっしゃる。エルフ国が溜め込んでいると云われる『万能完全回復薬』が最後の頼りって訳だ」
……で、先約があるなんて聞いたもんだから交渉決裂で戦争か。
えっ?戦争ってそんな簡単に起こるの?
いや、それだけ竜王様ってのが大事な存在なのだろう。
「事情は分かりました。なら、エルフ国と言うか魔王ミリア様と交わした約束を守れれば問題無いですね」
「そうじゃ。妾とした約束を守るなら此方は問題ないのじゃ」
ミリアとの約束は『万能完全回復薬』を貰う代わりに俺が考えた魔法陣を教える事だ。
内心は悔しくて仕方ないが、これで戦争が収まるなら……
今回は運が無かったと諦めるしかない。
「……カイン殿、恩に着る。そうだな、では竜王様に紹介もしたいので我が獣人連合国に付いて来てくれるか?」
「えっ?」
こうして、殆どエルフ国を素通りする形で獣人連合国に行く事になった……