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第11話 カインの傍観

アイーズさんの全身が蒼い炎に包まれている。

良く見ると体の傷が塞がり血が止まっていた。


「……一体何をした?」

「教えませんわ!」


アイーズさんが熱線を自身の足元に放ち、爆風と共にバトラー王に迫った。


「魔法障壁が邪魔ですわね!」


至近距離で放った熱線は魔法障壁に阻まれ爆発するが、アイーズさんは止まらなかった。

更に接近しながら熱線を連射し魔法障壁を削って行く。

そして、障壁が途切れた瞬間に右手を伸ばしてバトラー王の首を掴んだ。


「存分に味わってくださいませ!」

「くっ!」


2人は密着したまま大爆発した……



両者共に爆風で吹き飛ばされるが、アイーズさんが先に立ち上がる。


「まだ『隕石落下(メテオ)』を拝見しておりませんわ。さあ、お立ちになって!」

「……小娘が。調子に乗るなよ!」


バトラー王はボロボロになっていたが、まだ動けるようだ。

あの一瞬の間に魔力で体の表面を覆ったのだろう。

だが、ダメージは相当な筈だ。


「それが貴方の本性ですか?ひりついた殺意が伝わって来ますわね」

「……どうやら熱くなってしまったようだ」

「あら?」

「お前の望み通り『隕石落下(メテオ)』を見せてやる。せいぜい防いで見るがいい」


バトラー王はアイーズさんに頭の中を見られているのを思い出して冷静になったようだ。

確かに、ただの魔法のお披露目だった筈が殺し合いになってるからな。



バトラー王が詠唱を始める。


「星に導かれし数多の精霊たちよ……」


俺も特位魔法は初めて見る。

どうやら詠唱中は無防備になるっぽいので、誰かに護って貰う必要がありそうだ。


「……その理を破り、我が破壊の礎と成らん!『隕石落下(メテオ)』!!!」


詠唱は終わったがすぐには何も起きなかった。

ハドラー王は地面に両手を突いて息を切らしている。


すると、急に大気が震え出した。


ゴゴゴゴゴゴ……と聞いた事が無い音が辺りに響いている。

魔法名から、隕石が空から来るのは分かっているのだが、本能が頭を上げたくないと言っている。


諦めて空を見ると、そこには大小様々な大きさの岩と超巨大な岩の塊が、赤い炎を纏いながら此方に向けて落ちて来ていた……

紅く染まった空と飛来する流星群。

これが世界の終焉の光景だろうか?


「さあ、来るがいいですわー!!!」


俺の現実逃避も虚しく、アイーズさんは隕石に立ち向かうつもりのようだ。


いやいやいや!?

無理だから!!

跡形も残らないから!!!


「アイーズさん、逃げろ!!」

「一度だけ試させて下さいませ!」


何か策でもあるのか?

あの隕石群を目の前にしてその胆力は異常だ。


アイーズさんは先ず前方に熱線を放った瞬間に曲げて熱線で輪を作った。

作業の様に次々と同じ事を繰り返すと、次第にそれは球体に変わっていく。


「ぐぐぐ……言う事を聞きなさい!」


熱線を曲げる事が出来るのも初めて知ったが、あれを維持するのが相当に大変な事は容易に想像出来た。


その後もアイーズさんは熱線を放ちながら球体を制御していく。


「これで……終わりですわ」


出来上がったのは巨大なエネルギーの塊。

それは、まるで小さな太陽だった。

あの中には一体どれだけの熱量があるのか……


「たかが隕石如き……消し去りなさい!!!」


アイーズさんが球体の制御の為に翳していた腕を前上方に押し込むと、太陽擬きが隕石に向かって発射された。

隕石と衝突した瞬間、球体の内部の『聖なる審判』が連鎖爆発を起こし、抑えつけられていた熱エネルギーが放出された。

周囲の物体は超高熱により瞬時に融解し蒸発、発生した熱波と衝撃波が辺り一帯を赤く染めながら全てを薙ぎ払って行った。


この時、爆発により発生した大きな茸雲は隣国からも視認出来る程であった。


…………

………………

……………………



荒野には何も残っていなかった。

超巨大な隕石は跡形も無く消し飛び、周囲の隕石も衝撃波で砕け散ったようだ。


近くに居た俺とハルは魔法の巻き添えで死ぬ所だったが、ハルの土系中級魔法『落とし穴(フォールダウン)』で穴の中に逃げ込み事なきを得た。


「ば、馬鹿な……。私の特位魔法が破られただと……」


バトラー王も生きていた。

護衛の騎士達が塹壕から這い出ているのを見ると、やはり地中に潜ってあの熱波と衝撃波に耐えたのだろう。


アイーズさんがパトラー王に歩み寄る。

全身に広がっていた蒼い炎は左腕に戻った様だ。


「何も悲観する事はありませんわ。何せ私は1ヶ月前まで初級魔法も使えないただの本好きの学生でしたの。ですが、あちらに居るカインくんが私をこの高みにまで導いてくれたのです!」


物は言いようだな。

まるで全ての元凶が俺であるかの様な自然な誘導。

今後、風評被害が起こる前に何とかしなければ……


「ふっ。特位魔法如きで慢心するなと言う事か……」


バトラー王が俺を見て自嘲の笑みを浮かべた。

さっきから俺は一言も発していない。



 

その後、荒野からそそくさと撤収し城に戻った。

俺達はバトラー王の前に跪いていた。


「カインよ、お主の魔法理論は実に興味深い。出来れば我が国に賓客として迎え入れたい」

「申し訳ございません。身に余る光栄ではございますが、何分先を急ぐ旅ゆえ……」

「そうか……。では、エルフ国からの帰りに寄ってくれる事を期待している」


戻る最中にバトラー王に俺の魔法に対する持論を語ると、思いの外食い付いて来た。

やはり魔王ミリア然り、魔法使いの実力者達は知識欲が凄まじい。



何とかバトラー王の勧誘を回避し、城を去る事になった。

バトラー王からは餞別として専用の馬車を手配して貰った。

どうやらモチベーションを高めてくれたお礼だとか。

御者はアイーズさんに教えて貰いながら交代でやる事になった。




城下町で旅の消耗品を補充する。

道具屋を跡にして露店を物色していると、可愛い感じのネックレスがあった。

ハルにプレゼントしようかな……


「カインくん?」

「えっと……。ハルの機転で助かったからそのお礼だ」

「ありがとう!凄く嬉しい!」

「着けるか?」

「うん!お願い……」


ハルが後ろを向いたので、慎重に首にネックレスを着ける。


「えへへ……」

「……え〜っと、カインくん。私、凄く活躍したと思うのですが……」

「活躍?」

「ええ。バトラー王と戦って勝利しましたわ」

「……えっと、そもそもアイーズさんがバトラー王と戦う必要なんて無かったのに、散々煽って怒らせてましたよね?あと『隕石落下(メテオ)』に関しても完全な自己満足ですよね?確かにアイーズさんの特位魔法は凄かったですが、失敗したら詰んでましたよ……」

「……正論が身に染みますわね。……って、特位魔法?」

「相手の特位魔法を相殺出来るなら特位魔法ですよ。あれはもう高位魔法の域を超えてますし」

「ふふ。そうですか。私が特位魔法を……。ふふ」


それから暫くの間、アイーズさんが急に思い出し笑いをするので怖かった……


こうして、新たな特位魔法が誕生した。






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