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第10話 カインの投獄

「助けて頂きありがとうございました!」

「いえ、私は何もしておりませんわ」


アイーズさんが集団の代表の方にお礼を言われている。

馬車の集団はやはり商隊だった。

都市間を移動中に魔物の群れに襲われたらしい。

案の定、アイーズさんを見て最初は新手の魔物が現れたかの如く警戒されたが、俺が掻い摘んで事情を説明すると納得して貰えた。

まあ、実際にはアイーズさんの『聖なる審判』を見せて黙らせた。

威力もそうだが見た目のインパクトもド派手だからな。


幸い死者は居なかったが、怪我をした護衛が多かったので俺とハルで治療して回った。

怪我人の中には女性の護衛も居たので俺が高回復薬(ハイポーション)を使おうとしたら2人に止められた。

何故だ!?


護衛は全員冒険者でその中には魔法使いも居たのだが、アイーズさんは質問責めにされていた。

そして、俺は護衛と冒険に何の関係があるのかを考えていた……



商隊は今日はこの場でそのまま夜営するそうなので、ご相伴に預かる事にした。


本来は日が暮れるまでに食事を済ませないと行けないが、今日はアイーズさんの常時揺らめく蒼い炎のおかげで、夜遅くまで盛り上がっていた。



「ふう。疲れましたわ」

「疲れたよ〜」

「2人共、お疲れ様」


2人は人気者で誰からでも声を掛けられていた。

アイーズさんも相手に敵意が無かったので無下に断れなかったのだろう。

俺は2人に先程淹れた紅茶を手渡した。


「ありがと〜。……この紅茶美味しい!」

「カインくんは本当に気が利きますわね。執事になってもやっていけそうですわ」


一応、魔法使いなので……


「それより、向こうの方で何回も爆炎が上がってましたけど……」

「ええ、冒険者様から高位魔法を使う魔物の対策を考えたいと言われまして……」

「私も3発までは耐えたけどダメだった……」


ハルも一緒になって騒いでいたようだ。

3発耐えるのも凄いけどな。


次第に各々がテントに戻ると、場は静かになっていった。

紅茶を飲み終えた俺達も休む事にした。

ハルとアイーズさんが同じテントで、俺は1人用だ。


「おやすみ」

「おやすみ〜」

「おやすみなさいですわ」


一応、警戒して起きておく事にした。




朝方、馬の蹄が地面を叩く音が響いていたのでテントから出ると、商隊は馬に乗った騎士達に囲まれていた……


そして、俺達は投獄された。



勿論、商隊の人達は俺達を庇ってくれたのだが、冒険者と騎士が一触即発になった。

アイーズさんが身分を明かして場を収め、俺達を雑に扱わない事を条件に騎士に同行した感じだ。


「この騎士を倒したらバトラー国王と戦えそうですわね」

「隕石は撃ち落とせるのかしら?」


アイーズさんも最初はそんな事を言っていたので悪いとは思ってなさそうだけど。




「力を手にしたら試したくなるのは人の性ですわ」


隣の牢屋でアイーズさんが戦闘狂みたいな事を言っていた。

まあ、気持ちは分からなくもないが……


「私達悪い事してないよね?」

「夜中に集団で爆音響かせながら騒ぐのは迷惑以外の何物でもないけどな」

「あう……」


街からは離れていたから大丈夫だと止めなかった俺も同罪だ。

騎士が来たと言う事は誰かが近くに居て通報しに行ったのだろうし。


俺達が投獄されたのは、バイスデール中立国の首都カシムにある王城の地下だろう。

距離と乗ってきた馬車の速度から計算したから多分合ってると思う。

牢屋内も綺麗だからアイーズさんの身分が証明されるまでの仮の牢屋かな。


「私達処刑されちゃうのかな?」

「処刑されるくらいなら、暴れ回ってバトラー国王に一太刀浴びせますわ」

「わ、分かった。私も暴れるから!」


アイーズさんは状況が分かっているのにハルを煽っていた。



「……それは穏やかじゃないな」


声をした方を向くと、豪華な服を着た壮年の男が立っていた。

周りの側近達が近付かないように声を掛けている。


魔力を探っているが、明らかに彼だけ格が違う。

間違いない。

彼がバトラー国王だ!



「あら?国王自ら出向いて下さるとは。光栄の極みでございますわ」

「……アイーズ・ハミルトン。我が国に何をしに参ったのだ」

「それは勿論貴方を倒すため……」

「うおおおおおおい!!!」


俺は必死に叫んだ。

今迄で一番大きな声を出したかもしれない。

俺の大声に側近達は警戒を強める。


「……冗談ですわ」


冗談ですわ……じゃねえ!

余り巫山戯てるとまた特訓するぞ!


「!!?……是非!是非お願いしますわ!!!」


アイーズさんの鼻息が荒くなったのが分かった。

もうこの人嫌だ……


「ふむ、そうか……」


バトラー王が考え込む。


「……ふん。この炎と心中したければどうぞお好きに…………あっ!」


……どうやら相手の方が上手のようだ。



その後、俺達は王宮の来賓室に連れて来られた。


俺達の事情を説明する。


「エルフ国に行く道中だったか……」

「はい。ただ通り過ぎる予定でした」

「私達、迷惑は掛けたけど悪い事はしてません!」

「だが、人気は無いにせよ。暴れ回ったのは事実であろう?」

「あう……」


ハルは本当にレスバが弱いな。

俺はアイーズさんに期待する。


「隕石を落とす御仁に比べれば全く対した事はございませんわ。オホホ」

「……………」


煽ってどうするんだよ!

バトラー王が眉間に皺寄せて黙っちゃってるじゃん!


「あの!アイーズ様は『聖なる審判』に取り憑かれ、おかしくなってしまわれたのです!」


両者とも期待出来ないから俺がやるしかないだろう。

アイーズさんも反論出来ないように言葉を選ぶ。


「力を手にする前は本を愛する可憐な女性でした。それが今や人や物に対して破壊の衝動抑えられなくなってしまわれました。これは『聖なる審判』のせいなのです!」


アイーズさんの睨みはスルーだ。


「……ふむ。ではその『聖なる審判』を私が屈服させてやろう。さすれば元に戻るであろう?」

「オーホッホッホ!願ってもないですわ!隕石ごと蒸発させてあげますわよ!!」


ハドラー王の煽りに全力で応えるアイーズさん。

貴族特有の高笑いが部屋に木霊した。

……コイツもう本当に狂ってるんじゃないか?




国王が首都を出る事になり、護衛で騎士団が出動し何事かと民衆が集まった。

民衆に見送られ、バトラー王が手を振っている。


そして、一刻後……

首都から離れた荒地に2人は立っていた。

何でこんな大事になってるんだよ……



「全力で来て貰って構わんぞ。すぐに終わらせるのはつまらんから、最初は手を抜いてやる」

「……ああ、力が溢れますわ。今迄抑えていた衝動をやっと解放出来るのですね」


バトラー王の煽りは全くアイーズさんに聞こえていなかった。

バトラー王も気付いていると思うが、今のアイーズさんはかなり強いぞ。




初手はアイーズさんだ。


燃え盛る左腕から『聖なる審判』の熱線が放たれ、バトラー王の魔法障壁に当たり大爆発した。

周りの騎士達から動揺が起こる。


「流石に強力だな……!?」


間髪入れずに襲い掛かる熱線。

爆風が散る前に更に大爆発が起こった。


「……ちょっと待て!!」


3発目は腕を横に薙ぎ払い広範囲の爆発が起きた。

爆風と砂煙が周囲に立ち込めて、外野からは状況が全く分からない。


更に次々と熱線を放つアイーズさん。

その顔は歓喜に震えていた。



暫く時間が経過してもアイーズさんは攻撃の手を緩めなかったが、単調になった攻撃の隙間を狙ってバトラー王が砂煙から飛び出した。

魔法障壁の張り直しが追いつかなかったのか、所々に傷を負っていた。


「久々に恐怖を感じたぞ!」


鋭いドリル状の土塊が数本バトラー王の周囲に浮かんでいる。

彼がアイーズさんに指を向けると土塊は視認出来ないスピードでアイーズさんの太腿を貫いた。


「ぐっ!!」


あれは、重力魔法を複数合わせてるな。

元は土系中級魔法の『アースニードル』だが、土塊の先端を変形させ空気抵抗を軽くして更に重さを軽減、相手との中間に重力を発生させてお互いを引き寄せているっぽい。

通常の『アースニードル』では絶対にあんな速度は出ないからな。


「他国の令嬢を傷付けるのは余り好ましくない。大人しく負けを認め給え」


そう言いながらも次々とアイーズさんの腕や肩を土塊が貫いていた。

視認出来なければ避けようが無い。


「……私には『聖なる審判(これ)』しかありませんの」


アイーズさんが何かを呟いた瞬間……

彼女を中心に大爆発が起こった。


アイーズさんは一体何を……


爆風が晴れて現れたのは全身が蒼い炎に包まれたアイーズさんだった……







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