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VirtualGT シーズン2  作者: ラドロ
8/15

第6話 デュエルスタート! 開幕戦・岡山 決勝ー前編ー

どうも!ラドロです!今回はついに、開幕戦決勝レースが始まります!


それでは、どうぞ!

4月ののどかな昼下がり。仮想の岡山国際サーキットにはその穏やかさとは対照的に低いエンジンの唸り声が響いていた。

500クラスの15台、300クラスの20台、計35台ものマシンがスタートの瞬間を今か今かと待っている。俺もその一人だった。

「あの時通りにやればいいんだよな」

「あぁ、そうだ。…あと1分もしないうちにフォーメーションラップ開始だ、準備してくれ」

「了解」

久々にワクワクする。

手元には3年前と同じ戦略、3年前と同じスターティンググリッド。周りにいるのは3年前とは違った対戦相手、対戦形式。

「フォーメーションラップ開始だ。順位を維持したままマシンを始動させてくれ」

始まった。戦いの、最初の1ページが。そう思うと緊張が止まらない。

(落ち着け俺。じゃなきゃ、タイヤを適切な状態に持っていけない)

普通レースの始まりはスタート時と呼ばれているがそうじゃない (と思う)。このフォーメーションラップ時にどれくらいタイヤを温めるのか。やりすぎたり、乱暴な蛇行運転では必要以上に摩耗してしまうし、摩耗を恐れてただコース通りに進むのではタイヤに熱が入らず、元も子もない。フォーメーションラップは静かな戦いなのだ。

「…どうした?マシントラブルか?」

「ん?…あぁごめん、ぼうっとしてた!」

「ったく、しっかりしてくれよ…今お前がスタートできないと判断したマシンが2台、先行した。今のうちなら間に合うから2台だけ、抜いておくんだ。それ以上抜くとペナルティだからな」

「了解」

ギアを入れて、崩しかけた隊列をもとに戻すべく、俺は静かなる戦いに遅れながら参戦した。



「大輝、KONが今動き始めました。トラブルはないとのことなのでポジションを譲ってください、元通りに戻します」

「わかった」

(…何があったんだ)

俺はヒヤヒヤしていた。開始前からライバルであり戦友のKONがスタートにもたつき、不穏な何かを感じずにはいられないのだ。しかし隊列はどんどん先を急いでゆく。そして300クラスの隊列が動き出した時、予感は的中してしまった。

『さぁ300がスタートですが…あっとどうした!トップのR8も動いていない!』

『これ、KONの時みたいに動き出せますかね』

『いやぁ、どうでしょう!これはまずいのではないでしょうか!!こうしている間にも2番手以降のマシンが恐る恐るではありますが、オーバーテイクしていきます!』

何があったのか。唖然とする俺の前に中継で不可解な無線のやり取りが流れ始めた。

《大丈夫?直、何があったの?》

《*****!***、*******!》

《な、なに?聞こえないよ》

《******?******……ブッ》

(…本当に何なんだ?)

自分のチームのことそっちのけで画面に釘付けになってしまう自分がいた。本当はそっちにももっと気を割くべきなんだろうけど気になるものは気になる。固唾をのみながら続きを待つと

『えー…今、情報が入りました。トップだったR8はかいせ…電気系統のトラブルとのことです』

『残念ですねー…せっかくトップからスタートできたのに…』

『ええ。マシンをフォーメーションラップの間に撤去し、スタートするとのことです』

「…まーじかよ…」

実況は電気系統の、と言い直したが本当はその前に言いかけた回線の問題というのが原因だろう。そしてそれは俺たちも全く無縁な話でもない。

「大輝、なにか違和感はないか?」

「あ?違和感?」

「そうだ。ステアリングを握る感覚、音、ラグ、それらに少しでも違和感がないかを答えてほしい」

「ないよ。全然」

「そっか。わかった。ただ、少しでも異常があれば言うんだ。さもなくば300のR8みたいに強制リタイヤとなってしまう」

「R8がリタイアしたんだ?…了解」

そしてついに隊列はスタートの瞬間を迎えた。まずは15台のマシンがゆっくりとメインストレートを規則正しく整列した状態で突き進む。その様子はとても静かで、まるで世界が息を止めているかのような感覚に襲われる。

そして、シグナルが赤から緑に変わった。

それを合図に15台はそれまでの規則正しさが嘘のように隊列を崩し、誰よりも早く1コーナーに飛び込まんと加速してゆく。

我らがタキオンはというと…

「あぁ!兄貴、加速が少し遅れてる!」

「けど、1コーナーへいい位置を取りに行ってる。…さぁどうだ」

「!ブレーキングで取り返し…でもって更に前に仕掛けた!」

「んん〜、けど抜けないか、まぁKONも今のブレーキングはかなりすごかったし、無理ないか」

結果的に好スタートを決めた。



そして300クラスも

『さぁ今スタートが宣言された!VirtualGT、シーズン2開幕戦岡山!

まずは繰り上がりでトップスタートとなったTaPeレーシングのNSXが!マシンを端に寄せながらいいスタートダッシュを決めた!そのまま18台もの後続を率いて1コーナーに突っ込んでいった…

あぁぁぁぁ!?1台が吹っ飛んだ!なんだ!?』 

『あ、AnkGT-Rじゃないですか?』

『え、あ、ほんとだ!実質的に5番手スタートだったのに!なんということだ!波乱の止まらないGT300クラス!なんとか砂でボディを汚しつつもGT-Rが大差で最下位復帰したところで、今度こそ、スタートです!』

いきなり地獄へと叩き落されたこの展開にはドライバーも怒りを隠さなかった。

「なんだよ今の!どいつかはわかんねぇけど、思いっきり当ててきやがった!」

「拓人、落ち着け。今はマシンの状態を確かめながら確実に走ってくれ」

「わかってるよ!そっちは早く犯人突き止めて抗議してくれ!」

「バカかお前ぇ!犯人探しなんてしてる暇も意味もねぇんだ!こっちがモニターするから、てめぇは走れ!」

「…」

そして、トップ集団に注目を戻すと、すでにクイーンはVF1で優勝経験をもつ強豪MOAを捉えようとしていた。

第2コーナーを抜けた時点でR8は前のAMGに追突しそうなくらい接近していたが、その後のぐにゃぐにゃした直線区間では少しずつ離されてしまっていた。しかし驚異のドライビングを魅せたのはその直後のことだった。

道がまっすぐになったその一瞬でR8はAMGにブレーキングで車間距離を詰め寄った。なんと減速の開始がAMGよりコンマ5秒も遅らせていたのだ。

そうすると本来なら若干のオーバーランを余儀なくされ、コーナーからの脱出が不利になるところだが、ここがR8の強みを発揮するところ。適正域にまで急減速したマシンは前方車両を突っつくほどの勢いで直線を立ち上がり、後続という位置関係によって少なくなった空気抵抗(スリップストリーム)が真紅のマシンのストレートスピードを後押しした。

いくら直線が有利と言ってもR8と比べたら、の但し書きがつくAMGではさすがに防ぎきれなかった。バックストレートで並ばれたあと、ヘアピンでまたしても驚異的なブレーキングを持ってオーバーテイク。これで表彰台圏内に詰め寄った。しかしこの後、この真紅のマシンはその程度ではとどまらなかったのはまだこれからの話だ。



レース3周目。俺はいまだ前の見えないまま孤軍奮闘していた。

(くっそぉ…なんでいきなりこうなるんだ…!)

「拓人、聞こえるか?」

「…はい、なんですか」

「この周ピットインだ」

「!!?」

なぜだ。いくらなんでも早すぎる。

もしや俺はショックのあまり幻聴を聞いたのだろうか。そう思いステアリングを回しながら聞き直したが、そうではなかった。Ank監督によると

「どうせ周りがいないんだから燃料だけフルになるまで給油して、タクの出番(スティント)をロングスティントに変更する」

とのことだった。なるほど、セーフティーカーが入り、位置関係がリセットされるようなことがあったときにはその作戦は間違いなく成功する。

若干浮上した気分で最終コーナーの前にある分岐へと入った。

ブレーキを踏みながらステアリング上にある、<limit>と書かれた黒いボタンを押す。

キューーーン…と音を立てながらエンジンが回転数を下げ、速度計が80を指したところでそれは止まった。正式にピットに入ったことになる白線を超えてから右に90度旋回するとそこにはまだガラガラなピットスペースが広がっていた。しかしその中で1箇所だけ、慌ただしくNPCが出てくる箇所があった。そう俺のチームだ。早めにガレージ側にマシンを寄せ始め、より正確に停車した。それに応じてNPCが給油を始め、速度計の中心部についた小さなゲージの空白がどんどん小さくなるのを見ながら、それが消える瞬間を待つ。残り10ドット…5ドット…

(今だ!)

停車してからずっと踏んでいたクラッチペダルをアクセルに踏み変え、ピットをあとにした。

「タク、SCが入らない限り、残り9周になるまで引っ張るからな。頑張れよ」

最長であと15周。そう脳みそに叩き込み、再びコースインするのだった。



コントロールタワーを7回目に通過したときのことだった。その時、俺はペースが遅いくせに危なっかしいブロックやドライビングをする前のNSXに手こずっているところにその無線は飛んできた。

「大祐。これからGT300と1回目の遭遇が始まる。ロスなく、抜いていってくれ」

「あぁ、了解」

GT300クラスはGT500クラスと比べて直線もコーナーも天と地ほどのスピード差がある。その状態で周回を重ねるといずれ鉢合わせる時があり、その時が今やってきたということだ。その感覚はまるで学校のマラソンで男女別にトラックを周回し、男子の集団が女子のそれに追いつくのと同じだが、決定的に違うのは追い越しだ。300のマシンも500に追いつかれたとはいえレースをしている。レースをしているからにはコンマ1秒もロスをすることはできないし、早く走りたい。だから、いかにお互いがうまく譲歩しあって追い抜き、追い抜かせるのかが、今シーズンのVGTでの鍵だ…とヒロが言っていた。

(いきなりうまくいくわけねぇからなぁ…できればコーナー前後に遭遇したくないが…)

しかしそんなときほどツキというものはうまく回ってこないものだ。2コーナーを切り抜け、その先が見えてくるとコース上には500クラスのそれと比べて遥かにガタイのいいGT-Rがいた。

(こりゃぁ…この先のヘアピンで抜くことになるか)

そう推察した俺はいままで使うことのなかったボタンに手をかけた。するとだんだん姿の大きくなるGT-Rの背中が白く点滅した。そうパッシングである。マシン前面のランプをハイビーム状態で点滅させることで相手に簡単な意思疎通をはかる。またその近くにあるウィンカーを使い、”次の右コーナーで右側に切り込むぞ”と暗示する。すると見事それが伝わり、周回遅れは車1台ちょっとのスペースを開けてブレーキランプを点灯させた。

それを確認し、俺も一気に切り込む。なるべく互いのロスが少ないように気を使いながら立ち上がり、追い抜いた。すると

(…ん?)

バックミラーが黄色いハイビームを短い間隔で何回か反射した。まるで見送りのメッセージのように…

(フッ、初戦から粋なことしてきやがる…)

俺もギアを上げつつ、遠ざかる同胞にハザードを焚いた。意識はとっくに前を向いていた。

どうやら図ってか図らずか別メーカーであるNSXのことを足止めしてくれていたらしい。これまで以上に車間距離が小さい。スリップストリームを使って限界域のギリギリまで後ろにひっつき、しかしそれで終わらない。

(このまま行けば…また極悪ブロックされるだろうな…)

実際には少しきついだけだが、当事者としてはかなりイライラするやり方だった。そしてこういうブロックは()()()()()()

流石に後ろにいるのには限界を感じた俺は一旦次の右コーナーでオーバーテイクすべく、マシンをやや()に寄せる。もちろん前もそれにならってきた。

(しめた!)

ここはブレーキングポイントの少し前。しかし急にステアリングを右に回し車線を変更しながらプレーキングポイントに突入。レイトブレーキでズカズカと相手が潰そうとしたスペースに入り込み小さく回り込む。

そして立ち上がりでは牽制しながら悠々と自分のラインを取り、次のコーナー、次の周回遅れの集団へと意識を切り替えてゆく。2つほどコーナーを抜けて、視界がひらけると、そこには数台が固まった状況が奥に見て取れた。

まずは短いとはいえ貴重なストレートで1台に並びかける。程なくその姿をフロントガラスの先からバックミラーの中へと追いやると今度はレイトブレーキで2連ヘアピンに突っ込む。1つ目のコーナーの外側から別の1台をパスすると、そのままその先にいる1台に加速で並びかけながら次のコーナーに飛び込む。ここは1つ目と逆に曲がるコーナーであるため今度は内側からスパッと前に出てみせた。

バックミラーからライバルのNSXの様子を伺うとタイミングの悪さもあって追い抜くことはできず、ただあおり運転のごとく衝突ギリギリの距離感で虚しくパッシングするだけにとどまっている。

(…そういえば、今の3台、抜くときにパッシングするの忘れてたな)

一歩間違えば衝突していたかもしれないと思うと、やっぱり今の俺にツキは回ってきているのかもしれない。そう思いながら、8回目のメインストレートへとアクセルを踏み込んだ。



『さぁそしてGT300クラスはこれで周回数が7周目に入ります!

トップは、TaPe NSXが死守していますが、その真後ろについたRCFが虎視眈々とその座を狙っている!

さぁどうだ!直線ではほぼ互角の勝負!素の速さではNSXがリードしているが、RCFはその後ろにいる分スリップストリームを浴びている、つまり空気抵抗が少ないので結果として拮抗しているのでは…っとおーーっと1コーナーで勝負に出た!レイトブレーキでアウト側に並んで…しかし仕留められない!さらにそこを2台争っているうちに差を詰めたR8に後ろを取られた!次は左コーナーに切り替わるが…ここでは順位変動はありません。これでNSXは追い詰められていた展開から一転、逃げの体制に入ることができました。しかし攻めの体勢にいたRCFは逆に今めちゃくちゃきつい!少し左右に揺れる道を進んでR8と少し差を築き上げますが、このパターンはもしかして、もしかするのか!?

バックストレート手前のヘアピン、入ったーーー!またしてもR8だ!

R8がズバッとインを指してサイドバイサイドのまま700mの直線に入ってゆく!加速力勝負!まずはR8が頭ひとつ抜きん出ていくが…RCFがジリジリと盛り返す!そして…追い抜いたかな?追い抜き返しましたね!やや右に幅寄せして牽制しています。ふたたびヘアピンですがこれにはR8も…ってえええ!インベタのさらにインをついてレイトブレーキングだぁ!!若干苦しいラインだが前にでた!立ち上がりは…?前だ!完全にポジションを奪った!これでR8が優勝まであと一歩に詰め寄った!

さぁ、無線です!鬼神の如き勢いで追い抜いて見せたクイーンのやり取りです』

「望美!いいよ!この調子この調子!」

「ありがとう。どうする?このあと。このままじゃコース上で抜く頃にはピットインのタイミングだけど」

「追いついたらピットね。追いつくか向こうがピットインしたらうちらもそれに合わせる感じで」

「オッケー」

シミュレート2が功を奏しているのか完全にブレーキングで他を圧倒するR8。普段は冷静な高島も興奮を隠せない。しかしここで予想外の事態が彼女たちに襲いかかる。

『さぁ、現在GT500はトップのKONがポールスタートのベータエナジーを大きく突き放しており、ベータは未だに300クラスの集団に手こずっております』

『彼多分かなり大変だと思いますよ、当然ですけど300のマシンも1台1台等間隔で走っているわけではなく、いくつかの集団に分かれてますからね。抜くときは数台を一気に抜かないと行けないわけです』

『そうなんですね~。お、今ベータは2コーナーのさきのくねくねとした直線区間でオーバーテイクを狙っていますが…あ!』

『あかん、それはだめだ!…接触した!』

『あぁぁぁぁぁ!!大クラッシュ発生だ!!!

ベータエナジーが無理に追い抜こうとして300と接触!そのままお互いに弾かれてスポンジバリアに突っ込んだ!!』

『しかもここはフルアクセルで突っ走れるとはいえ先の見えないブラインドコーナーですからね。中途半端にクラッシュしたマシンがコース上に残ってるこの状況では二次被害も考えられます』

『そんなことは起こらないと信じたいですが…あ、今セーフティーカーランが宣言されました。制限速度80キロで、セーフティーカーが500と300を誘導するのでそれに全車従う形となりますね。ここまで速度が落ちたら二次被害は考えづらいですが…』

『あれ中継画面切り替わりましたよ』

『あーーっとここでもマシンが止まっている!これは…ウラカンだ!1コーナーでYOSHINAKAウラカンが1コーナーのコンクリート壁に向かい合う形で停車している!

…なにがあったんだ?』

『お、リプレイに移りましたよ』

『見てみましょう。これは…ウラカンのオンボードで…SCが宣言される…前が減速して…あぁ〜、止まりきれずにコースオフしたのか』

『バトルしていて手元のミニパネルの表示に気づかなかったのかもしれませんね』

『えぇ。…さぁ画面は戻って…あ、ウラカンがもう復帰してますね』

『そうですね。順位は下がったでしょうが、まだチャンスは残されています』

レースは次のフェーズに移ろうとしていた。



「大祐、次の周からリスタート。周回数10周からリスタートです」

「ピットインはどうする?」

「予定通り行きます。リスタートに集中して」

「了解」

無線を切ると同時に眼前の景色に意識を戻す。今までノロノロと走っていたSCはそれが嘘のように爆速でピットまでの道を走っていた。姿が小さくなってゆくペースカーを見送りながら俺は蛇行運転を開始する。

SC終了時には最終コーナーに到達するまでは80キロの制限速度を守り、そこに到達するまでにタイヤやブレーキの温度を適正値に温める。セオリー通りに手元と足を小刻みに動かし、手応えを確認する。

(…少しブレーキが冷えている…)

最初から全開走行は難しそうだ。冷静に分析すると再び景色に意識を集中する。現在最終コーナーのやや手前にある2連ヘアピンに突入している。

逸る気持ちを抑えながらゆっくり左にステアリングを回しアクセルを一瞬緩める。再びペダルを踏み込みながらハンドルを真ん中に戻し、今度は右に回す。

そしてゆっくりと立ち上がって…

(今だ!)

それまでとは比べ物にならない強さでアクセルペダルに蹴りをお見舞し、マシンを急加速させる。勢いそのままに最終コーナー直前の右カーブをフルアクセルで突破し、僅かな直線での加速をおいてフルブレーキング。

ステアリングを素早く切り、再びフル加速。レース再開だ。後方の様子をバックミラーから伺うと、黒と麹色のNSXが食らいついてきている。

タキオンはサスペンションの工夫でブレーキングに強い。しかし今シーズンは俺たちKONも同じことをしている。つまり

(1コーナーで、ガチンコのブレーキング勝負!)

後の展開を考えて、立ち上がりが有利なアウト側に寄せ、相手をイン側へと無言のトラップで誘い込む。

すると案の定、タキオンは右側へと車線変更をした。そしてそのまま俺たちはコントロールラインを通過し…

(ここだ!!)

ブレーキを踏み通常より早く、しかし緩めにステアリングを切る。予想通り、GT-RとNSXが横並びで1コーナーを駆け抜ける状況となった。しかしもちろんこのまま追い抜かれるためにこうした訳では無い。次に来るのは右コーナー。こっちがイン側になり、コーナリングスピードが相手より遅くない限りポジションを守れる。ブレーキをアクセルに踏み変え、ステアリングも浅い右から深い左に切り替える。

果たして、NSXの姿は後退…していなかった。横並び状態を苦しくも保ったまま食らいついていたのだ。

心臓の音が一気にうるさくなる。この先は狭く軽くうねっていながらフルアクセルで駆け抜ける区間。そしてつい先程、SCが出るほどのクラッシュが起こった場所でもある。

(くそ…!)

極力端へよりながらも一歩も引かない。そしてついに突入すると

ガンッ

「チッ、軽く接触(コンタクト)してきやがった」

しかし譲らない。そしてそのまま俺たちは例の危険区間を走破し、そのままバックストレート手前のヘアピンへと突入する。ギリギリのブレーキング。相手にスペースを残したままターンインし、加速勝負に出る。

加速ではNSXに一歩劣るGT-R。それがわかっているからあえて無理をせず麹色のマシンの横顔を見送る。しかし逆に言えばそこで反撃に出る。

また一段、ギアを上げ、今度は最高速勝負に打って出る。いくらかコーナー寄りにセッティングした今季のKONだが直線での強みを完全に捨てたわけではない。ジリジリと盛り返していく。そして、ブレーキング。

タイヤが固定(ロック)しないギリギリの強さでペダルを踏み抜き、左手でステアリング裏を何度か叩く。

またまたスペースを残しながらコーナリングして今度はアクセルペダルを蹴る。速度が有利な外側からのコーナリングで一歩前に出て、その先の左の高速コーナーではそのまま内側と外側が入れ替わり、見事前を取り戻すことに成功した。

(ヒヤヒヤさせやがって)

そう心のなかで愚痴った。


(続く)

今回、あまりにも長くなりそうだったので短く区切ってみました!どうだったでしょうか!

今回も読んでいただきありがとうございました。もし本作品を高く評価してくださるなら次回以降も読んでいただけたらと思います。それでは!

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