第5話 明らかになる勢力図 開幕戦・岡山 予選
どうも!ラドロです!今回はかなり間が空きましたが、ついにシーズン突入です!
それでは、どうぞ!
ようやく春の温かみが肌で感じられるようになってきた4月中旬。ついにVGTシーズン2が開幕する。それを祝うかのように空は晴れている…と思いきや曇り空だったのは予想外だったが 待ちわびた日がとうとうやってきたのだ。
俺はそれに胸を躍らせる人間の一人だった。待っていたのは良くも悪くも現実であることを知らずに…
そうこうする間もなく始まった公式予選Q1。まずは300クラスがアタックを行う。
当然俺のパナソニックレースも例外ではない。まずは20台が一斉にアタックをしてQ2進出をかけたトップ10の座を奪い合う。
「Okay,course clear.Please start your attack lap(よし、コースクリアだ。アタックを開始してくれ)」
「Copy(了解)」
軽く返事しながら俺はマシン、マクラーレンのアクセルペダルに足を載せ、アタック開始準備を始めた。
コースは岡山県に存在する岡山国際サーキット。長短様々な直線をタイトな低速コーナーで繋いだ典型的なストップアンドゴーのこのサーキットは予選結果の重要度が決して低くないコースである。
そして人生初の公式な記録に残ることになるアタックを開始した。
まずは長さ600m弱のメインストレート。エンジン音が高くなり、ステアリングに取り付けられた10個のランプがすべて点灯したタイミングで右の中指でステアリング裏に取り付けられたパドルという平たいレバー状のものを叩いてギアを上げながらそこを通過する。
そして第1コーナー。アクセルをブレーキに踏み変え、今度は左でパドルを叩きながらステアリングを右に傾ける。丁寧に左タイヤに車重と慣性力を乗せ、しっかりと曲がると再びアクセルを開く。しかしギアを上げるより前にブレーキを踏み、今度はマシンを左に旋回させる。1コーナーと同様、90度に曲がる2コーナーだ。
コース幅を目一杯使って可能な限り速度をのせて切り抜けたらここからはほぼ直線が続く。右に左にと緩く操舵しながらもフルアクセルで切り抜けてゆく。
そして一瞬ニュートラルになった道だが、またすぐにタイトなコーナーがやってくる。右に180度切り込むヘアピンだ。ブレーキペダルを沈ませてしっかり速度をおとしてからステアリングを回転させる。
旋回したマシンのガラス越しには完全なストレートが広がっていた。ここはメインストレートよりも長い、バックストレートだ。2速にまで落ちていたギアをタイミングが合うごとに3速、4速とあげてゆく。ここで俺は一瞬だけ景色から視線をそらし、手元の計器に焦点を合わせる。
速度計には下一桁の数字が目まぐるしく変化してゆく様子が写っており、その左には20の表示があった。バックストレートの半分を越す前に200数キロの速度が出ているのは当然といえば当然だがあらためてGTカーのパワーを思い知らされる。
そうこうしているうちにバックストレートにも終りが見えてきた。アクセルを抜いて間髪入れずにこのサーキットでもっともハードなブレーキングを敢行する。メーターは一瞬見えた限りでは230キロをオーバーしていた。そんな状況から時速を80キロにまでおとしてまで通らねばならないコーナーとは再びの右ヘアピンである。しっかりコーナーのエイペックスにマシンを合わせに行き、それが完了したところで再びアクセルを開きながら大回りな挙動に移行する。
そうして加速しながら登り坂となっているストレートを駆けると再びすぐにブレーキング。左への緩いコーナーだが、コーナー途中から下り坂に地形が変わるので慎重にステアリングを操作しながら大胆にアクセルを踏んでいく。
下り坂になって速度を盛りたいのはやまやまだが、ここは岡山国際サーキット。加速してもすぐにコーナーで減速せねばならない。再び軽いブレーキングとステアリングの僅かな回転でマシンを90度左折させる。
ようやくちゃんとした直線が見えてきた。さっきからマシンをコースアウトギリギリのところでとどめていたためスピードがちゃんと乗る。丁寧に1速、また1速とギアを上げ、直進1つにもムダを省くことを徹底する。
そしてまたもブレーキング。そろそろブレーキがお亡くなりになってないか心配になるが、まだなんとかなるだろうと思い込みながらステアリングを反時計回りに上下逆さまになるくらい回す。
一瞬だけアクセルを開いて再び減速。これどっかでみたな。
しかしここで今までと違うのはコースがS字状になっているのだ。2連ヘアピンと言い、このコースの名物の一つである。
ステアリングを左へ右へ、アクセルとブレーキを踏んでは踏み変えてを繰り返し、切り抜ける。
そうしてアクセルを開き、ここでは数少ない高速コーナーを僅かなアクセルオフで切り抜け、このコースの最終コーナーへと飛び込む。
しっかり減速してからブレーキペダルを離してステアリングを右に回す。
あとはメインストレートをマシンの性能を信じてフルアクセルで駆け抜けるのみだ。
(いけぇ!)
そしてチェッカー。
「OK、Andrea.P5 now. our position is 5th.(オッケー、アンドレオ。5番手だ。暫定順位は5位だ)」
「copy…How much time do I have?(了解…時間どれくらいある?)」
「About 5 minutes. start flying lap after 2 laps again.(大体5分だ。2周後にもっかいアタックをやってくれ)」
「OK」
アタックを続け、周回を重ねるたびに良い感触を得た俺だったがわずか0.01秒の差でQ2進出は叶わなかった。
Q1敗退は11番手から順にパナソニック、strong、MAX POWER、TAKAHASHIレーシング、X、rad’s、Toho games fan、ゴールドライバー、ディーゼルマッハ、LEARNとなった。
続いてQ1第2部。GT500クラスのQ1が始まる。ここでは上位8台のみがQ2に進出できる仕組みとなっており、各チーム、ある意味Q2よりも高い緊張感を持って取り組んでいる。
しかし、そんなことは外野からするとただオモシロイで終わってしまうらしい。実況の反応がそれを如実に示している。
『さぁ、はじまりましたVirtualGT開幕戦岡山の予選Q1、GT500クラス!各々の用意した空力開発が量子コンピュータの論理演算に従ってどんな結果を呼び寄せるのか!非常に楽しみです!』
『ですねー、ここではコーナーから抜けるときの安定感がものをいうので主にリアのダウンフォースが必要になってきます』
『そうですか。ではほんとにあればあるだけいい感じですか?』
『そうですよー岡山でリアのダウンフォースなんて、なんぼあってもええですからね〜』
『…ま、それはともかく。現在の状況としましてはシグナルはグリーン、しかしほとんどのチームがマシンをガレージにとどめている状況です。これは一体、なぜなんでしょうか』
『多分、彼らはギリギリまで粘りたいんでしょうね。予選ではタイヤを少ない摩耗で最大限のパフォーマンスを引き出すのが、Q2進出、ひいてはポールポジション獲得に関わってくるので10分間ダラダラ走るよりは少ない時間でスパッとアタックしたいんだと思います』
『なるほどー…
え、ってことは私達しばらくニートってことですか』
『『wwwww』』
『お、実況陣ニート化はなさそうですよー!今、紺色のGT-Rがその姿をコースに現しました!』
『KONですね。シーズン1ではチャンピオンを経験し、その後VirtualFormula1にも参戦した百戦錬磨のベテランチームです』
『前回の岡山では2位でしたからね〜。是が非でも優勝がほしいんじゃないでしょうか』
『ええ。きっとそうでしょう!お、そしてGT-Rを皮切りに他のマシンもどんどん出てきますよ!
まずは…今シーズン、新たに投入されたシビックが姿を表しました!カーナンバー431、FTOCが2番めにコースイン、それに続くのはベータエナジーNSX。更にその後ろにはNiffanフェアレディZが控えているといった感じです』
『彼らのチームは対照的に今回がVGT初レースですね。ただ後ろの2チームはVF1での走行経験があるので油断はできません』
そうこうして談笑するうちに残り時間のタイマーはあっという間に残り3分を切り、各車ヒートアップしたアタックを開始した。
『さぁまずは前シーズンの岡山優勝者!タキオンNSXがそれまでの全体のタイムを大きく塗り替える速度でこちらに戻ってきている!最終コーナーを立ち上がってアクセル全開!タイムは…1分22秒!これで現在トップです!
しかしそれで終わらせないとばかりに迫るのはベータエナジー!最終コーナーを暴れながら通過して…3番手のタイムだ!しかしその後続はわずかに彼らを上回るペースで来ている!あれよあれよと通過して…KONとNTTがベータエナジーを上回る!しかしその後ろのガイズはベータを上回れない!』
目まぐるしく変動してゆく順位。そしてタイマーが0になった瞬間、実況はある1台のマシンに注目していた。
『さぁこれ通過できるかギリギリですよ!』
『今最終コーナーへと姿を現したアミューズメントスープラ、現在9番手!一つでもポジションを上げればQ2に進めるが…タイムは…1分23秒1!なんとなんと大波乱!昨シーズンポールポジションを奪ったオレンジ色のスープラは5列目からのスタートが確定しました!!』
結局Q1敗退は9番手から順にアミューズメント、HEAT、FTOC、チーム無双、Niffan、TGRF、イン・ウィダーとなった。
懐かしい雰囲気が漂っている。レーシングスーツとヘルメットによって圧迫された体を真紅のマシンの側面に運ぶ。
ドアに埋め込まれたノブを引き、内部へ足を滑り込ませる。続いて腰をシートへと落とすと一瞬だけ体を浮かせて調整し、一息つく。
「望美、シミュレーション2ね。シミュレーション2でアタックしてください」
「了解」
無線ではなく直で言葉を交わし、手を軽く握り合ってから外部との出入り口が遮られた。もうふたたびここに戻るまでは外部の空気との関わりを持つことはない。
意識を切り替えてスタートの準備に入る。まずは一般車両ならカーナビ等が取り付けられてあるだろういちに埋め込まれた箱状の配電盤状のボタンを操作し、マシンのコンピュータを起動。その後エンジンも同様に起動させ、そして実際にピストンを回転させる。
ブゥゥゥゥゥゥン……
「エンジン、異常なし」
「了解」
エンジンより一足先に起動したコンピュータによってステアリング奥にあるウィンドウが光を発し始めた。上を向いていたステアリングを体と向き合う形になるように持ってきて障害物のなくなったパネルに目を向ける。
「ギア、エンジン水温、異常なし」
「了解。NPCの指示に従ってピットアウトして」
「了解」
さぁ、楽しいショーの幕開けよ
(…って、私そんなキャラじゃないよね)
苦笑しながら出たガレージの外は…
とても眩しかった。
「…ねぇ、路温 (路面温度)っていくつなの?」
「えーっと…大体40度」
「たっか…シミュレーションは変えられない?」
「変えないほうがいいと思う」
(ええ〜…)
不安のつもるピットアウトだった。
そして予選Q2終了間近。私はラストアタックに入っていた。コーナーを抜けるたびに心臓がバクバク暴れて、マシンまで暴れそうになってくる。しかしなんとか限界領域の中の限界を探り当て、自分が出せる最速の動きを実現させてきた。あとは高速コーナーと中低速コーナーの一つずつだけだ。しっかりマシンを端に寄せて…
(ここっ!)
軽いブレーキングからステアリングを一気に右にかじを切る。しかし
(しまった!アンダー!!)
一気にバランスを崩したマシンはコマ送りにその景色をガラス越しに映し出す。
まず左側が芝生に飛び出し、私の軌道修正の試み(カウンターステア)によってマシンがそのままスライドし…
(バランスを取り戻した!)
そのまま最終コーナーはノーブレーキで突き進み、そのままチェッカー。しかし当然だがタイムは自己ベストを更新できずに終わった。
「あーーー!ごめん!」
「…最後のあれ、何があったの?」
「アンダーステアがでた!低速コーナーでは大丈夫だったから、多分摩耗じゃなくて熱ダレだと思う!」
「…わかった。シミュレーション2はうまくいってた?」
「わかんない。けど狙い通り、摩耗はマシなはずだよ」
「わかった。…今4番手だけど下がる可能性あるからね。午後、頑張ろう」
「ええ、もちろん」
ちなみにスターティンググリッドはポールポジションを手にしたteam sound speedを筆頭にTaPeレーシング、楽天、MOA、クイーン、ankレーシング、ミラクスセブンス、sonic car、YOSHINAKAレーシングとなった。
そしてついに大詰めを迎えた予選は500クラスのQ2が残り1分を切っていた。
『さぁそしてまずはタキオンが来る!最初にラストアタックを行った黄色のNSXがどれだけのタイムを叩き出すか!メインストレートを立ち上がって……1分21秒5!暫定トップ!
間髪入れずにやってきたお次はチャンピオンチームKON!最終コーナーを立ち上がって…チェッカー…1分21秒3!やや上回ってきた!これはポールあるか!?
いや!ベータエナジーがKONよりもセクター3の時点でコンマ4秒速い!VF1で最多ポール記録を残したベータエナジが、VGTでもその記録を作りはじめるのか!最終コーナーを立ち上がって今、コントロールラインにまっしぐら!タイムは1分20秒9!!
トップだーーーー!!決定的な差を、コンマ4秒の差を作り上げました!他のアタックしているマシンもこの差を覆すのは厳しいでしょう!他のマシンもどんどん最終コーナーへとなだれ込んできますが、そこまでの全体タイムでベータエナジーのタイムを上回るものはいない!実質これで確定か?後ろから、マザー空力が最終コーナーを立ち上がるが……タイム更新ならず!
VGT2回目の岡山はベータエナジーがポールポジションを獲得した!!』
たちまち熱気が湧き上がる仮想サーキットに無線も興奮が滲む。
「Yua,P1,P1.Well done.(ユア、1位だ。よくやった)」
「Okay.Let’s go!(了解。やったぁ!)」
結局500クラスのスタートポジションは1位のベータエナジーの後ろにはKON、タキオン、マザー空力、NTT、チョクセンバンチョー、Guys、ファースターとなった。
(続く)
めちゃ長くなりましたね…
今回も読んでいただきありがとうございました。もし本作品を高く評価してくださるなら次回以降も読んでいただけたらと思います。それでは!