21. 王子と友人
ある日のことだ。
「カードゲームをいたしましょう! お父さまが買ってきてくださったんですの」
そのゲームを携えて、王城にマティルダがやってきた。
マティルダの父であるルンデバリ侯爵が登城してきたので、それに付いてきたということだった。
「ジュリアン殿下、ご一緒にいかがですか」
「いいですね」
「エリオット殿下も混ぜてあげてもよくてよ」
そういうわけで、三人は貴賓室にてテーブルを囲っていた。
カードゲームだと年齢で差が出そうだということで、私やラーシュやマルセルは、別のテーブルでそれを眺めることにする。
興味深そうにカードを見つめていたジュリアンは、ふと顔を上げて口を開いた。
「コンラード殿下は呼ばなくていいの?」
ニヤリと口の端を上げて、そう問う。
「……えっ」
唐突にそんなことを聞かれたマティルダは、なにも返せずにジュリアンを見つめてしまっている。
「だって、素敵だって言っていただろう?」
「えっ、ええ、素敵ですわ」
「呼べば来るかもしれないよ。私が声を掛けてこようか?」
どうやら、意地悪なところをマティルダにも披露しているらしい。男同士、いつも憎まれ口ばかり叩かれているエリオットの味方もしたいのかもしれない。
「いっ、いいのですわ」
「ふうん?」
「きっ、きっと、コンラード殿下が入ったら、一人勝ちしてしまうのですわ」
「ああ、それはあるかも」
苦し紛れのマティルダの言い訳に、エリオットは素直に納得している様子だ。
「兄上は、こういうのは得意だから」
「そんな感じはするね。じゃあ、フレヤ嬢ならいいの?」
さらにジュリアンはそう意地悪を続けたが、意外にもマティルダはすんなりとうなずいた。
「わたくし、フレヤも誘って差し上げましたのよ。でも、お客様が来ていたみたいで、行けないって」
「あれ、それは残念でしたね」
「せっかく誘ってあげましたのに」
そう不満を口にして、唇を尖らせている。
あの少女二人は、複雑ながらも友情を築いてはいるのだろう。
それからは、十歳の三人で、ルール確認をしながらゲームを進めている。盛り上がっている様子だ。
「私たちは、席を外そうか」
こっそりとラーシュとマルセルにそう提案する。
「え?」
「同い年の皆で気兼ねなく遊ぶほうがいいだろう。なにかあれば侍女も控えているし」
部屋の隅では、タイミングよくお茶やお菓子の用意ができるよう、侍女が待機している。なにも心配はない。
「そうですね。俺たちはなにもすることがないし」
「マルセルも、今のうちに休んでおくといいんじゃないか」
「では、そうさせていただきます」
いつもマルセルはジュリアンの傍に侍っている。こういう誰かに任せられるときには、休むのがいいだろう。
私たちは、こっそりと席から立ち上がり、貴賓室をあとにする。
扉を閉める直前、三人の弾けるような笑い声が響いた。振り返ると、どうやらエリオットが負けてしまったらしく、また新しくゲームを始めようとしていた。
それを見届けると、私は音を立てないように、そっと扉を閉める。
もしかしたら、私も言えば一緒に遊べるのかもしれないが……けれど、それはなんとなくできなかった。




