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短編

「俺……告白されたんですよね」「は?」 後輩から相談を受けることになったとある三日間

作者: 警備員さん

 


「俺……告白されたんですよ」


  唐突に圭人はそんなことを言い出しやがった。


「はあ? 何言ってんだお前」


  思わずそんな言葉が口に出る。自分でもどうかと思うほどの人を小馬鹿にしたような声音。しかしそれでも、圭人は怒った様子もなく淡々と話を続ける。


「いやまぁ……なんか昨日クラスの女子から呼び出されて、『好きです』って言われたんですよねー」

「それで?」

「で、どうしようかなって思ってるんですけど……」

  ……こいつ、本当に悩んでいるのか? あまりにも軽い口調と内容に少しイラっとくる。だがここで怒れば相手の思うつぼだ。ここは冷静を装うしかない。

「『はいそうですか』じゃダメなのかよ」

「えぇ!? でもそれだと相手に失礼じゃないっすか!」


  ……なんなんだこいつは……。どうしてこんなにも自分の気持ちを素直に出してくるのだろうか。普通こういう時ってもっとこう……あれ? これってもしかしてチャンスなんじゃねえか? ふと思いつく。これは千載一遇の機会なのではないだろうか。そうだ。これはこいつに彼女を作るいい機会だ。この機会を逃したらもう二度とないかもしれない。 よし、 今すぐ行動に移すべきだ…………ん? ちょっと待てよ? よく考えたら俺は別にこいつのために何かしてやる義理なんてないし、むしろ邪魔になるだけじゃないか? それに仮に付き合ったとしても、またすぐに別れることになるだろうし。……よし! やっぱり何もしない方がいいな! うん、それが一番無難な選択だと思うぞ!


「まぁとりあえず頑張れよ」


  適当すぎる応援の言葉を投げかける。すると圭人はすぐに反応した。


「はい!! ありがとうございます!!」


  ……なぜそこでお礼を言うんだよ。意味わかんねぇよ。

  それからしばらく沈黙が続いた後、圭人が思い出したように言った。


「あっ! 今日バイトだったんで帰りますね!」

「おう、気をつけて帰れよ」

「はい!……ではさようなら!」

「ああ、さよなら」


  こうして俺達は別れた。



  次の日の昼休み。いつものように弁当を食べていると、突然携帯が鳴った。画面を見るとメールが来ていたようだ。差出人の欄には『圭人』の文字が見える。あいつからの連絡とは珍しいこともあるものだ。一体どんな用件なのだろうとメールを開く。そこにはたった一言、「先輩助けてください!!!」という文字があった。


  ……どういうことだ? 助けを求められているということはわかるのだが、その意図が全くわからない。とりあえず詳しい事情を聞くことにした。

「おい、いきなりどうしたんだ?」返信する。……返事がない。もう一度送ろうと思ったその時、今度は電話が来た。相手はもちろん圭人である。出るかどうか迷ったが、仕方なく出てみることにする。


「もしもし?」

「せ、せんぱ~い!!!」


 ……うるさい。耳元で大声を出すな。鼓膜破れるかと思ったぞ。


「あのですね……実は……」

「落ち着け。まずは何が起きたのか説明しろ」

「はい……」


  そして圭人は事の経緯を説明し始めた。

  要約するとこうである。昨日告白された女子生徒に放課後呼び止められたらしい。なんでも好きな人にフラれたばかりらしく、傷心のところを優しくされて惚れてしまったとかなんとか。でも、告白して一日経ったらなんか違うなと思ったらしい。


「で、無かったことにしてくれってか?」

「そうなんですよぉー……」

  ……なるほど。そういうことなら話は早い。

「諦めろ」


  即答。


「えぇ!? ちょっ……まだ話の途中ですよ!?」

「いやだって無理だろ。このまま別れなくても、これから会ったり出かけたりしなかったら同じことだろ?」


  ポーズとして彼女が欲しいとかなら別だが。もしそうならもう好きにしろとしか言いようがない。


「それはそうですけど……でももう少し考えてみてくれませんか? お願いします!」

「嫌だよ面倒くさい。そんなくだらないことでいちいち俺を巻き込むんじゃねえよ。だいたいなんで俺に相談してくるんだ? お前なら頼れる友達の一人や二人いるだろ」

「それは、先輩が一番頼りになるからですよ!」

「そうか。悪かったな、俺はこれ以上力になれそうにない。一人で頑張れ」


  そう言って通話を切る。これでいい。後は勝手に解決してくれるだろう。



  それから数時間後。部活を終えて家に帰る途中、偶然にも圭人と会った。


「あ、先輩! ちょうど良かった!」


  そう言うなり、圭人はこちらに向かって走って来る。どうしたのかと思っていると、目の前まで来て立ち止まり、息を整えてから話し出した。


「さっきの話のことなんですけど、やっぱりダメでした!」


  ……は? 何言ってんのこいつ。


「なんですか? もしかして信じちゃいましたか?」


  ……こいつは何を言っているのだろうか。


「……ふざけてんのか?」


 少しイラっとしたので口調が荒くなる。だが圭人は特に気にしていない様子だ。


「いえ、本気ですよ! 先輩のおかげで目が覚めました!」

「……それで?」

「はい! もう先輩に頼ることは止めます!」

「そっか。じゃあさようなら」

「待ってくださいよ!! 最後まで聞いて下さいよ!!」

「なんだ? 他に何かあるのか?」

「ありますよ! 俺、今度こそ本当に彼女を作ろうと思います!!」


  ……こいつの頭の中には脳味噌の代わりに綿菓子が入っているんじゃないだろうな。


「……どうやって作るつもりなんだ?」

「もちろん、自分で探すんですよ!!」


  ………………こいつは馬鹿なのか? ……いやまぁ、確かにバカだったな。


「……まあいいんじゃないか?」


  適当すぎる返事をする。すると圭人が嬉しそうに言った。


「ありがとうございます! ではまた明日学校で会いましょう!!」

「ああ、またな」



  次の日の朝。教室に入ると、いつものように圭人が話しかけてきた。


「おはようございます! 先輩!!」

「おう、おはよ」


  適当に挨拶を返す。すると圭人が不思議そうな顔をした。


「あれ……なんか元気なくありませんか?」

「別に普通だけど」

「いやいや絶対おかしいっすよ!……あっ! わかりました! きっと昨日俺に振られたから落ち込んでるんすね!」


  ……はいはい。そういうことにしておいてやるよ。


「そうだな。落ち込んでいるよ」

「えぇ!? マジっすか!?……すいませんでした」急に落ち込む圭人を見て笑いそうになるが堪える。

「冗談だよ」

「えぇ!? 嘘だったんすか!?」


 ……ああ、今のはちょっと面白かったな。


「悪いな。でもお前の方は大丈夫みたいだな」

「はい! 昨日一晩考えた結果、やっぱり先輩に頼るべきなんじゃないかと思い直しました!」


  ……その結論に至る過程を知りたかったな。


「というわけで先輩! 今日からよろしくお願いします!」

「断る」

「えぇ!? どうしてですか!?」

「昨日断ったばかりだろ」

「それは、そういう大事な事は自分でちゃんと考えないといけねぇ……的な意味じゃないんすか!?」

「違ぇよ。ってか、なにそれ声真似? 死ぬほど似てない」

「酷いなー。結構自信あったんだけどな……」


 肩を落とす圭人を無視して、時間を確認する。8時20分。いつも通りならば、30分までは教室に滞在するつもりだろう。


「さっさと自分の教室に戻れ」

「いや、ギリギリまで居ますよ?」


  さも当然かのように言われ、はあと深いため息が漏れ出る。何故こいつは、上級生の教室にいて平然としているのだろうか。時折見せる、メンタルが非常に羨ましい。


「そういえば、昨日の件は結局別れたんだよな?」

「当たり前じゃないですか。じゃなかったら、彼女いる身で彼女募集中のヤバいやつですよ」


  圭人が至極真っ当な答えを返してくるので、こちらがおかしなことを言っているようになってしまった。確かに会話の流れ的に別れたんだろうなー、とは思ったけども。


「あ、そう言えば俺、告白されたんですよ!」

「へぇ、良かったじゃないか」


  今度は素直に褒めてやる。一昨日は流石に態度が悪かったと反省した。いくら突拍子もないからと言って、仮にも年上。どーん、と構えておくべきなんかじゃないかと……ちょっと待て。


「は? お前、今なんつった? 告白された? 誰が? お前が?」

「そ、そういいましたけど……」


  俺、なんかやっちゃいました? とばかりに首を傾げる圭人。いやお前、ほんと、お前は。

  叫びそうになるのをぐっとこらえる。ここが教室でよかった自室だったら掴みかかってたかもしれん。


「一つ確認させてくれ。一昨日、告白されたんだよな?」

「はい」

「それで、昨日何か違うから別れてくれって言われたんだよな?」

「はい」

「で、新しく別の女子に告白されたんだよな?」

「はい」


  ……頭痛がしてきた。

  とりあえず、わかったことが二つ。一つ目は、こいつは俺が何をしようとしまいと彼女がいつの間にかできている人種だということ。二つ目は、こいつが底なしの馬鹿だということ。


「お前昨日の言葉、もう忘れたのか。彼女、自分で見つけるんだろ?」

「そうは言いましたけど……実際、告白してくれた子結構いいなって……」

「それは、告白してきたからじゃないのか? お前、その前……例えば、一昨日の子が告白してきた時から気になってたのかよ」


  一昨日の告白には、割と乗り気だったように見えたが。そう尋ねると、圭人は痛いところを突かれたとばかりに表情が固まった。


「う……そ、それは……」

「なら勘違いだ。好きだと言われたから、相手が気になる。突然の原理だ」

「で、でも、好きって言われただけで好きには……!」

「なるんだよ。悲しいことにな。好きって言ってきた方が自分の好みと全然違ったり、嫌っていたり、はたまた好きな相手がいるのか色恋沙汰に興味無いかじゃない限り、ある程度好意を持ってしまう」


  訥々とらしくもなく語ってしまう。


「自分に好意を持っていると知れば、大抵の人間はその相手を好意的に見る。そしたら、今まで気にとめなかったちょっとした優しさだとか良い所とかに目が止まる。それでさらに好意が増す」

「そ、それなら好きになったってことでもいいんじゃ……」

「好意的な目で見てるから良い所が目に留まる。その逆もあるってことだ。俺から言えることがあるとすれば、テンプレートに友達からでもって言っとけ」


  そこまで言って我に返る。柄になく、語ってしまった。しかも、相談は受けないと言ったはずなのに相談を受けてしまった。

  ただ、救いは的確なアドバイスというよりも偏見と持論に満ちた答えだったということ。それで、彼が幻滅してくれれば今後は……。

  そう思い彼の方を横目で見てみてそれは無理だと確信する。


「それもそうですね! 流石です、先輩!」


  褒められた。しかも純度百パーセントの無垢な瞳で。


「お前なあ……そうやって」


  ――人の言葉を鵜呑みにするのはやめた方がいい。そう言いかけて口が止まった。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない。とりあえずそろそろ時間だ。教室に戻れ」

「あっ、ほんとだ。じゃあ先輩、俺に彼女ができる方法考えておいてくださいねー」


  大きく手を振りながら教室から出ていく圭人の姿を横目に窓の外へと視線を移す。というか、自分で探すんじゃなかったのかよ。


「人の言葉を鵜呑みにするな……ねぇ」


  どの口が言うんだか。薄ら鏡のように反射する窓には自虐的な笑みを浮かべる俺の姿があった。

  先輩風を吹かして一昨日も昨日も今日も、素直なことをいいことにあれやこれやと吹き込んで。何を今更どの口が。


「また昼休みにでも来るんだろうなぁ……」


  そうだ、もし相談を持ちかけてきたのなら適当に返事をしよう。それでトンチンカンなことを言って、失望されよう。


  そんな願いもしない願望を本心のように嘯きながら、始業のベルを聞き流すのだった。


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