羽ばたく朱鷺
人間失格を読むようになって、世の中への見方が変わった。
世の中日の目を浴びて生きる人の中に、不幸話を語る人がいる。
しかし、日の目を浴びる前に思いつめる人もいるのだ。
1週間少しづつ、また手早く書いていったものであるため、文が乱雑かもしれないが、許してほしい。
橙色に照らされた太陽を、夜という大きく黒い雲が飲み込もうとしているときのことです。
私は、この景色を長年嫌っていたのでした。
もう過去のことは思い出したくないからです。
しかし、思い出してしまいました。
初めに私は、1900年代、日本という国の山中のある田舎の、一軒の核家族の家の一人っ子に生まれました。
まだ5歳ほどの頃、私の父親は、大きく黒い「妖怪」にその森の中で喰らわれ、この世には帰ってきませんでした。
信じられないと思いますが、まだ当時、妖怪は実在したのです。
……私の父の話をしましょう。
私の父は、愛読家でした。色んな本を見せてくれました。
小さい頃からは童話や昔話をよく膝の上に乗せてくれ、一緒に絵本に書いてある文を目で追いながら、父の音読を聞いていたのでした。
母もその様子を、微笑みながら見ていました。
そんな優しい父を妖怪が喰らったのは事実です。
しかし、その父を今は恨んでいません。
食物連鎖というものを私は知っているためです。
憎むとするならば、他人を傷つける脳を得た人間を。
恨むとするならば、他人を想う心を失った人間を。
そう私は今思う。
私が小学生ほどの頃、母が行方不明になり、私は心を壊しました。
そのせいか、自分の殻に閉じこもるようにずっと本を読んでいました。
小学校にも中学校にも行きましたが、そこでも休み時間は本を読んでいました。
そのせいで、友だちもできず、中学校では、小学校からの友達というような塊の輪中に入れず、孤独な毎日を送っていました。
ある時を境に、今でも思い出したくない日々が続きました。
まるで、太陽という地を、夜という者が侵略しようとしていた頃でした。
その薄暗い時間帯、暑くも寒くもないある春、鞄を持っていた両手のうち片手を、後ろから掴まれました。
そして後ろに引っ張られ、私は後ろを向きました。
そこには、度々事件を起こす、いわば問題児の男がいました。
その男は、力で私を地面に押し倒し、その上にまたがって何度も私を殴りつけました。
最初こそ鞄で顔を守っていたものの、守ったことに怒り、その怒りを拳に乗せて私にぶつけました。
あたりが暗くなり、気が済んだように足を蹴った後、30分に渡る加虐は終わったのです。
しかし、人というのは不思議なもので、あの時間が、今思い返してもまるで3時間加虐されたように感じられるのです。
もっとも、思い返すだけで、殴られた部位が痛みますが…
あざを作った私は、鞄を持ち、なんとか帰路につきました。
そしてその夜、風呂で紫や緑色に染まった自分の体を見ながら、一人ですすり泣きました。
その加虐は、その時間あたりに毎日行われました。
時に、その男の仲間という他の男が、その男と集団で加虐した記憶もあります。
力も仲間もない私は、それを機に学校にいかなくなりました。
私は、本の中で朱鷺を見ました。
朱鷺は昔生きていた鳥で、とても綺麗な羽が、本に載っていた写真に写っていました。
ただ、本によると、日本の種は絶滅してしまっていたようです。
絶滅の一番大きかった理由は、人間がその綺麗な羽を目当てに乱獲したことだそうです。
私は朱鷺に、少しだけ親近感を覚えました。
朱鷺も人間に虐げられてきた。そんな負の感情で親近感を抱いてしまったのです。
いつしか私は、朱鷺が好きになっていました。
しかし、その反面、自分は、この世の中が嫌いになっていました。
そして私は、本のぎっしり詰め込まれた本棚が2つもある私の部屋、書斎にて、一番気に入っていた、フリルの付いた黒いスカートに青に白い縦の線が入った服を着たまま、自決しました。
血で本を汚さないように、首にロープを巻き付け、台を蹴りました。
苦しみも少しありましたが、戻ろうとする意識を睡眠薬が無理やり押さえつけたように、すっと逝くことのできました。最後に考えていたのは、来世への期待、それのみでした。
救いはこの世にありませんでした。
私は神の加護を受ける前に、神の罰を受けたようでありました。
思い出せば出すほど意識、記憶が薄れる。
宙に浮かぶ私の体は、かつて飛んでいた朱鷺のような、儚い…はかない…
救いのない話だったであろう。
私はこのような小説を書く時、思わず読者まで気がめいるような小説を書きたいと思っている。
私の処女作はこのような乱雑な文であったが、どうか評価の声を聞かせてほしい。