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鉄の玉

作者: 流星光
掲載日:2022/02/03

ショートショートです。完結しています。暇つぶしになれば幸いです。


ある日、空から鉄の玉が落ちてきた。


ジャガイモ畑のやわらかい土に、

その鉄の玉が半分ほどめり込んだ時、

そばには誰もいなかった。


しばらくして、下校途中の中学生ヨシオが通りかかり

直径2メートルほどの黒い鉄の玉を見つけた。


そのジャガイモ畑は、ヨシオの父親の持ち物だった。


ヨシオは、すぐに父親に知らせた。


父親は、警察に知らせ、警察は県庁に知らせた。


ジャガイモ畑にもどってきたヨシオは、

鉄の玉の観察を始めた。




それは直径2メートルほどの継ぎ目のない鉄の球体で、

古い戦争につかわれた砲弾のようにも見えた。


表面はざらざらでつるつるだった。

鉄アレイの表面に似ている、とヨシオは思った。




連絡をうけ、

近所の大学の物理学の教授と、そのゼミの学生たちがやってきた。

そして、いくつかの測定器を作動させた。


カナリヤが入った鳥かごをもった学生もいた。


簡易的な検査が終わり、

放射線などの危険なものを出していないことがわかった。


毒素を含んだ気体を放出する物でないことも、カナリヤが証明した。





大学の団体のあと、国の調査チームがやってきた。


鉄の玉は、国の研究施設に運ばれることになった。


大型の釣り上げ機や、太いタイヤのトラックがジャガイモ畑を踏み荒らした。


テレビの中継車が、

研究チームが踏み荒らしたジャガイモ畑の上に停車し、

この状況を世界に伝えた。

そして、仕事が終わったら帰っていった。


収穫直前だったヨシオの父親のジャガイモは、ほとんどが潰れたり傷ついたりして、だめになった。


       ★


政府は、専門家委員会を組織して、

鉄の玉の徹底的な調査を依頼した。



あらゆる検査がおこなわれた。


球体の表面の物質は、鉄ではなかった。

地球上にはない未知の物質で出来ていた。


だが、判明したのは、それだけだった。


重さは、6トンと少しあった。



「普通の隕石ではない」


それだけが、専門家委員会が出した結論だった。


「何のための研究機関だ!」


政治家たちは、文句だけ言った。


       ★


検査の結果、

鉄のような未知の金属は、

厚さ30センチメートルほどの殻のような構造をしており、

内部に何かがある事がわかった。


すぐに、内部調査の専門チームが結成された。

対象物を破壊することなく、

内部を調査できる専門チームである。




数日が過ぎた。


内部調査チームは徹夜で作業をおこない、倒れる者まで出た。


彼らは、驚くべき事実をつきとめた。


ぶ厚い固い殻の中に、生物らしき動きを確認したのだ。


研究所ぜんたいは、

アリの巣をほじくり返したようになった。


地球外生命体の存在が明らかになったのだ。

これは、人類史上、初めての事件であった。


皆が浮足だって走り回った。

中には叫び出す者もいた。



専門家委員会の会長は、遠くを見た。


内部調査チームのリーダーは、興奮しすぎて吐いた。


内閣総理大臣は、自叙伝の冒頭部分を書いた。


それほど大きな出来事であった。


      ★


その後、

来る日も来る日も研究は続いたが、鉄の玉に変化はなかった。


二週間が過ぎた。


一人の研究者が、中の生命とコンタクトをとることを提案した。


このまま時が過ぎるのを待っていても、

事態は動かないような気がしたのだ。


このままだと、

研究チームは、何もせずに国から報酬を得ることになってしまうのだった。

そうなると、専門家委員会の存在意義が問われかねなかった。


鉄の玉に、何らかの変化があってもらわなければ困るのだった。




異生物とのコンタクト委員会が設けられ、

あらゆる人材が集められた。


言語学のプロ、生物学者、警視庁の交渉班、おもてなしのプロ、コメディアン、小説家、4コマ漫画家、月刊「暗号解読」編集長、宗教家、格闘家…。


そして、もし攻撃してきた場合にそなえて

自衛隊から精鋭部隊が集められた。


プラント内は、大学の学園祭のような騒ぎになった。

鉄の玉は、その中央に安置されていた。


       ★


まず、表面を規則的にたたいてみる実験が始まった。


次に、音楽を聴かせる実験。


大声選手権優勝者に、大声で挨拶させる実験もあった。


X線映像の観察の結果、

内部の生物は、ゆるやかに動いていることがわかった。


外部からの、どのような刺激に対して反応しているのかは

不明だったが、確かに、反応を示しているようだった。



「出られないのではないか?」


一人が言った。


総理大臣主導のもと、鉄の玉切断チームが結成された。


ダイヤモンドを刃の先端につけた特殊なカッターが用意された。

地球上にある物なら、どんな物でも切断できる最先端のカッターである。


作業は、

中の生物を傷つけないように慎重に進められた。




殻を割ってみると、どろりとした物体が出てきた。


それは、生き物というよりは内臓のようであった。

形を持たない種類なのかも知れなかった。

このような事態を想定して、鉄の玉の下には

巨大なシャーレが置かれていた。


どろりとした物体は、シャーレの中で力なく広がった。


固くぶ厚い殻は、

いつの間にか、ぶ厚いクラゲのようになっていた。


どろりとした物体の中央で、何かがうごめいていた。

そこには、規則的な脈動が見て取れた。

その動きに、ほとんどの人がドキリとした。


やっちまった!


その動きは次第に弱くなり、

最後にはピクリとも動かなくなった。


「死んだ…」


誰かが、ぼそりと言った。


専門家委員会のメンバーたちは、

かたずを飲んで、その様子を見つめていた。

プラント内は、お通夜のように静かであった。


       ★


どろりと出てきたのは、生物の内臓であった。

外側の殻を切り開いたため、

内臓がはみ出てきてしまったのだ。


鉄のように固い殻を持った、

人類がはじめて遭遇した地球外生物は、

地球人の手によって殺された。




(了)


読んでいただき、ありがとうございました! 

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