夢幻の眠りX 目覚めの襲撃
う、ううん? ……あれ、ここって?
魔王は目覚めた。そして──
「これで……どうだぁぁっ!!」
突然聞こえる鬼気迫った叫び声。
その相手は羽を広げ必死の形相をしながら、今にも自分に向かって尖った何かを振り下ろそうとしている。
今の自分が置かれている状況を察した魔王は。
「……はぁぁっ!!」
何がなんだか分からないまま。
その相手に強烈な一撃をかます。
「ごへぇっ!?」
その一撃は想像以上に効いたようで。
相手は部屋の壁まで吹っ飛ばされて、叩きつけられることで。
その衝撃で壁は崩れ。
襲撃者はそのガレキの下敷きとなった。
いきなり寝込みを襲われそうになった事実に驚愕しつつ。玉座から立ち上がり、吹っ飛ばした相手の下へ行こうとした。
だが、魔王は少し体が重くなっていることに気づく。
その時、魔王に窓から月のような光が注がれ──本当の意味で自分に何があったのかを理解する。
……これは。
今、魔王の身体は赤く染まり……濡れていた。
そして、姿が隠れてしまっている相手に向かって魔王はささやく。
……ハルッぴ。あなたなの?
この世界のハーピー族は悲しみに暮れている時、赤く染まった涙を流す。
魔王は相手が必死の形相で……涙を流していたことを思い出す。
そして、その涙が。
ポタポタと自分の身に何度も落ちてきていたことも。
「私は……あなたにそんなに恨まれていたの……?」
「…………」
魔王はあの時、ハルピィの状態異常。『洗脳』は解除していた。
では、なぜ魔王は……などはいうまでもない。
「それとも……何か理由があるなら言ってよ……ハルッぴ……」
「…………」
魔王はできるなら友として支えたい思いでいっぱいだった。
だが、今は魔王。あくまでも上の立場として、間接的に支えることしかできない立場であり。誰かを特別に優遇するようなことは許されない。
今、魔王は自分が魔王となってしまったことを心から悔やみ。赤く混じった涙を流していた。
「…………」
……だが。
で、出づらい……。どうしてこんなことになっちゃったんだ……。
★
確か鳥人になってうっかり壁に激突したところまでは覚えてる。
でも、ぼくは気がつくと。魔王様の部屋にいた。
少しの間、自分の身に何が起きたか思い出そうとしていたけど。
玉座で倒れている人影をみて、つい叫んじゃったんだ。
だって……玉座には。
安らかな笑顔で魔王様が横たわっていて……しかも、体の大部分が赤く染まっていたのだから。
そんな魔王様をみて、ぼくは焦って。
すぐに自分の腰につけていた袋から常備していた薬草を鳥人のくちばしで一束取り出し。
魔王様の口の中に入れようとした瞬間。
見事な一撃を食らって、吹き飛ばされて。魔王様の悲しみのこもった叫びを聞きながら……今に至る。
魔王様……こんな時ぼくは。
ぼくはどうすれば良いのでしょうか……。
一
どうしよう。離してくれそうにないどころか、さらにくっつかれちゃったよ……。
『ドン』って音が聞こえた時はこれで起きてくるかと思ったけど……。
「お兄ちゃん……む~にゃにゃにゃ……」
眠ったままだ。何時間こうしてたんだろう。……ログアウトするか。
そろそろサイキまると会いたいし。
俺は抱きつかれながらもステータス画面のログアウトボタンを押す。
~ログアウトしますか?~
「はい」
~それではログアウトします~
……ふう、戻ってこれたか。
いくらリアルでも、あのままずっとはさすがにな……。もうちょっとファンタジー感溢れる冒険をさせてくれ。
『ワンワオン!』
おー、サイキまるぅぅ!!
だが、サイキまるは俺をみて、吠え続けている。
……嫌われたか? いや、俺とサイキまるの絆はそんなやわなものじゃない。
だとしたら原因は……何かずっしり重いような軽いような……。
「お兄ちゃん……」
……え? え? えええええ!?
あまりの衝撃に頭が追いつかなくなってきたんだけど……。
ふと、周りを確認する。俺の部屋だな。
よし、これは夢だな。このまま布団で寝るとしよう。
朝になったらいなくなってるはずだ。
……お姫様は。
そして、俺はサイキまると共に。
気のせいであるはずの柔らかい肌が自分に触れているという幻を。
できる限り見ずに……気にせずに寝た。
……うん? 何か眩しいな。朝か。
『ワウンワンワウン!』
んえ、サイキまる……? どうしたんだよ……。
俺はゆっくりと体を起こそうとする。
──!?
……ん~っ?
何かかなり肩がこってるなー。
あー、そういえば。昨日はとんでもないことになったんだっけか。それでかな!
でも、ここにお姫様は……いないよな。そりゃそうか!
よし、ご飯作ってバイトに行く準備をしよう!
『ワウワウ、ワワン!!』
……うん、分かってるよサイキまる。
でも、俺だって現実逃避したいことあるんだ。
なんで……。
「目が覚めたようだな? 青年」
起きたら俺の部屋じゃなくなってるんだよぉっ!?
「ど、どにら様でしょうか……?」
うぅ、焦りすぎて舌かんだ……。
「ああ、我輩こそ魔王ドニラである」
すごく魔王らしい声。
『THE 魔王』って感じの威圧感のある声だ。
……でも、ごめん。状況が全く読めない。
一度落ち着くためにも周りを見渡してみよう。
まず、俺が朝だと感じた光の正体は上にあるマグマだ。この時点でもうおかしい。
どうやら、俺はまたしても宙吊りになっているようだ。
……今度はサイキまるも一緒に。
「……お前に一つ尋ねたいことがある」
よかった。速攻でマグマにドーン!
ということはなさそうだな。
「どうやってここに来た」
どうやってここに来たって言われてもさぁ……。
「俺が聞きたいです」
心の声で言うつもりがぁ……。
「そうか……ということは我輩を呼んだのはお前ではないのだな」
「違います」
「……ならば仕方ないな」
ほっ……助かったか。
「落ちろ」
「え゛ちょ、ちょっとま──」
その瞬間俺を縛っていた何かは消え……俺とサイキまるは一緒に落ちていく。
あつ、あっつぅ!?
まだマグマには落ちてないけど、熱気が……!
これ、ゲームだよなっ!?
俺はステータス画面を開く。
っていうか。開いてくれ!!
俺の思いが通じたのか。ステータス画面が開き、ログアウトボタンが見える。
押そうとするが、手が届かない。
ヤバい……体が焼けるようだ……。
こんなにリアルにする必要ないだろ……?
くっそぉ、サイキまる!
お前だけでもログアウトしろ……!
俺は一緒に落ちていくサイキまるにログアウトボタンを何とか押させることに成功し!
よし、後は……あっ。
~ログアウトしますか?~
『ワンッ!』
~それではログアウトします~
サイキまるは姿を消した。
俺は……間に合わなかった。
あ──
俺は言葉を発する前にマグマに飲み込まれる。
だが、その寸前に何かの声が聞こえた。
──GAME OVER
世界はリセットされます。