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罪X罰

 ……気がつくと。

 俺はさっきとは正反対の暗い部屋にいた。

 下には天井、上には床が見える。


 それで状況を把握した。


 俺はかなり高いところに吊るされているんだ。

 ステータス画面を開いてログアウトしたいところだけど……何か黒い物で縛られてて開けない。


 いや、リアル追求しすぎだろぉぉ……。

 動けなくてもせめて、ログアウトはできるようにしておいてくれよぅぅ……。

 今の自分の状況のひどさに泣けてきたぞ……。


「ねぇ。聞こえてる?」


 そんな時、女性とも男性とも取れる声が聞こえる。

 情けなさと罪悪感による涙で姿は見えづらくて。

 どこにいるのかさえ分かんないけど。

 

「聞こえてるね。少しあなたの話を聞かせて」


 俺まだ何も言ってないんだけどぉ……。


「……話を聞かせて」


 ヤバい……明らかに怒った感じの声に変わった。

 そりゃそうだろうけどさぁ! でも誤解なんだよぅ! 俺はここに来たらあの女の子といつの間にか寝ていて……ってこれ弁解できそうにねぇーっ!!


「そうなんだ。なら仕方ないね」


「へ……っ?」


 俺がかなり情けない声を出した瞬間。

 縛っていた黒い何かは消え、俺はそのまま落ちていく。


 ああ、こりゃダメだ……。

 さらばだサイキまる。お前は幸せに……ってまだ死ねるかぁっ!


 俺は拘束が解けた今。

 ステータス画面を高速で開き、ログアウトボタンを押す。

 落ちるまで後、10秒くらいか?


~ログアウトしますか?~


「はい!」


~それではログアウトします~




 ん、ここは……俺の部屋か。

 サイキまるは……。


『ワン!』


 良かった無事か……ってこれよく考えたらゲームだから死ぬわけないじゃん。何やってんだ俺は……。


 それにしても……すごいな。

 あまりのリアルさに驚きを隠せない。

 これは時間を忘れてプレイできるわけだよ。


 ……俺はプロローグで止まってるけど。


 そんな中、サイキまるは『もう一回!』とでも言いたそうな表情をしている。


 ああ……悪かったなサイキまる。

 俺の独断でログアウトさせちまって。


 ……よし、もう一回行くか!

 今は19時。後2時間ほどはプレイできそうかな。


「行くぞサイキまる!」

『ワンワオン!』


 俺たちはもう一度。

 同時にGAME STARTをクリックした。


 

 気がつくと……もう、この下りはいいかな。

 俺は横で寝ている仮の妹の姿を確認する。


 ……あれ?

 さっきと同じお姫様のような女の子……?


 始まり方の違いは時間帯によるのか? 

 たしか、まるの時は……いや、同じくらいの時間だったような? それとも完全ランダムだけど、偶然連続で来たとか?


 俺がそんな考察をしていると。


「お兄ちゃん……」


 ……っ!? 

 女の子は俺に寝ぼけて身を寄せてきた。ヤバいと思った俺はそーっと布団から出ようとするが……。


「ん……ぅ」


 抱きつかれてしまい、身動きが取れない。

 後、なんか良い香りがする。


 ……ヤバい。これはヤバい。


 どちらかといえば、今の俺は焦りの方が勝っていた。

 さっきは本当に何もなかったから、あの誰かに許されたのかもしれないけど……。


 今回は……想像しただけで震えがする。


 何されるか分からないけど……この子がもし、お姫様のような格好をしている()()じゃなくて。


 本当のお姫様だったとしたら……。

 俺はいきなり断罪バッドエンドを迎えることに……?


 ん? でもこれって魔王を倒してお姫様を救い出すんだったよな……?

 俺はこのゲームの目的を思い出し、抱きついてきている女の子をちらりと見る。 


 見れば見るほど高貴さとかわいさが溢れているその姿は……まさにファンタジー世界のお姫様だ。

 ……でもそんなことあり得るのか?

 だってこの子がお姫様だったら俺は今どこにいるんだよ。 


 女の子に抱きつかれているけど、動けないわけではないので試しにステータス画面を開く。

 最初に確認した時、現在地とか載ってたような気がするんだよな。

 あったあった。えーと。


 現在地 マジサイキョー城


 え、『城』ってことは本当にお姫様なのかこの子?

 ……いやいやいやいや。


 それはおかしいだろ? 何で、もうお姫……さ──


 ……そうだった、忘れてた。

 たしかサイキまるが『おひめさますくいだす』って『設定』してたな……。


 ってことは今の俺は……お姫様救いだした後なのか?

 えっ、もうゲームクリア?


 いや、そんなわけないよな。エンディングも流れてないし。

 ……たしかプロローグでは。   


『魔王を倒し。

 囚われの姫を救い出してください……』


 ──って言ってたよな。


 ……もしかして。

 これにはクリア条件が2つあって。

 魔王も倒さないとダメなんじゃないか?


 だからエラーは出ずに。

 すんなりストーリーが進んでるんだ。

 そうと決まれば……いや、出ていこうとしたけど無理だ。


 女の子……いや、お姫様は俺にしがみついている。

 無理に引き離そうとすると、目を覚ましてまた同じ目に合うだろうな。


 ここはおとなしくして。寝ぼけている姫様に従おう……。



 X


 ──魔王という職業は向かってくる敵を倒したりするものだと思ってた。


 そして、崇高な目的を持った勇者と戦い、華々しく散るのだと。

 実際、私が魔王になった直後は。

 英雄のような心を持った勇者たちが戦いを挑んできた。

 あの頃は結構良い戦いができてたっけ。

 技と技のぶつかり合い。軽い気持ちで楽しめていた。


 でもその後、私の元に辿り着いたのはクズな勇者ばかりで。

 あの時、負けておけば良かったと思っても、もう遅くて。

 そんなやつらには負けたくないし、コノッちを渡すわけにはいかないという思いで勝利してきた。


 それとも──『最強』ってそういうものなのかな。


 私の仲間たちは『最強』のエセ勇者たちの前に太刀打ちできず、なすすべなくやられていってしまった。

 

 ゲームオーバーになったら世界がリセットされて、なかったことになるとはいえ。


 ……やっぱり、心が痛む。

 

 だからこそ私は……ヒカルを通じて、みんなが幸せに暮らせるように支援を始めた。

 もちろん、今回の支援も整っている。


 最初は上手くいかなくて、何度も落ち込んだりしたけど。

 この世界が何度もリセットされる度に。

 どの地域にどんな支援をすればより良い暮らしをしてもらうことができるかを知って。

 この世界の85%くらいの地域はみんな幸せに暮らせるようになってきていた。

  

 まあ、ズルいけど。これがこの世界なのだから仕方ない。


 でも、今回のエセ勇者は『設定』だけでそんな私の努力を簡単に潰した。


 みんなが幸せに暮らせる世界は。

 エセ勇者ただ一人だけが幸せになる世界に変わってしまったのだから。


 いつもなら勇者の戦闘中にヒカルが呼んでくれた場合、その戦闘の間、この城から出ることが出来て。

 エセ勇者だったらたたきのめすことができるけど。


 今回のエセ勇者は『仲間を呼ぶことができない設定』をしていたために。

 私もあのエセ勇者が来るまでなすすべがなかった。


 ……こんな情けない魔王がいて、いいのだろうか。


 『設定』を使って無双するサイキョーゲーム。

 こんなことならもう少し考えておくべきだったかな……。


 ──なんて。落ち込んでばかりいられないよね。今度はもっと頑張らなくっちゃ。


 魔王がそんな落ち込みからいつもより、やや早めに回復した頃。

 扉の向こうから大きな声が聞こえる。


「魔王様! 魔王様はいらっしゃいますか!?」


 あれ? この声……もしかして。


 魔王の顔が少しほころんだ時。部屋の扉がゆっくりと開く。

 そこには鳥のような羽が生えた人間……ハーピー族の少女が羽を納めて立っていた。


「あっ、ハルッぴ! 久しぶり!」


 魔王は本来の口調に戻る。


「ハルッピ……? 魔王様。私の名前は『ハルピィ』です」


 ──知ってる。一緒に旅して仲間になってもらって。

 友達になったんだもん。

 ……覚えてないよね。でもいいんだ。

 今度こそ幸せに暮らしてくれてるなら。


 魔王は少し寂しげな表情で旧友を見つめる。

 だが、旧友……ハルピィは違った。


「そして……魔王様に仇なす者」 


 ハルピィは鋭い目付きで魔王を睨み付け。

 

「えっ……?」


 羽を広げ、瞬時に魔王へと飛びかかる。

 魔王はそんなハルピィの殺気に少し動揺を見せ、すぐに。


「うぅ……っ」


 抵抗することなくその身体は貫かれ──魔王の体力はあとわずかとなった。


 魔王が何の抵抗もせず、あっさりと目的を成し遂げそうになったことに対してハルピィは拍子抜けしていた。


 ──これが魔王の手段とも気づかずに。


(……ステータス確認……あった)


 魔王は仲間であるハルピィのステータス画面を開き。


(【洗脳……解除】)


 状態異常『洗脳』を解除した。


 だが、そのまま魔王は倒れこみ。

 その身には……しばらく赤い雨が降り注ぐのであった。

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