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XXXXX

「はぁはぁ……うう……」

 

 魔王は姫の恐るべき攻撃に対抗できないまま、ただただやられるのみ。


「ふふ……これまでね! 魔王!」 


 姫は馬乗りになって、そんな魔王の表情をみて、勝ち誇っている。


「や、やめて……」


 魔王は姫に許しを乞うが、姫には通用しない。


「ふっ、自らの力を呪うがいいわ! 必勝の──【くすぐり攻撃】ーぃ!」

「ちょ……ぁ……そこっ、ダメっ……!」


 魔王はひたすら笑いをこらえつつ。

【くすぐり攻撃】の師匠であるコノッコ姫にされるがままにされていた。


 そんな状況を。

 扉を少し開けて、隙間から覗きこんでいる者がいた。

 ……ヒカルである。


 ヒカルは案内人の役目を果たす前に。

 勇者となるはずだった者がまさかのログアウトを行ったため、何もできず。


 仕方がないので、近くの町でお土産を買って。

 魔王に喜んでもらおうと帰ってきていたところに、魔王の部屋からなぜか姫の声がしたので。

 気になって覗いてみたら、とんでもないところに出くわしてしまい。

 とりあえず観察していたのであった。


 ……やましいことはない。


 そもそも、今のヒカルでは姫は太刀打ちできない相手なのである。

 ヒカルのレベルが10ならば、姫のレベルはその10倍となる。勝てるはずもない。

 事実、魔王でさえ、姫には勝てない。

 この場合はステータスは特に関係ないが。


 ……そんな状況がしばらく続いた後。

 ヒカルは気づかれない内にこっそり、逃げることにした。

 

 懸命な判断である。

 だが、それを見透かされていては意味がない。


 コノッコ姫は魔王に【くすぐり攻撃】を行っている状況でも。扉が少し開いたことを見逃さず……ニヤニヤしていた。


 そんなことは露知らず。

 ヒカルは裏庭に出て、少し自分の力の特訓を始める。



「すぅー、はぁー。よし!【竜変化(りゅうへんげ)】!」


 ヒカルは竜へと姿を変えた。

 ……ステータスはそのままに。


「よしよし。次は……【鬼変化(おにへんげ)】!」


 ヒカルは鬼へと姿を変える。


「よっし! 次は【剣変化(つるぎへんげ)】!」


 ヒカルは剣に姿を変え、カランと音をたて、地面に倒れこむ。


「いったぁ……。折れるかと思った……」


 今のヒカルは〈ちから〉、〈まもり〉ともに『5』の剣になっている。

 そもそも、ヒカルのこの力は『設定』によるものであり。

 特訓しようがしまいが意味はないのだが……。


「【鳥人変化】!」


 ヒカルは鳥人の少年になった。

 

「よーし、これで魔王様を助けに行くんだ!」


 ヒカルは羽を広げ、高速で飛んだ。

 そして──


「ぐへぇっ!?」


 城の壁に激突し……気絶した。


 ここでヒカルのステータスをみてみよう。


 なまえ:ヒカル

 しょく:あんないにん

 ちから:5

 まもり:5

 すばやさ :555──


 圧倒的な〈すばやさ〉である。

 この世に〈すばやさ〉でヒカルと渡り合えるものは、ほぼいない。

 だが……ヒカルはこのステータスを使いこなせていないのであった。


 X


「ヒカル……」


 魔王は姫の攻撃に耐え抜き。姫が部屋へと帰るのを見送った後。

 玉座に座り直し、ヒカルの連絡を待ち望んでいた。

 だが、いつもの定期連絡は来ず。魔王は1人で寂しがっていた。

 そしてしばらくの間、玉座に座りながら色々していた時。


「おいおい、そっちは暇そうだねぇ?」


 魔王の部屋に魔王以外の姿は見当たらないが、誰かの声が響く。


「暇っていうか……寂しいっていうか」

「それを暇って言うんじゃないか?」


「……そっちは暇じゃないの?」


「おうおう、怒りなさんな主様。こっちは毎日勇者が来てるんだぜ?」


「そう。それで……負けたの?」


「勝ったに決まってんだろうが。俺様の強さは主様が一番知ってるだろ?」


「そうだね。負けるはずもないか」

 

「今回の相手は創造神を名乗ってたんだけどな。一撃で沈みやがった。『設定』練り直してきて欲しいところだが、そういうわけにはいかねぇし。もう、こっちに来ることはないと思うぜ」 


 そんな男の話を聞き、魔王は少し目をそらしながら。


「……一方的な戦いが目に見えるよ」


「そいつは間違いないな! ハハハ!」


 陽気に笑うこの男の正体については割愛するが。

 この男もまた『最強』であるといえるだろう。


 

 ─



「サイキョーゲーム……か」


 パソコンの画面の明かりしかない真っ暗な空間で男は一人つぶやき。


 GAME STARTをクリックする。


 男が望むものは……()()()()

 馬鹿げた思想であるが。この男もまた本気だった。


 一


「あぁーっ! バイト疲れたーっ!!」


 玄関の鍵を開け、そう叫ぶと。

 サイキまるが部屋の奥から姿を現し、迎えてくれた。


「ただいま。サイキまる」


『ワワオン!』


『おかえり!』とでも言いたげな表情をしながらすり寄ってくる。

 俺はそんなサイキまるの前にしゃがみ。一番喜ぶところを撫でてあげた。


『ワウワウ~ン』


『もっともっと~』と言っているようにも聞こえたので、もっと撫でてあげた。


 サイキまるは嬉しそうだ。

 つい、俺も嬉しくなってしまう。


 おっと。でもいつまでも撫でてると……。


『ワワウーン……』 


『もういいでしょ……?』とでも言いたげだ。

 俺の方が夢中になっても仕方がない。

 俺は撫でるのをやめて、部屋の奥に行き、パソコンを起動する。

 ようやくサイキまると楽しめそうなゲームが見つかったからな。

 サイキまるもそれに気づいてすぐさまこっちに向かってくる。

 同時に『サイキョーゲーム』のゲーム画面が開かれる。

 

「よっし! 行くぞサイキまる!」

『ワン!』


 俺たちは同時にGAME STARTをクリックした。



 

 気がつくと。俺はいつの間にか寝ていたようだ。


 窓からは光が刺し……デジャヴだな。

 そういえば、最初からだったよな。

 ということは。当然横に。


 ……ぐっすり寝ているかわいい女の子がいた。

 だが、俺は動揺せざるを得なくて。

 また、布団とともに飛び起きる。


 ……どちら様?


 隣で寝ていたのは、まるではなく。

 まさにお姫様のような姿をしている見知らぬ金髪の女の子。


 そもそも、よく見ると……。

 部屋の状況も前に来た時とはかなり違っている。


 部屋は少し暗く。

 入って来ていた光はまるで月の光のようで。

 前は朝だったのに対して夜を感じさせる。


 それに以前、来た部屋は。

 もっと庶民派な部屋で俺も落ち着けるような雰囲気だったけど……。

 ここはその真逆。豪華絢爛(ごうかけんらん)って感じだ。


 そして、前と同じように。

 女の子はまどろみながら俺の方をみて。


「お兄ちゃん……?」


 と、テンプレ発言。


 もしかしてここに来る時、どこで目覚めるかはランダムで。

 でも、その代わり。

 かわいい妹がいることは確定……とか?


 俺がこのゲームの始まり方について考察していると。


 ──突然。


「……エッちーーー!!」


 女の子が身を起こし、正座しながら俺を見たと思ったら大きな声で叫び出した!?


 え、ちょっと待てぇ!?

 今回は本当に不法侵入からの始まりなのかよっ!?


 もうお兄ちゃんのふりをしてごまかすのは無理だ。前例もある。


 ここは正直に弁解するんだ……!


「いや、俺は何もしてな──」


 あっ、女の子の服が少しはだけてる。


 ……いいか? 俺はノータッチだ。

 何もしてないんだ。事実無根だ。

 冤ざ──


「嫌ぁぁっ!! 誰か来てぇぇぇ!!」


 あぁぁぁぁっ!!

 ついに俺、犯罪者なのかぁっ!?


 ……はっ! そうだ、ログアウト!


 俺はすぐさまログアウトボタンを押そうとする。 

 よし、これなら──もぐほへぇっ!?


 だが、それより早く、部屋の扉を誰かが開け。

 その誰かによって一瞬で俺は床に叩き伏せられる。


 意識が……。

 朦朧(もうろう)としてきた……今度こそおしまいかぁ。

 まさか、『設定上』で女の子に手を出したことになってしまうなんて……。


 ゲームとはいえ、あんまりだぁ……。

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