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侵入者X

これからは基本的に


X……魔王の視点

★……ヒカルの視点

一……かずはの視点となります。


ご了承ください。



 あ、あれ……?


 いつのまにか俺は布団をかぶり、ぐっすり寝ていたようだ。

 窓からはあたたかな日差し。小鳥はさえずり。

 俺の横には……銀髪のかわいい女の子が寝ている。


 ……ん?


「うおあっ!?」


 びっくりして布団とともに飛び起きる。ヤバい心臓がバクバクいってる……。


「ん……どうしたのお兄ちゃん……」


 待ってくれ。誤解だ。

 俺は一人っ子。生き別れの妹とかいた覚えもない。

 それによくみると、ここ俺の部屋じゃない。

 ということは……考えられる可能性はただ一つだ。


 ──『寝ている間に不法侵入』


 ちょっと待て落ち着け。落ち着くんだ。

 俺が今、すべきことはただひとつ。


 この女の子は俺のことを『お兄ちゃん』だと勘違いしている。

 本物のお兄ちゃんがどこに行ったのかは分からないけど。

 お兄ちゃんのふりをしてやり過ごすんだっ……!


「よ、よう! シスター!」


「……しすたぁ?」


 いや、銀髪の外国の人でも自分の妹のことシスターとは呼ばないだろぉっ!

 何考えてんの俺っ!?


「お兄ちゃん……?」


 ヤバい。『?』マークがついた感じの声ぇ!

 そもそも見た目に惑わされてたけど、『お兄ちゃん』って言ってることは日本人かこの子!?


 ──もうどうにでもなれぇっ!


「そうっ! お兄ちゃんだよっ!」


「…………」


 ……いや、お兄ちゃんじゃありませんって言ってるようなもんだろこれぇ!

 

 盛大にやらかした俺は。いつ、大声を出されてしまうか焦りに焦って。

 いちかばちか部屋の扉に向かってダッシュッ! もうこれしかねぇ!!


「うおおおおおぉっ───!?」


 だが、タイミング悪く部屋の扉を開けて、入ってくる……眼帯をつけたガタイの良い男性。 


 想定外な男性の登場に思わず急ブレーキをかけ。

 俺はひきつった笑顔をしながら。


「どうも……こんにちは」


 今から俺をタコ殴りスプラッタにでもしてくるだろう相手に挨拶。


 歴戦をくぐり抜けきたかのようなその姿は威圧感たっぷりで……ふふ。逃げ場がねぇ……。

 あの動揺している女の子を人質にとるって手もあるかもしれないけど。

 俺、そういうことはしたくないし……そんな度胸もない。

 いさぎよく────散ろう。


 俺は全ての攻撃を受け止める構えをとる。

 ……かかってこいやぁっ!


「……どうしたんだい、かずは。何か変なものでも食べたのかい?」


 目を丸くしながら、ガタイに似合わぬ優しげな声で問いかけられた。


「……え?」


 親父、なんで俺の名前知って……?


 ん、『親父』……?

 何で見知らぬ人を親父って呼んでるんだ俺は。

 俺の親父はもうちょっと頼りなさそうな感じだぞ。


「お兄ちゃん昨日、毒消し草一気食いしてたからかな?」


 いや、毒消し草一気食いってどういうことだよ? そもそも俺の昨日のご飯はカレーライス……。


 ──そうか。もしかして。


 試しにステータス画面を開いてみる……やっぱりだ。

 名前、職業、能力値。その他色々。


 俺は……ゲームの世界にいるんだ。


 よくみると今は使うつもりはないけど、ログアウトボタンもある。


 でもこんなリアルなの? VRゲームって……。


 X


一方、魔王の城では。2つの声が交差し、響き渡っていた。


「まひょわひゃっ! もひゅ……もひゅひゃひぇへっ!」

「えいえいえいえいえいえいえい!」


 新たな勇者が来るまでの間。あの下りが何度も繰り返されていたのであった。

 だが、新たな勇者の登場によってそんなひとときも(一旦)終わりである。


「ふぅ……」


 きらめく汗を流しながら魔王は息をつく。

 そして、そんな魔王を。

 キラキラしたドレスを身にまとい、物影から覗く者がいた。

 そして……しばらくの間、様子を伺った後。


「エっちー!」

 

 あろうことか、魔王に向かって叫び出す。

 そんな叫びに魔王は振り向き、声の主を確認すると──ため息をつきながら。

 

「その呼び方やめて……」


 魔王はひたすら目で訴えているが、残念ながらその相手には効果がない。


 魔王を恐れず、『エっち』呼ばわりするこの者こそ。

 サイキョーゲームのお姫さま。

『コノッコ・マジサイキョー』である。


「王子様来たー?」

 

 そんな魔王の言葉は聞こえていないのか。聞く気がないのか。

 コノッコは魔王にほがらかな笑顔で質問する。


 王子様……か。あんなエセ勇者がコノッちにとっての王子様なわけないし……。

 

「来てないかな……」

「えー!? もう来てもいい頃でしょ!?」

「ううん……」


 コノッちはいつも王子様が来ることを待ち望んでいる。『いつか、王子様が来てくれて私を救ってくれるの!』って……何度も聞かされた。

 私もそうであって欲しいと思うけど……来るのは残念ながら。

 王子様とは程遠い人たちばかり。

 コノッちの王子様は……いったいどこにいるんだろう。


 私は切ない気持ちを感じ始めてきていた。

 いつまで世界のリセットが繰り返されることになるのか。

 いつになったら──


「……それはそれとして、ここで何かしてたんだよねー? ものすごい音と声がワタシの部屋まで聞こえてたけどぉ?」

 

「え、それは……」


 私は急に飛んできた質問に戸惑う。

 けど、これはコノッちの罠。

 さすがにもう引っ掛からないんだから。


「それは──」


 魔王は質問に答えようとするが……あることに気づき。口をつぐむ。


 ……『部屋の扉が吹き飛ばされた音だと思うよ』なんて、言いそうになっちゃったけど……ダメ。

 そんなことコノッちに言える訳がない。


 だってそれは、あのエセ勇者が来たってことを教えることになっちゃう。

 コノッちは……ちょっと悪どいところはあるけど。純粋な子だから。

 本当の悪意に満ちた話をすることはできない。

 それにまだ。こういう話を知るべき時じゃない。

 なら私はどうするべきか。

 私に残された答えは。


『ヒカルと──』


 ……これしかないね。


「う~んっ?」 


 コノッちは不思議そうに首を傾げて、私を見ている。

 こうなったら、正直に言うしかないよね……。

 

「ヒカルと遊んでました……」


 でも、『あ~、なるほどね~!』って感じのニヤニヤ、やめて……。


「そっかー! ヒカルくんとねぇ……」


 やましいことは何もない魔王だが。

 これ以上、言葉を発することができない。


 コノッコは魔王とヒカルの関係性をよく知っているため。

 終始ニヤニヤし続けている。


「さすがエっちだね!」


 この呼び名は魔王がコノッコに会った時。『ワタシにかわいい名前をつけて!』と頼まれ。『コノッち』と呼んだために。


 名前から『エっち』と呼ばれるようになってしまった……ようだ。

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