ぐごごごご……わがねむりをさまたげるXXXXX
魔王とヒカルの同じようないちゃつきをみせても仕方がないため。
一度視点が変わります。
小窓からは朝日が差して。
青年に目覚めの時を告げている。
そんな日差しに当てられて。
青年は目を覚ましたが……気に入らなかったのか。
再度、布団をかぶりなおし一言。
「ぐごごごご……わがねむりをさまたげるも──」
言っておくと。この青年は魔王ではない。封印されていた訳でもない。ごく普通の……一般人である。
そして、そんなテンプレ発言の真っ最中でも。
青年の上に飛び乗る、空気を読まない大きな影。
「ぐほへぇ!?」
青年はあまりの衝撃に言い切ることができず。
『我が眠りを妨げるモグホヘェ』という意味の分からない言葉となってしまった。
「ぐぇぇええ……おのれ、サイキまるぅぅ……」
『サイキまる』と呼ばれる大きなそれは。罵倒に対して吠えたかと思えば青年の上で跳んだり、跳ねたり。
『ワン、ワン!!』
「わ、わかった! わーかったぁっーー!!」
青年はその攻撃にたえきれず布団から飛び起きようとする。
そして、青年の動きを察知したかのようにサイキまるは青年の上から飛び降りる。
「はぁ……」
青年は仕方なくだるそうに身を起こす。
──が、同時にサイキまるが飛びかかる。
「いや、ちょっと待てってぇぇっ!!」
これがこの青年……『九郎 一葉』のいつもの朝である。
一葉はこのサイキまると寝食を共にしながら暮らしてきた。
いつでもどこでも一緒だ。
そんな一葉とサイキまるとの出会いは長くなるため一旦割愛する。
そんなこんなで一葉とサイキまるの一方的で猛烈なスキンシップが終わった後。
一葉は久しぶりの休みだったので、ゲーム探しをしていた。
探しているのは『犬と一緒に遊べるゲーム』。
といっても『バーチャルな犬とふれあえるゲーム』ではなく。
一葉の家族である、サイキまると一緒に遊べるゲームだ。
単純明快だが、なかなか見つからない。
「はぁ……やっぱりあるわけないよなぁ……」
一葉は子どもの頃から『ガチ勢』と呼ばれるほどではないがゲーム好きで。
そんなゲームの楽しさをサイキまるにも知って欲しい……と考えたことがきっかけになった。
実に荒唐無稽な考えではあるが、一葉は本気。
どんなゲームでも、一つ一つ確認し、サイキまると楽しめそうかどうか調べていくほどだ。
彼の部屋にはその証拠となる積まれたクリア済みゲームが山ほどある。
だが、そんな努力もむなしく見つからず。
試しに最近はパッケージ版ではなく、スマホ、パソコンからダウンロードできるゲームから探していた。
「『クロニクル・プライド』……か。評価は星2。なになに、あなた好みの結婚……ブライドの間違いじゃねーの!?」
だが、どんなゲームでも。
「行くぞ、サイキまる!」
『ワウン!』
サイキまるとともにプレイしてみるのが、一葉のやり方。
「あ、違うって! たぶんそこはこう!」
『ワウ? ワウワン!』
「あぁ、違うってばーー!」
──そんなやり取りが続き。3時間ほど経った頃。
一葉とサイキまるは1つのエンディングを迎えていた。
「ほぼノベルゲーだったけど。案外楽しめたな……よし! 星4評価っと!」
いつものように一葉は正直な評価をつける。
「でも、サイキまるには難しいかな……」
『ワウ……』
一葉はサイキまるが落ち込んでいることに気づくと。ふさふさした首回りをわしゃわしゃと撫でてあげた。
『ワンワン!』
『くすぐったいよぉ~』とでもいいたげな顔をしながら、サイキまるは一葉に身を委ねている。
そんな表情をみて一葉は優しくほほえみ、小さくガッツポーズをとったあと。
気合いを入れ直し、その後もサイキまるとゲームをプレイしながら探し続けた。
「うーん……どれも面白いんだけど。サイキまるが楽しめるかどうかといえば、ちょっとなぁ……」
いつの間にか日が沈み、休みも残りわずかとなった頃。
一つ、一葉の目に留まったゲームがあった。
「サイキョーゲームか……シンプルな名前だな。他のゲームがどれも個性を感じるネーミングだからか?
えーと、評価は4.5……ってレビュー多いな!?」
案外高めな評価とかなりのレビュー数に衝撃を受け、少し確認を行う。
「無言星1レビュー……か。これは当てにならないかな。他──」
下にスクロールすると。
★★★★★
サイキョーゲームのおかげで彼女ができました!
★★★★★
このゲームはすごい……!
私のおばあちゃんにプレイしてもらったらすごく元気になりました!
★★★★★
サイキョーゲームのおかげで痩せることができました! 今ではモデル体型でっせ!
「いや、エイプリルフールのアプリレビューかよぉぉぉっ!?」
思わず突っ込まずにはいられなかったレビュー欄。
マジでどうなってんだよ!?
一葉はこのレビュー欄を見ても仕方ないと感じていたが。
『ワウーンッワン!』
サイキまるが一葉のまねをして、画面を下へスクロールさせていく。
「ちょっ、サイキま……えっ?」
その時。困惑するほどの凄まじい圧を感じる星5長文レビューが、レビューの地層から発掘された。
「ちょっと待った! サイキまる!」
『ワン!』
ここまでの長文レビューが書かれている時は。愛だけで打ち込んだであろう意味不明な文章が含まれるレビューか。
本格的にこのゲームを楽しんだ場合に書き込まれるレビューだろうと、一葉は感じていた。
だが、この長文レビューには不可解な点……空白の部分があまりに多い。
一葉はレビューを気にするようなゲーマーではないが、これは一度見ておくべきのような気がしたので。
一度上にスクロールして。最初からゆっくりと文章を追っていくことにした。
★★★★★このゲームをプレイする者へ
サイキョーゲーム。
これは自らが『最強』だと思う設定を入力し、その『設定』を駆使することで無双していくVRゲーム。
『 』
このゲームは突如 現れたものだ。
プレイし始めると……何とそのゲームの世界に入り込んでしまい。
時間を忘れてプレイすることが可能なのだ。
基本は1人プレイのファンタジー世界なのだが。
『設定』によっては難易度を変えたり、世界線はそのままにゲームのジャンルまで変えてしまうという荒業。プレイ人数を変えることもでき、なんと──
「犬や猫、どんな者でもプレイすることが可能……って!?」
半ば信じがたい話だけど。
これはサイキまると一緒に遊べるゲームなのかもしれない……!
俺は途中だけどすぐにレビューを閉じ。
こんな時のためにひたすらバイトして、先週ようやく購入できた俺とサイキまるのVRゴーグルを用意する。
それにVRゲームは俺も初めてだから楽しみだ。自然と胸が踊る。
サイキまるも少しワクワクしているようにみえる。みえるだけかもしれないけど。
「よっし! 行くぞ、サイキまる!」
『ワウワン!』
俺たちは一緒にVRゴーグルを装着し、GAME STARTをクリックした。
……だけど、VR ゴーグルには何も表示されず真っ暗なまま。
「あれ? 使い方おかしいのか?」
一度、ゴーグルを外しパソコンの画面を確認する。
そこには『このゲームにはVRゴーグルは必要ありません』の文字。
え、マジでか? ゴーグル使わなくていいのか?
俺の努力の結晶をサイキまるの頭から外し。パソコンの画面に映し出されていく説明を読む。
《Prologue》
あぁ、勇者様……!
お待ちしていました! ▼
いきなりテンプレだな……。
あなたは自分の才能を見いだせないものたちに
辟易としていたことでしょう……。 ▼
いや、俺才能ないから……ってゲームだこれ。
ですが、それももう終わり。
今こそその時がやって来たのです。 ▼
ああ、こんな感じで進んでいくのか。
ってかこれ、本当にVRゲームなのか……?
この世界のためならば。
あなたの求めるものは何でも与えます。▼
へぇ……ひのきのぼうと50Gとかじゃなくて、何でもときたか。太っ腹だな。
しかし、申し訳ありません……。
望みを叶えられるのは一度きりです。 ▼
いやいや、十分です。
心して『設定』して。 ▼
身も蓋もないこと言うなよ……。
いきなり現実に引き戻された気分だ……。
魔王を倒し。
囚われの姫を救い出してください……。▼
あ、魔王がいるのか。
分かりやすいテンプレゲーかな?
あなたが『最強』だと思う『設定』を
入力してください ▼
ああ、これがレビューにあったやつだな……希望を書くとその通りになるっていう。
でも、『最強』っていわれてもどうしようか迷うな……。
『ワウーン、ワン、ワウウン!』
「え、キーボード貸してくれって?」
『ワン!』
サイキまるは俺と一緒にPCゲームをやっているうちにキーボードを打つことができるようになった。
何を入力したいのかは分からないけど。少しキーボードを貸してやるか……。
あなたが『最強』だと思う『設定』を
入力してください ▼
『かずはといっしょにいられる』
「サイキまるぅぅう……!」
俺は思いを押さえきれずにサイキまるに抱きつく。ふさふさしてあったかい……。
ってバカやろうっ! エンディングどころかプロローグで泣きかけたじゃんか……!
よぉし、俺も!
あなたが『最強』だと思う『設定』を
入力してください ▼
『かずはといっしょにいられる
サイキまると一緒にいられる』
感極まってこのまま進みそうになったけど……さすがにこれじゃ『最強』とはよべないよな。
『最強』か……。いざ、言われてみると思い付かないもんだな。
……いや、待てよ?
あなたが『最強』だと思う『設定』を
入力してください ▼
『かずはといっしょにいられる
サイキまると一緒にいられる
向かうところ敵なし』
これはどうだろ?
まだ、足りないかな?
『ワンワウーン』
え、もういちどキーボード貸してくれって?
『ワン!』
……今度は何を入力する気なんだ?
あなたが『最強』だと思う『設定』を
入力してください ▼
『かずはといっしょにいられる
サイキまると一緒にいられる
向かうところ敵なし
まおうのなかまになる』
「いや、仲間になったらダメだろ!? お姫様救い出さないと!」
『ワウゥン』
なんだ、その『仕方ないなぁ……』って感じの顔。
あなたが『最強』だと思う『設定』を
入力してください ▼
『かずはといっしょにいられる
サイキまると一緒にいられる
向かうところ敵なし
まおうのなかまになる
おひめさますくいだす』
「終わったよ! 救い出しちゃったよ!」
俺にその発想はなかったぜ……。
さすが、サイキまる……だーけーどーさー!
え、これありなのか? エラー出たりしない?
始まる前からクリアって大丈夫なのか?
俺はそんなことを一旦パソコンから離れて考えながら。
近くにある冷蔵庫から飲み物をとろうとした隙に。
『ワウッ』
「あ゛っ!?」
サイキまるはあろうことか、このまま。
【この設定で始める】を押しそうになっていた。
「ちょっと待てぇ! 修正させて──」
俺はとある事実に気づき、サイキまるを止めようとしたが。
タッチの差で、サイキまるの肉球の方が早かった。
ああ、俺にも肉球がついていれば……!
もうちょっと早く気づいていればぁ……っ!
『まおうのなかまになる』の項目消せたのにぃぃっ!!
そんなこと考えても、もう遅くって。
俺とサイキまるは『サイキョーゲーム』の世界へと飛ばされた。