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ニューゲーム……その果てのX

「ざっけんな!! 星1に決まっ──いや……別に魔王と戦わなけりゃあ……」


 とあるアパートの一室で、エセヒロだったものはあれほどの苦痛を味わったにも関わらず。

 性懲りもなく『サイキョーゲーム』のサイトを開く。


「今度はあの邪魔な案内人を『設定』で消すのを忘れないようにして……くくっ」


 実に薄気味悪い笑みを浮かべながら。

 表示された『GAME START』の文字をクリックし。


 再び『サイキョーゲーム』の世界へと足を踏み入れたのだった。


 X


 エセ勇者がGAME OVERになったことを確認すると。後ろでこっそり隠れていた小さな少年が魔王の元に笑顔で駆け寄る。


「助かりました、魔王様~!! これで世界は救われます~!!」


 世界がリセットされたことにより、エセ勇者の蛮行は全てなかったことになる。


「……安心するのはまだ早いよ? ヒカル」

 だが、そのことを知っていても、なお。

 魔王は冷酷な目を保ちながら『サイキョーゲーム』の案内人、ヒカルをみつめる。


 なぜ、案内人が魔王と一緒にいるのか?

 その答えは簡単。


 案内人ヒカルは勇者の仲間ではなく魔王の仲間なのである。


「うぅ、その通りですね……覚悟はできてます」


 ヒカルは今まで何もできなかった償いを受ける覚悟はあるものの。これから自分の身に下る罰を想像しながら震えている。


 魔王はそんな姿をみて、冷たさを感じさせる表情を保ちながらヒカルの前にしゃがみこみ。


 くすっと笑い。


「えい」


「ひゅえっ?」


 ヒカルの茶色いほっぺたをプニッとつつく。


「はい。今回の罰はおしまい」


 魔王は先ほどの冷酷な表情から一転。

 慈愛に満ちた表情、声でヒカルに対する今回の罰の終了を宣告する。


 魔王にはこういうところがある。

 ちょっとビビらせておいて、後から拍子抜けするくらい優しくする……お茶目なところが。


「えゅぅ……」


 そして、ヒカルは自分が『ひゅえっ?』なんて声を魔王様の前で出してしまったことに気付き。

 フードを深くかぶり、恥ずかしさを隠そうとする……が。


「『今回の』は……ね」


 魔王の今までの慈愛に満ちた表情は消え。薄気味悪く『ニヤッ』と笑う。


「へっ?」


 ヒカルが思いもよらない言葉にひるんだ隙に魔王はヒカルのフードを勢い良く取り、そのまま押し倒す。


「ちょ──魔王様っ!?」


「──隙あり! 必笑(ひっしょう)の……【くすぐり攻撃】ーぃ!!」


「ちょ、やめ……アハハハ!!」


 ヒカルは予想外の攻撃に笑いをこらえきれず(もだ)えている。


 ご覧の通り。

 魔王とヒカルはとても仲が良い。


 いつも戯れの際にはヒカルが呼ばれ、その度にほほえましい光景が繰り広げられるのだ。


「えいえいえいえいえいえい」


「や、やめっ。ひゃひーっ!」


──だが。そんな平穏なひとときも終わりを告げる。


「えいえ……あれ?」


 その理由は勇者の登場。

 元エセヒロが再びこの世界へ足を踏み入れたことで。


 ヒカルはここから消えたのだ。


「……ヒカル」


 魔王は一人寂しくつぶやく。


 

 その後、魔王はしばらく静かに玉座に座っていたが……。

 いつまでこうしていたのか気になり、ふと時間の確認をする。


 プレイ時間──9999:59:99


 ……これじゃ、時間が分からない。何年何月何日何時何分にしてほしい。


 魔王が心の中でボヤいていた……そんな時。 


「魔王様ーっ!! ただいま戻りましたーっ!!」 


 魔王に向かって手を振りながら走ってくる元気の良い少年……ヒカルの声が響く。


「あっ、おかえりヒカル。早かったね」


 魔王はそんな少年を笑顔で出迎える。


「アイツ、最初の町でGAME OVERですよ!? これ以上ないってくらい笑っちゃいました!」


「ふふっ、それはおかしいね」


「でしょ、でしょー? ざまあみろ!」



 ……消されたはずのヒカルがなぜ存在しているのかというと。


 その理由は2つある。


 1つはヒカルはそもそも消されていないということ。


 案内人は初めて勇者がこの世界に現れた時、『案内人不要』の設定がされていない場合。

 勇者の側にいなくてはならないというその役割のために、ヒカルは飛ばされたのである。


 魔王が寂しくつぶやいていたのは、案内人は勇者が来てから魔王の部屋まで、『パーティメンバー』として同行しなければならない──という『設定』によって。

 それまで魔王はヒカルとずっと会うことができなくなるので。

 本当にただ、寂しかっただけ。


 もう1つは元エセヒロが『設定』の入力をできなかったことにある。


 元エセヒロは『このゲームをプレイする際に『設定』を入力し、無双することができる』と考えていた。


 それは事実である。

 なぜなら実際、この世界は一度。 


『エセヒロの欲を満たすためだけの世界』に変貌していたのだから。


 ……だが、『このゲームをプレイする際に『設定』を入力』の部分は間違っている。


《Prologue》で説明している通り、その望みを叶えるのは一度きり。

 再プレイの際は『GAME START』を押した時点でゲームが始まる。


 そのため案内人ヒカルを消すことはできないまま。このゲームの世界に足を踏み入れたのである。


 ちなみに。

 本来なら『設定』をそのままに再プレイすることは可能だが、魔王はその『設定』を()()()


 それによって、元エセヒロは何度ここに来たとしても『設定未入力』として扱われ。 

 デフォルトステータスで、この世界に挑むこととなる。

 

 そもそも、本当に無双したいなら全ての可能性は考慮すべきであり。

 それに魔王も本来ここまでのクズでない限りは『設定消去』などは行わない慈悲深いお方。


 つまり、完全に自業自得である。


 ──その日。元エセヒロは震えながら星1評価を行った……。

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