思いX想いX重い
おかしい。俺はサイヤクの森に向かう途中で。
テレレレレー! ナントカがあらわれた!
みたいな感じで戦闘が始まったりするかと思ったのに……敵がいない。
それどころか。誰にも会うことなくサイヤクの森に着くことになるなんて。思ってもみなかった。
そんなサイヤクの森には。
まさに災厄が起きる前触れのような不安感を煽る、森のざわめき。
『コノとちサイコー』とは真逆な雰囲気の暗闇が広がっている。正直なところ、入ったら二度と出られない。そう感じさせてくるほどだ。
だけど、俺は行かないといけない。サイキまるはここにいるんだから。
こんなことで俺とサイキまるの絆を断つことはできないんだからな!
「じゃ、じゃあ……行ってらっしゃい」
そんなビビった声を出すコノッち。さっきまでの威勢はどこに行ったのか。って『行ってらっしゃい』!?
「え、コノッちは?」
「わ、ワタシはここで待ってるから!」
……怖いんだな。分かりやすいくらい震えてる。
でも、はぐれた方が大変そうだし。安全そうなところで待っててもらうのも一つの手かな。
「分かった。じゃあ行ってくるね」
「……えっ、本当に一人で行くの?」
もしかして、『大丈夫。2人で行けば怖くないよ』みたいな言葉をかけてほしかったのかな。
でも、実際危険そうだし……俺はもし、負けてもやり直せるからいいけど。
コノッちはこの世界の住人。まだ蘇生ができるかどうかも分からないのに、もしものことがあったら大変だ。
見た感じでは、ここはまだ安全そうだからコノッちにはやっぱりここで待っててもらおう。
「うん。コノッちはここで待っててくれるかな? すぐ戻ってくるから」
「……分かった。気をつけてね!」
コノッちは真剣な表情でこちらを見ながら激励してくれた。
俺はその気持ちに応えるためにも。
サイキまるをすぐに見つけて、戻ってこないとな。
よし……行こう。
俺は底知れない暗闇の中へと突っ走っていった。
すぐ戻ってくるからとは言ったけど広いなここ。
ステータス画面で照らし出すことで明かりの代わりにできるとはいえ……。
これは骨が折れそうだ。
どこまで向かっても、暗闇が広がって、後は……。
石と木と草しかない。
敵が出てこないことに今までは安心してたけど、ここまで来ると不気味に感じてくる。
それが狙いだったりするのだろうか。
そんなことを考えながら進んでいくと。
あぁ……行き止まりだ。
大きな岩で塞がれていて。これ以上は先に進めないということが分かる。
当然だけど、押しても叩いてもビクともしない。
ただ、経験上こういうところには……暗号があったり、アイテムが落ちていたりするんだけど……それもないか。
俺はため息をつきながら、戻ろうと思って振り返った──その時だった。
「おわぁっ!?」
俺の後ろにはいつの間にか全身が傷だらけの人が立っていた。
服はボロボロで、フードをかぶっていて顔はよく見えない。
「ちっ……何だ、いきなり大声を出して」
「すみません……ちょっとビックリしちゃったもので」
俺が素直に謝ると、その人はため息をつきながら。
「ああ、オレのせいか。それは悪かったな」
こちらを見ずに謝った。声色的に男性のようだ。
「いえいえ、こっちこそ驚いてしまってすみません……」
「……いつものことだ」
……想定以上に心を傷つけてしまったみたいだ。
「ごめんなさい……」
「謝らなくていい。時間の無駄だ」
な、なんか冷たいな……。
「それより……ここで何をしていたんだ?」
何ってそりゃ……あっ、そうだ!
「家族を探してたんです!」
「……家族だと?」
「はい!」
「どんなやつだ?」
どんなやつと言われたら、そうだな。
「まず、そうですね」
俺にサイキまるの特徴を語らせるなんて……良い度胸だ。
少なくとも1時間くらいはつき合ってもらおうか。
「…………」
「ふさふさ──」
「待て、それ人か?」
「え? 犬です」
まだ、サイキまるの素晴らしさの0.1%も語れてない……。
「そうか、犬が家族なのか?」
その態度……バカにする──
「……俺と同じだな」
「……え?」
ここにきて……愛犬仲間ができたぁっ!?
え、マジで!?
「本当ですかっ!?」
「ああ……とっくの前にいなくなったけどな」
……それは。
「さぞかし……辛かったでしょうね」
……俺と同じなんかじゃない。
この人は失ってしまってるんだ……。
俺は何てことを……。
「……分かってくれるのか」
「いえ……でも、その深い悲しみは心に響いてきます。家族を……愛してたんですね」
俺は感じたままに話しかける。
すると、その男性はその言葉に驚き、こちらを見ながら。
「……そうか。お前は敵じゃないんだな」
虚ろな目をしているけど……さっきより口調が優しくなった。
「当然です……っ!」
そんな言葉を受け、俺はいつの間にか。この人の境遇を自分のことのように感じ、泣いていた。
「なら……そうだな。これを持っていけ」
その男性はそう言うと俺に一つ、きらめく何かを投げ渡してくれた。
これは……コンパス?
「え、何ですか……これ?」
「それは探している相手を見つけるためのものだ。どこにいるかはそれが教えてくれる」
「え、そんなすごいものもらっていいんですか?」
「ああ。……俺にはもう不要なものだからな」
……不要。
「……ありがとうございます」
俺は静かにお辞儀して礼を言った後。一つ聞き忘れていたことがあって。
「そうだ……名前は──」
名前を聞こうとしたら……その男は既にいなくなっていた。
でも、その答えだけは返ってきた。
『オレに名前はない……ただの亡霊だ』
亡……霊。
そういえば、姿はボロボロでいくつもの傷があった。
亡霊と言われれば納得がいくほどの姿だ。
……そうか。
もしかしたら、サイヤクの森って。
いや、それなら。亡霊さんの気持ちを無駄にしないためにもサイキまるを早く見つけるんだ。
俺は愛犬仲間の亡霊さんに渡された、コンパスのような何かをひらく。
すると、コンパスはある方向のみを指し示し出す。……おそらくこっちにサイキまるがいるんだ。
俺は姿の見えない亡霊がいた方向に向かって再度お辞儀をした後。
コンパスが指し示す方向に急いで向かった。
X
浴室でリフレッシュした後に。
私の前に真剣な目をしたヒカルがいて。
「ヒカル? どうしたの?」
なんとなく、その理由は分かっているけど。一応聞いてみる。
「魔王様……少し出掛けてきます」
うん……やっぱりね。
こういう時は何かしたいことを見つけた時だって私は知ってる。
「分かった。気をつけてね」
私はそんなヒカルを引き留めるつもりはない。
それがヒカルのしたいことなんだから。
「……はい。いってきます」
「うん。いってらっしゃい」
私はヒカルに心配させないように、笑顔で見送った。
……さてと。これからどうしよう。
今、思い出すと……ハルッぴは確か、『洗脳』を受けていた。
『洗脳』自体は……誰でも使えるけど。それを実行に移す人がいるとは思えない。
だって『洗脳』は。その代償に激しい痛みが伴い、自分の体力を削っていく禁忌の技。
それにそのための術式は……この世界を護る〔四騎〕のみんなしか知らない。
でも、あまりに危険すぎるから。
そんな力の存在を教えるとは思えない。
もし、勇者がそれを『設定』で知ることができたとしても……わざわざ使うはずがないし。通常の人が耐えられるような痛みじゃない。
……なんて、考えてても仕方ないか。
私はステータス画面を開き、仲間たちのスキルを確認する。
どれだけ時間が、かかるかは分からないけど。
これで別の存在によるものか。
それとも……この世界の住人によるものか。
──はっきりする。
この世界のみんなが……そんなことするとは思えないけど。
こうして、魔王は。
おびただしい数の仲間のスキル一覧を一つ一つ確認する作業に入るのであった。
¶
そんな数々の思いが錯綜していた頃。
かずはの居場所から少し離れたサイヤクの森の中では。
どこか不可思議な歌を歌い、歩いている者がいた。
誰でも帰れる闇の中!
ざわめくクロウの影があり~!
ここ~に至るは、四・元・素!
禁忌の魔術の遊び人~?
才薬のくろす様とはオイラのことだ~!
『クゥーン……』
「よしよーし。大丈夫だからね~?」
いや~こんなところでお犬様に出会ってしまうとは!
思ってもみませんでしたぜぃ!
この辺地木な世界に来てしまってから、もう何年経ったかなんて……覚えていやしませんが!
いや~懐かしい、懐かしい。
このところ、薬師としての仕事もめっぽう減って。
元気なことは良いことでございますが!
ちったぁ、遊びにきてくれても、ようございませんか!?
おかげで、毎日退屈で。
ふと、暇してたところに。
これまた仰天! お犬様が歩いてらっしゃる!
こんな暗闇の中で見えるのかと。
おっしゃりたそうな、そこの方。
ちょっと待っておくんなせぇ!
オイラの眼は節穴じゃあございません!
オイラは『くろすのやつには隠し事ができねぇ』と言われたほどの観察眼!
眼には人より自信があるってぇわけよ!
というのは冗談で。
実際は辺地木魔術の力でござい。
オイラがこれを知ったのは……そう。
『ワンワン!!』
ってちょっと待っておくんなせぇ! お犬様!?
そんなに走って、どこへ行く!
主様でも見つけたかい!?
オイラは急に走り出したお犬様の後を追っていくのだった!




