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最恐の慈悲深い魔王様X

 黒い空に、轟く雷鳴。

 流れる雨は荒れ狂い。

 地に芽吹いていた草花は過去のもの。


 世界は滅びを迎えようとしていた。


 終わりが刻一刻と迫る中。

 一人の男がパーティメンバーを引き連れ、魔王が住まう城にたどり着いていた。


 この男の名は……『エセヒロ』。


 ひときわ輝く装備を身につけ。

 大抵の人なら一目惚れしてしまうような気品溢れる姿をしている。

 また、比類なき強さを誇り、何者も太刀打ちできなかった。


「オラ、かかってこいよぉ? ザコ魔王!!」


 エセヒロは暗がりの中で魔王の部屋の扉を蹴り飛ばす。


 ──そんなすぐ後ろでは。

 “ただ一人の”パーティメンバー、ヒカルが侮蔑の目を向けていた。



 ★


(あ、コイツ死ん──)


 新たな勇者(……いや犯罪者?)様の見事なフラグ連立っぷりに思わず本音が出てしまいそうになる。

 気づいたぼくはすぐに手で口を覆い隠す。


 そんなことコイツに聞かれたらどうなるか……。


 幸い、コイツはこのことに気づかなかったようで。気品あふれる容姿に見合わぬ態度を取りながら、部屋にズカズカと入り込んでいく。


 その隣で少しホッとしながら、一度フードを深くかぶり直し。ぼくもついていく。


 まあ、ぼくも設定上ではあるけど盗賊だし。犯罪者だの何だの言えないけどさ。

 それにしたってコイツの横暴さは目に余るものだった。


 コイツはぼくたちの世界を。

 勇者の力を使って、コイツ自身の欲望を満たすためだけの世界に変えてしまったのだから。


 その横暴さにはぼくも嫌気がさして、止めたい気持ちはいくらでもあったけど……コイツの全ステータスは無限。


 加えて、コイツにはどんなやつでも従うことになる、敵はピンチでも仲間を呼ぶことができない……などなど。


他にもふざけたような『設定』によって。


 レベルが10で〈たいりょく〉と〈すばやさ〉以外のステータスが『5』しかない、ぼくにはどうすることもできなくて。


 せいぜい、できた抵抗といえば。

 このゲームの『案内人』でもあるぼくをパーティに入れなければならない。

 っていう『設定(いやがらせ)』ぐらい。


 その『設定』も結局。

 途中からぼくを盾にしたり、最強呪文の試し打ちの(まと)にしたり。

 ぼくをKILLすることでコイツのストレス発散に使われたんだけど。


 ぼくはどこかの町に入るたびに復活できるとはいえ……さ。

 ゲームの中でもやっていいことと悪いことがあるだろ……倫理観なさすぎ。


 ……だけど。


 そんな横暴もこれでおしまい。


 ここに来たからには。

 後はその報いを受けるのみ。

 

 だって、ここには……。

 コイツなんて目じゃないほどの。


 ──最強の魔王様がいるのだから。


 

 X



 魔王は突如飛ばされて来た扉を自らの玉座の影に隠れ、防いだ後。

 眼前にいるエセ勇者を見つめる。


 といってもただ見つめている訳ではない。魔王の力によってステータスの確認を行っているのである。


 名前:エセヒロ

 職業:勇者

  Lv:INFINITY

 ATK: INFINI── 

 

 (ああ、よくあるやつね……)


 魔王はひととおりのステータスを面倒な部分は読み飛ばし。

 ある項目がないことを確認すると同時にため息をつく。


 ──バカなのかな。


 吐き捨てた後、魔王はエセヒロがプレイ前にひたすら書き込んだであろう。

 100万字にも及ぶ『設定の羅列(どりょくのけっしょう)』に対して慈悲を垂れる。


(……【設定消去】)


 今、魔王が失望とともに。

 心の内で唱えたその言葉によって。


 エセヒロの『最強設定』は全て失われた。 


 これにより、エセヒロは『(もと)』エセヒロとなり。

 容姿も無入力だった際の汎用アバターの姿となるが。

 魔王の部屋は暗く。そのことには気づいていないようだ。

 

 『設定』が消去されたことを確認すると、魔王は玉座の影から姿を現し。

 黒を基調とした装飾が施されている白いドレスを身にまとい、エセ勇者に立ちはだかる。


 その瞬間。窓からは月のような光が双方から射し……神秘を思わせるそれは。

 黒く淀んだ長い髪に似つかわしくない端正な顔立ちの魔王の姿を照らし出す。


 ……嫌な目つき。

 私に対して、どんなことを考えているかすぐにわかる。


 ──さっさと終わらせよう。


 魔王は何も告げずに手をかざす。


 ……だが。元エセヒロは魔王の姿を見た途端に片膝をつき(こうべ)を垂れ。


「お待ちください。魔王よ」


 元エセヒロは戦いの手を止めた。


「ワタシは……この生涯。尽くしたいと思えるような女性に出会ったことはありませんでした。……しかし! 今は違います。ワタシはあなたのための剣となりたい。盾となりたい。あなたを──」


 いや、長い。それに──


 この男の所業に関して、既にヒカルから連絡があった。


 みんなが幸せに暮らしていた中で。

 この男は世界を蹂躙(じゅうりん)し、許しを請う相手に対してまで暴力を奮い。

 さらには女性……特にハーピー族、エルフ族のみんなを虐げて……何度もKILLしては復活させ楽しんでいたということも。


 そして、この男によって。

 私たちの世界が破滅の危機に(おちい)っていることも知っている。


「のです。我が伴侶となって──」


「断る。消えろ」


 魔王は燃え上がる怒りをこめた冷たい目でエセ勇者……犯罪者をみつめる。


「んなっ!? え、なんで……?」


 元エセヒロの『最強設定』の一つ。

『美女、美少女と(以下略)ハーレム』は既に消えている。


「いや、ならばこれだ……! 覚悟するがいい。魔王っ!!」


 まだ、元エセヒロは事の重大さを理解しておらず、(元々)意味のない詠唱(えいしょう)の構えをとる。


「【絶対的な(アブソリュート)支配の定め(・コントロール)】~この俺にのみついて来い~」


絶対的な(アブソリュート)……(以下略)は支配の力。

 どんな相手でも自らのものとし、動かすことができる。


 そんな元エセヒロの詠唱を受け。ついに魔王は口を開く。


「──ダサい。『この俺にのみ』とかすごくダサい。【私は自己中】~この俺には誰もついてこない~にでも改名しなさい」


 魔王の思いもよらない言葉に元エセヒロは大きく動揺した後。


「あ゛ぁっ!? んだと──」

 魔王に向かって殴りかかろうとするが。


「──もういい、黙れ」


 再度、魔王はこの世界の憎しみを込めた力を放つ。


(【状態異常付与】『麻痺』)


「──!?」

(え、何で、麻痺になんかなってるんだよ。オレは『全状態異常無効』だぞ……?)


 当然。その設定も消去されている。


「【状態異常付与】『毒』」


(ごぼあっ……!?)


「【状態異常付与】『呪い』」


(ぐへぁ……。あ、あぁっ……)


 それは(うら)みのこもった呪詛(じゅそ)のように。魔王はいつの間にか口に出して唱えていた。

 ステータス設定が消去され。

 基本ステータスとなった元エセヒロの体力はあとわずか。


 ……だが、今の魔王はいつもと違う無慈悲(むじひ)な言葉を放つ。

 

「【状態異常付与】『不死』」


(ひっ……、ふ……し?)


 状態異常『不死』は1分間。

 どんなダメージを受けても、体力が0になることなく。体力が1のまま、残り続ける。


(も、もういやだぁ……いたいのは……)


 元エセヒロは涙を浮かべ。

 ひたすらに自分の身を案じている。


「……【状態異常付与】『反射』」


(へ……? おいおいバカかコイツゥ!?)


 ……状態異常『反射』は。

 10秒間、対象への攻撃(状態異常のダメージ含む)を無効とし、攻撃してきた相手にその攻撃と同じダメージを与える。 


「プラス。【状態異常付与】『過去』」


(キヒェッ、ヒェッ……ヘ? 何だよそれ……?)


 あまり馴染みのない状態異常だが、それもそのはず。

 この世界の魔王にしか使用を許されていない重要な力だ。元エセヒロが知る機会などなかっただろう。

 

 そして……そんな状態異常『過去』は。

 過ぎ去ったものを対象とすることができる。


「私が『反射』、『過去』の対象とするのは。あなたが(しいた)げたものたち全て」


 ──つまり。


(あ、あぁ……っ)


「仲間たちの苦しみ。全てをその身に受け、(かえ)れ」


「あ゛……ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ──」


 ……あぁ、忘れてた。


(【状態異常付与】『沈黙』)


(…………)


「もう、(ひら)かないでね。あなたの場所はここにはないから」



──GAME OVER

 世界はリセットされます。

 サイキョーゲームをプレイしていただきありがとうございました!!


 もし、この世界を楽しんでいただけたなら★★★★★評価!

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