第五五話 追い詰めた先に
反乱軍を生き返らしたせいか、騎士、冒険者、そして傭兵たちは全員、唖然としていた。女帝陛下であるシンシアも呆気にとられていたが逡巡したのちに、生き返らした人々を連行するよう騎士に指示を出した。
「まるで神の所業だ……」
「夢でも見ているのか? 俺の頬をつねってくれ」
「おらっ!」
「痛たたたたたたっ!」
騎士たちは俺とアイリスに対して畏敬の念を込めた視線を送りながら反乱軍を連行していく。
「噂は本当だったんだな、人を生き返らすなんて伝説の聖女の所業だぜ」
「古代魔法の一つに蘇生なんてもんがあったな……まさかお目にかかれるとはな」
俺達のことを知っている帝国の冒険者たちは事実を再確認していた。
「冒険者アオよ!」
馬に乗ったカリアが話しかけてくる。
「なんだ」
「今からネオ・バルベディアに突入する」
「急だな」
「おそらくルミウス殿下は今の惨状を見て逃げるか、籠城するだろう。取り逃がしたり長期戦に入る前に捕らえるんだ。その先陣を君たちに任したい」
どうやら俺らの実力を鑑みて前線にいてほしいようだ。
「アイリスいけるか」
「はい。あっ、でもクルさんはどうしましょう」
そういえば蝶々追いかけたきり見てないな。
「じゃあ、ちょっとクル拾ってくる」
「分かりました」
俺は《座標移動/ポイントムーブ》でクルがいそうな場所に一瞬で移動し、首根っこを捕まえてから帝国軍の先頭に立った。騎士たちが馬を貸してくれようとしたが走ったほうが速いから遠慮した。
♦ ♦ ♦ ♦
反乱軍の長であるルミウス・グロウディスクは悲痛な面持ちで馬に乗っていた。
「なんなんだ! なんなんだあれは! ふざけるなふざけるな!」
彼は都市の中を数人の配下を率いて駆け抜けていた。
脳裏に浮かぶのはアレクシオとアイリスが放った《幾千・石帝拳/サウザンド・グランエンペラー》だ。本の物語でしか見たことない威力の魔法だった。そのうえ、ほとんどの配下はろくに抵抗できずに死にゆく仲間を見て絶望し散り散りになっていた。
「俺が姉さんに代わって帝王になるんだ、なる予定なんだ! 話と違うじゃないか! 魔導士!」
苛立ちを隠さないルミウスは前で馬を走らせている黒ローブの人に話しかけた。
黒ローブを着た魔導士はしわがれた声を出して答える。
「ルミウス陛下のお気持ちは重々承知でございますよ」
魔道士はフードを被っているが、歪む口元がルミウスに見えた。
「お前が魔法部隊を前に置いて、敵を引き寄せてから罠にかけると言ったのに全く話と違うじゃないか!」
「あなたの姉君が強力な助っ人を呼んだみたいですね。それもこの私と同じ古代魔法使いをね」
「あ~もうっ、言い訳などいいわ! バージェのやつも姉上の味方してるんだぞ」
「大金を叩いたんでしょうね」
物怖じしない魔導士を見て、ルミウスは不快だった。自分がこんなに焦っているのになんで平気でいられるんだと思っていた。
「どうすりゃいいんだ」
「ルミウス陛下恐れることはありません。私が付いていますよ、あれを蘇らせて複製すれば帝国を火の海にできますよ」
「……! そうか」
ルミウスは魔導士の言葉でとあることを思い出していた。何かがあったときのための最終手段を。
「ふははははははは! 百倍に返してやりますよ! 姉上!」
ルミウスは破顔し、高笑いをしていた。
「後ろ来ていますねぇ……」
魔導士は呟く。背後から近づいてくる気配を感じ取っていた。
♦ ♦ ♦ ♦
「なんだあの鎧は」
俺は呆れたように言う。前には数人の反乱軍が馬に乗って疾駆していた。ただ、気になるのが一人だけ異様に目立つ金色の鎧を着ていたことだ。
「おい、あれがルミウスか」
俺は馬に乗っている騎士に話しかける。
「は、はい! そ、そうであります!」
挙動不審な騎士だが、おそらく走っている俺とアイリスが馬と並走しているせいでびっくりしているのだろう。むしろ、かなり遅めに走っていても全速力の馬より速いぐらいだ。
今は都市内の大通りを帝国軍が駆け抜けていた。突然の来襲に住民は驚いていたが一年前まで帝国が統治していたこともあり、非難の声はなかった。比較的、帝都に近い都市なので帝国の威光が届いて治安が良かったに違いない。
「じゃあ行ってくる」
「えっ、ちょっと――」
俺は騎士の返事を待たずに跳躍し、前を走っている反乱軍の騎士を蹴り飛ばす。
「ぶへぇ!」
騎士は馬から落ちて地面に転がった。代わるように俺は馬に乗り手綱を握る。
「貴様ァ!」
両側にいる敵の騎士が抜刀する。俺は敵を魔法で吹き飛ばそうとするが視界の端に映るアイリスとクルを確認してやめる。
クルは大通りに沿うように屋根の上を駆け抜けていたが、敵が抜刀したのを見て俺の右側にいる騎士の顎を蹴り飛ばす。騎士は屋根を越えて遙か彼方へと消えた。それと同時にアイリスが跳躍し、「えいっ」と、俺の左側にいる騎士の頭は軽く殴りつける。すると、騎士の頭は地面にめり込んで逆立っていた。
クルとアイリスはそれぞれ、騎士と代わるように馬に乗った。
「ふんふんふん~♪」
クルは鼻歌を歌う。今のクルは人型だが、ドラゴンだ。馬になんて乗ったことがないのだろう。初めての体験を楽しんでいるように見えるな。
「あわあわ」
一方、アイリスはふらついていた。乗馬は不慣れらしい。
助け舟を出してやるか。
「アイリス、飛び乗ってこい」
「! はいっ」
俺の言葉に一瞬、目を見開いたアイリスだが微笑みながら返事をし、鐙を蹴って俺が乗っている馬に飛び移った。
ちょうどそのとき、
「お前たちなんなんだよ! くるな!」
肩越しにルミウスは俺を見る。茶色の髪と瞳、間違いなく愚弟だ。母親違いの弟ではあるが、情けは無用だ。
「ただの冒険者だ。大人しく捕まれルミウス」
「はぁん⁉」
怒気を露わにするルミウス。
「二度と反乱する気が起きないように一〇〇回は殺してやる。安心しろ、死にはしない」
「死んでるじゃねぇか! おい魔導士助けろ!」
生き返らすつもりで殺すだけだが、なにが不満なんだ。
反逆者の末路は死だ。それに比べたら俺の条件は優しいほうだろ。
「ほぉ~、中々の戦闘力がお持ちの三人だ。ぜひ殺して下僕にしたいですねぇ」
ルミウスの前を走っている黒ローブの人が肩越しに俺らを値踏みしてきた。しわがれた声の男だ。
いや、こいつ人じゃないな、魔族だ。戦闘力はクルに劣るが魔力量は中々のものだな、国随一の魔力の持ち主といったところだろうか? それでも俺とアイリスの一万分の一にも満たないけどな。
「くっくっ、ルミウス陛下、さぁ私に摑まってください」
「ああ! 早くなんとかしろ!」
ルミウスは馬を走らせて魔族の肩に手を置く。
「《瞬間移動/テレポート》」
魔族は魔法を唱え、ルミウスと共に馬を残して消えた。
「逃げてないですね」
「ああ、そうだな」
俺は馬を停めて、アイリスと共に都市の北にある山を見た。山の中から魔族の魔力が膨れ上がっていくのを感じていた。




