第三話 アイリスラビリンス
ダンジョンの壁は青みがかかった灰色の石で造られていた。外側と同じ造りだ。明かに洞窟じゃないけどまぁいいか。
歩いていると俺は前から何かが近づいてくるのに気付いた。魔物かと思ったので待ち構えて右手に長剣と左手に吸収短剣アルムハイムとかいう大層な設定になっている短剣を持った。
……なんだあれは⁉ 人型モンスターか⁉
試練の洞窟にいる魔物は殺人鼠と殺人蝙蝠だけじゃないのか⁉
「グ……ガガ」
俺の目の前には唸り声を上げている骸骨兵士。骸骨兵士は中級モンスター。初めてダンジョンに入る俺が太刀打ちできる相手ではない。
ダンジョンに入って十分足らずでこんなピンチに陥るとは思わなかった。下級モンスターしかいないって伝えられてたは俺の油断を誘う為に違いない罠! やりやがるな王家の試練! ありとあらゆる状況に備えろって事か!
「いくぞ!」
先手必勝! 俺が長剣で斬りかかると骸骨兵士は持っている剣で防御する!
「っ‼」
俺は簡単に仰け反った! くそ! 相手は微動だにしていないのに!
骸骨兵士が反撃してきたので俺は長剣で防御した。
「やばい! ちょっとたんま!」
何合か打ち合う……というより、俺は一方的に攻撃されていた。このままじゃまずい!
「うわっ!」
俺の長剣は弾かれた。かっこつけて短剣と二刀流にするんじゃなかった!
「ガガガ!」
「やられてたまるかよ!」
骸骨兵士の一振りを短剣で受け止めてやったぞ! だからなんなんだ。危機的状況は変わってないのに……ってあれ?
なんか相手の力が弱まっている気がする。弾き返せそうだ。
短剣を払うとあっけなく骸骨兵士のは後退した。心無しか相手の動きも遅くなっている気がする。いける!
走りながら短剣で敵を横一線に斬る! すると相手の体は簡単にばらけて立ち上がる事は無かった。
「勝った……この武器すげえ!」
相手の力が弱まったのはこの武器の能力なのか? それに尋常じゃない切れ味だ。まるでこの世で唯一無二と言われてる魔法のアイテム――――固有魔道武具の一つの様だ。
俺はここで異変に気付いた。なんと倒した骸骨兵士が砂の様に崩れいる! 魔物を倒したら砂になるなんて聞いた事ない。そのまま死体が残るはずだ。そしてその死体は換金したり道具の素材になるのが普通だ。
砂状になった骸骨兵士は左手に持っている吸収短剣アルムハイムに中に消えていった。その瞬間、俺は全身の神経、筋肉、骨等ありとあらゆる部位が痺れた。
「なんだ……これは!」
痺れたのは一瞬だった。その後は全身から力が漲り、根拠もないのになぜか強くなった気がした。
……力が溢れる!
とりあえず俺は弾かれた長剣を拾ってダンジョンの奥に向かった。
しばらく進んでいると前に骸骨兵士が五体ずつ現れた。しかし、俺は落ち着いてた。今なら余裕で倒せると思ったからだ。
俺は五体の敵の間を駆け抜ける! そして走りながら長剣と短剣で斬りつけた! 通り過ぎて後ろを振り向いた頃には敵は既にばらけて倒れていた。
俺は目を見開いた。
「こんなあっさり倒せるなんて! 確実にパワーもスピードも上がってる! 本当に固有魔道武具みたいだ」
俺はこの短剣を気にいった。というかたった今、家宝にした。これは絶対誰にも渡さん!
倒した骸骨兵士は再び砂状になって短剣に吸収された。そして俺は全身の力が増幅するのを感じた。
正直、城の帝国兵に負ける気がしない。鎧ごとぶった切る事ができそうだ。
俺は歩いた。そして幾度も敵が現れ。一刀のもとに斬り倒し続けた。斬って! 斬って! 斬る! 試しに短剣を装備ぜずに長剣だけで戦ったが俺の戦闘能力が変わらなかった事が分かったどころが拳一つで骸骨兵士を剣ごと粉砕する様になっていた。
一体何時間経ったのだろうか? 空腹感も覚え始めた頃、一本道から広間に出る。何にしろ殺風景に変わりなかったが新たな敵が表れた。
「……魔法使いか」
魔法を使う敵――骸骨魔術師が二体現れた。というか今の所、骨しか出て来てないな。このダンジョンを作ったやつは骨愛好家なのか?
「侵入者カ」
さすがに魔法を使う敵だけあって言葉を使うようだ。
「「《火砲/ファイヤーキャノン》」」
「なっ!」
いきなり二体の骸骨魔術師が魔法を放ってきやがった。球体の炎! が俺に向かうが今の身体能力ならなんなく避けれる!
余裕で《火砲/ファイヤーキャノン》飛び越えて避けた。そして骸骨魔術師との距離を詰めた!
「速イ!」
骨が俺の速さに驚いている! このまま切ってやる!
短剣を下から振るって骸骨魔術師の顎を打ち付けた! そしてすぐさま横にいるもう一体の敵を長剣で刺して床に固定させた。
「じゃあな」
床に固定させた敵に短剣を振り下ろす。
二体の骸骨魔術師は例の如く砂状になって俺の力へと変換された。
「⁉」
今までと違う感覚があった! 俺は体内の魔力の上昇を感じてた。正直、俺は心が喜びに震えた。
体内又大気にある魔力を利用して魔法を行使出来る。魔力自体は誰にでもあるが、誰しもが魔法を使えるわけではない。才能がある者が努力した結果、ようやく魔法が使える。
だから俺は魔力の上昇を感じた事でもしかして魔法を使えるのではと思った。この短剣は明らかに倒した魔物の力を吸って、力を吸った分だけ俺を強くしている! だから、骸骨魔術師の使っていた魔法が使える様になっているかもしれない。
俺は目を閉じて剣を媒介として魔力を行使しようとする。
「…………《火砲/ファイヤーキャノン》」
剣から球状の炎が飛び出た! やった! 初めて魔法を使えたぞ!
「よっしゃああああああああああああ! ぐぶばはっ!」
いてて……テンション上がり過ぎてジャンプしたら天井に頭打っちまった。にしても疲れたな。少し休憩するか。
俺は広間の壁を背に少し休憩したつもりだったがついつい寝てしまった。
♦
「あれ……ここは?」
俺は霧に包まれてた。そして黒い人影が現われた。またこいつか。と思ったが
「よく来てくれました」
人影が発する声色が違った。
「女の……人?」
最初に出会った人影は男性の声だったが今出会った人影は確実に女性の声だった。
「この先に進むなら祝福をさし上げましょう……感謝します」
「感謝? そういえば男の声がする人影もそんな事言ってたような」
突如、女性の声がする人影から強い光が発せられ俺は思わず目を閉じた。
♦
俺は広間の壁を背にしていた。どうやら寝ていたようだ。
「変な夢見たな……ん?」
空腹感がない? それどころが疲れが全く無くなっている?
「あれ、傷の痛みがない……いや、治っているのか?」
強くなったとはいえここまで無傷では来てない、というか転んで膝を擦りむいただけだけど。
あの女の人のおかげか?
とにかく先に進まねば王家の試練は終わらない。不可解な事が多いが……ふっ、これは歴代の王家の試練でもっとも手が込んでいるんじゃないか⁉ それだけ期待されてるのか。いやぁー正直照れるな。
――――どれくらい歩いたかも分からないぐらい時間が経った。もしかしたら何日も経っているのかもしれない。あれ以来、人影の夢は見ないが寝る度に体力が全快していた。まるでゾンビ。
「…………」
骸骨兵士の上位互換モンスター骸骨騎士が現れたと思う。姿形をしっかりと確認する事なく一瞬のうちに斬り倒したから正直、どんな敵か見てなかった。
何にしろここに来るまでに骸骨騎士も数えきれないほど倒していた。
「……階段?」
広大な地下一階の最深部だったみたいだ。しかし、先があるなら、ここはダンジョンの最深部ではない。俺は階段の段差を無視して飛び降りると相変わらず殺風景な風景が広がっていた。
――――何週間経った? 地下二階の広さ……一階の比じゃない! 敵も多少は強くなっていた。地下一階は骨達だったが地下二階は石像達が襲い掛かってきた。
今もこうして羽が生えた石像の化け物、石像悪魔が俺に近づいて来た。
「ぎゃぎゃ! 人間! 死すべき!」
「……やってみろよ」
俺は静かに言った。これまで吸収した敵の力と積み重ねてきた戦闘経験が自信をつけてくれてた。
石像悪魔が向かって来る! 俺は先日折れた長剣を頭部に向かって投げると敵の頭は砕け散った!
この投影技術は石を投げてくる石像小人を倒した時に得たものだ。どうやらこの短剣は敵の技術すら奪ってしまうようだ。
俺は動かない石像悪魔に近づいて吸収短剣アルムハイムを突きさして何時も通り砂状にして力を奪った。
ふむふむ……新たに魔法を覚えた気がするぞ。口から炎出せそうだ。
なんとなくだが、相手のどんな力を奪ったか分かるようになっていた。とりあえず長剣はもう使えないからここに置いていくか。今までありがとう! 長剣!
――――地下二階の最深部に辿り着くのに一か月もかかった。どうやら降りれば降りるほどダンジョンは広くなっていくようだ。そして、俺は数多の魔物を倒して地下三階……地下四階…………地下五階へと進んでいった。
寝たら体力が回復し、傷と空腹感が無くなるので俺は最早、魔物を狩る殺戮マシーンと化していた。
――――ダンジョンに入って一年。地下一〇階の最深部に辿り着いた。
(少々髪が伸びすぎた。そろそろ切ろうかな)
目の前には筋肉隆々で全身が黒い化け物が居た。二足歩行で黒色に光る鎧を身に纏い刃の色が黒い槍を背負っていた。
俺は動揺しなかった。正直、戦いすぎて感覚が麻痺してる気がする。ちなみに黒い化け物は酒を飲んでいた。
「うぃ……よう来やがったな。人族」
「お前はなんだ?」
「アイリスラビリンス守護九士が一人、暗黒魔人ギルバズ」
「聞いた事ないな」
「御託はいい。人族! ここで死ぬならそれまでだ!」
「っ!」
刃が黒い槍と俺の短剣がぶつかり合う! 高速の打ち合いが永遠と続きそうなぐらい長く続いていた!
(並みの相手じゃない!)
打ち合いの中、距離を取って土の魔法や炎の魔法で攻撃するが敵の鎧が魔法を反射したり、槍で魔法を切り裂きやがった。
「うぃ! この固有魔道武具の前で魔法は無駄だ!」
あいつの槍と鎧どっちも固有魔道武具だったのか!
いつまで続くか分からない攻撃の応酬だったが吸収短剣アルムハイムが相手の力を奪っていってた。次第に暗黒魔人ギルバズの動きが遅くなっていき、俺は短剣を体に突き刺してそのまま壁に突っ込んだ!
「ぐぁぁぁがっ!」
「はぁはぁ!」
俺は息を切らしていた。暗黒魔人ギルバズは言う。
「さすが……財宝王の短剣だな……」
「財宝王? どういう事だ?」
「実体化した霊体すら倒すか……」
俺に疑問を残させたまま暗黒魔人ギルバズは砂状になり短剣に吸い込まれた。
尋常じゃない力が俺に流れ込んでくる! なんか知らんが人間を止めた気がする。
俺の前には鎧と槍の固有魔道武具が残った。
「これ貰っていいのか? 貰うよ?」
誰も居ない空間で俺は確認を取った。よっっっし! 強敵を倒して宝を得る! これこそダンジョンの醍醐味!
俺は倒した魔物から得た魔法《異空間箱/ゲートボックス》で鎧と槍を俺専用の異空間へと収納した。
「……まだ先があるな」
そして、俺は地下一一階へと降りた。
――――何年経ったのだろうか四年か? 地下二〇階で蛇神ジード、地下三〇階で魔導士グリオン、地下四〇階で巨神兵ザルバンを倒した。みな自分の名を名乗り、守護九士と自称していた。
守護九士の一人。魔導士グリオンは聞いた事があった。財宝王と共に破壊神を倒した一人だがとうの昔に死んでいるはずだ。
しかし、蛇神ジードを倒した時に手に入れた固有魔道武具。即死毒魔法が付与している毒鉤爪ジルラクを魔導士グリオンにぶっ刺した時、奴は死ななかった。霊体として生きてる本物? それともゾンビだったのだろうか?
なわけないか! グリオンがこんな所に居るわけないない!
こうして俺はダンジョンの奥深くへと進んでいった。