第二二話 《創造天命/クリエイトデスティ二ー》
庭園をのんびりと歩いた後、城門から抜け出そうとしたが、何故か門の周りには人だかりが出来ていた。一緒に歩いているアイリスは不安そうに口を開く。
「この場から逃げなくて大丈夫なのでしょうか?」
「何が起きたか知りたいし、俺に良い考えがある」
「なら、安心ですね」
はにかむアイリス。俺達は庭園を平然と歩いているからな、身を隠す必要がある。だが、焦りはしない。この指一つで状況は覆せる!
「いくぞ、《創造植物/クリエイトプラント》」
俺は人差し指の先から一滴の液体に変化させた魔力を地面へと垂らす。その瞬間、辺り一帯に草木が生い茂る!
「これで茂みに隠れれば一時的に姿を隠せるだろ」
「なるほどっ」
アイリスは感心した様な声色を出す。すると、城門に居た人達が俺が生やした草木に近づいていた。まさか、ここにいるのがばれたのか⁉
「な、なんだこれは⁉ なんで急に森が現れたんだ!」
「も、森の精霊が住み着いたんじゃねぇのか?」
「何なんだよぉ! 門が破壊されたり、虹に包まれたり、散々だぁ!」
近づいた人達は帝国兵達だった。虹うんぬん言ってるのは俺とアイリスが魔力を開放したせいだろう。門が破壊されたのは知らないな……基礎工事に欠陥でもあったんじゃね?
「兵士って大変そうなお仕事ですね……」
茂みで身を潜めているとアイリスがそんな事を言う。
「一介の兵士とはいえ、帝国に仕えてるって事は過酷な実技試験と高難易度の筆記試験を潜り抜けてきたエリートだからな。この程度は大丈夫だと思う」
「そんなに厳しい試験なのですか?」
「まぁ……アイリスなら余裕だろ(実技に関しては)」
「ふふっ、褒めてもなにもでませんよ」
と少女は照れ臭そうにした後、俺の肩を手のひらで叩こうとした。ひょいっと前傾姿勢になって避けると、アイリスが振るった手のひらは殺人的な風圧を巻き起こし、近くにあった木を何本がなぎ倒した。
「あわわ……」
と風圧で木々を破壊した少女は口を開けて呆けていた。
「すみません……また力がコントロール出来ませんでした」
「いや、そんな事はない。昨日のアイリスなら城を風圧で粉砕してたからな。凄い、進歩してると思う」
「もう。わたくしは何だと思っているのですか」
頬をぷくっと膨らますアイリスは小動物的な可愛さを内包していた。少しご立腹みえるけど全然、怖くない。むしろ、ドキドキする。
「せいっ」
俺は思わず頬を片手で掴んで膨らますのをやめさせていた。気付くと二人の顔の距離が近くなっていてアイリスは「あっ……」と可愛らしい声を漏らす。
「「…………」」
見つめ合う俺達。
なんなんだこの時間は。これってまさかあれか? あれなのか? 接吻か? 接吻いいのか⁉ いやいや待てよ、俺らは別に付き合ってない。落ち着け俺ってあれ? アイリスが目を瞑りだしたぞ。め、目にゴミが入ったとかか?
心臓の鼓動が速くなる。覚悟を決めようとしたその時、
「何事⁉ 状況を説明し……ってなに……この森」
聞き覚えのある凛とした女性の声が庭園が響く。俺とアイリスは音の出所を見やると、そこには俺と同じ色の髪と瞳を持った第五代帝王、いや、女帝シンシア・ディアクロウゼスがいた。唯一、血を分けた妹だ。まぁ、父上が健在になったから彼女は退位する事になるんだろうけど。
気付くと帝国兵達がしゃがんで頭を垂れていた。
「この中で階級が一番上の者は誰だ。顔を見せて説明して」
「私です! シーグ兵長と言います」
女帝の指示で兵の一人が兜を取って、直立する。兵は若い男性だった。
にしてもシンシア、美人になったな、どっちかといえばかっこいい顔立ちだが。ウェーブのかかった長い髪が靡いているさまが似合っている。
「突風が吹いて城門ごと城壁の一部が破壊されました! そして虹色が広がって、えーっと、森が出来ました!」
「何言ってるか分からない……けど、見た感じの出来事が起こったみたいだな」
そう言って、シンシアは城門を一瞥した後に俺が生やした草木を眺める。次いで手のひらを頭に当てる。明らかに困っていた。
「突風というのは魔法の類か?」
「魔力は感じられなかったです」
「この森は魔法で出来たのか?」
「ま、魔力は感じられなくて、分かりません」
シーグ兵長の言葉に女帝は溜息を吐いていた。
「あの人がアレクシオ様の?」
「ああ、シンシア・ディアクロウゼスだ」
「厳しいお姉様って感じですね」
「妹だけどな」
「アレクシオ様の人形をたくさん置いてた方なんですね」
「いや、あれはエミリ・ディアクロウゼスの部屋だ。丁度、あの感じの髪色をしている……つか、あれ本人だ」
俺の視線の先には城門からやって来た可愛らしい容姿の少女――エミリ・ディアクロウゼスがいた。ピンク色の髪と目をしている。一〇年前とは違い長い髪はロングボブとなっていた。お洒落にでも目覚めたのかな?
「義姉様、何事ですの? 門が惨いことになっていますけど」
怪訝な顔をするエミリ。
「見ての通りだ。森が生えた」
「意味が分かりませんわ」
「私もそう思う」
困った様子の姉妹。すると、エミリが。
「あら、何か懐かしい匂いがしますわ」
森に近づいて来る。懐かしい匂いってなんだよ。もしかして俺か? あいつ犬かよ。
「懐かしい匂い?」
「そうですわ! こう何か……胸が締め付けられるけども愛おしい感じの匂いです」
首を傾げるシンシアに構わず、エミリは茂みに近寄る。華麗な王族服を着ているのに薄汚れるのを気にしていない。
「こっちに来ますよ」
「どうせ、《瞬間移動テレポート》で直ぐに逃げれるしな。試したい事があるからもう少しだけ留まってもいいか?」
「はい、もちろんです」
快く返事するアイリス。そして俺は一度も使った事がない力を行使しようとする。
「《創造天命/クリエイトデスティ二ー》ついでに《物質複製/マテリアルコピー》」
帝国兵と同じ鎧と兜を着た人物を創造した。ついに俺は生命そのものを生み出してしまった。《創造天命/クリエイトデスティ二ー》で男性を創造したら裸のまま姿を現す事になるので《物質複製/マテリアルコピー》で鎧を着させている。さすがのアイリスも目を見張り、
「そんな事まで出来るのですね」
と感心したように言っていた。
「正直、やってみるまで自信はなかった」
「その人で注意を引き付けて、皆を気絶させるんですね」
さすが妹は殴れない。
「それをするなら《瞬間移動テレポート》で逃げた方がいいからな。とりあえず、俺が創造した人が会話出来るかみてみたいんだ」
「なるほど……実験ということですね!」
そして、俺は創造した人物の肩を叩き、
「よし行っていこい!」
「はっ! この草木は私が作った事にしますが、その後は?」
「後は自由に生きろ」
「ありがとうございます」
そう言って、偽帝国兵は木々の中から出る。彼の姿をみたエミリは茂みの中に入るのをやめ、全員が彼に注視していた。
「何者!」
突然、姿を現した偽帝国兵を一喝するシンシア。
「陛下、この木々は私が作りました! 申し訳ありません」
偽帝国兵の言葉にシンシア、エミリが困惑した表情し、シーグ兵長が口を開く。
「な、何が目的なんだ。所属はどこだ! 顔を見せろ!」
「分かりました」
俺が創造した人物は兜を外す。
「「「⁉」」」
皆、カッと大きく目を見開いた。横に居るアイリスでさえ。
「アレクシオ様、あの人の顔……もしかして」
「良い顔が思いつかなかったからな。シーグ兵長ってやつと同じ顔にした」
なお、本物のシーグ兵長は腰を抜かしていた。
「わ、私が二人⁉」
「シーグ兵長の兄弟か?」
「双子みたいですわ」
シンシアに次いで、エミリが言う。
「いやいや、私は一人っ子ですよ! こ、こいつは、に、偽物だ!」
否定するシーグ兵長。他の兵達も驚いて騒めいていた。
「普通に喋っていますね。でもあの人、処罰とか受けないでしょうか?」
「そうなったら助けるか」
「あっ、そうです!」
アイリスは何かを思いついたみたいだ。
「アレクシオ様が作った人を助ける人を作ればいいのです」
「なるほどな……さすがアイリス」
「いえいえ。貴方様のお役に立てたのなら満足です」
という事で俺は。
「《創造天命/クリエイトデスティ二―》ついでに《物質複製/マテリアルコピー》!」
三〇人分の偽帝国兵を生み出した。森から現れる偽物達に場は更に混乱する。
「な、なんだなんだ!」
「何処から出てきたんだ!」
本物の帝国兵達は剣を抜いて後退る。
「待て、剣を納めるんだ」
シンシアは帝国兵達の動きを抑え。
「何者だ? 顔を見せろ」
「「「はっ!」」」
女帝の言葉に偽帝国兵は兜を脱ぐ。
「う、うわあああああああああああああ!」
叫ぶシーグ兵長は白目をひん剥いてぶっ倒れた。全員、彼と同じ顔をしている事が原因かな?
「うわっ、兵長がいっぱいる!」
「気持ち悪いな!」
「分裂して増えるタイプの人間かよ!」
「森から出てきたってことは、あれじゃね? 生えてくるタイプの人間なんじゃね!」
「怖い怖い!」
慌てふためく本物の帝国兵達。
「エミリ……こういう時はどうすればいい」
「さ……さぁ?」
戸惑いを隠せない姉妹。どうやら手に負えない事態らしい。
「これで最初にアレクシオ様が作った人も一人じゃないですね」
「そうだな。仲間がたくさん居るから安心だ」
一件落着と俺達はうんうんと頷いた。
「んじゃ、アイリス、そろそろ宿屋に戻ろうか」
「はい!」
俺は《瞬間移動テレポート》でアイリスと共に宿屋に戻った。全員に会ったわけじゃないけど父上の病も直せて、エミリとシンシアの顔が見れて良かった。そんな一日だった。
アレクシオが創造した人達は上級モンスターを一体一で倒せる実力を持っているので城の戦力として重宝されました。




