究明
それぞれが持つ昏い過去や、その仕事柄、死が身近にありながらもひたむきに生きる人々。
死人に口なし。その無念な思いを、遺体から読み取っていく彼ら。
そのドラマは、悩み続けた白いうさぎに、大きなヒントをいくつもくれました。
白いうさぎは、物言わぬ黒いうさぎを静かに見つめました。
過ぎ去ってしまったことであっても、白いうさぎにしか分からないことが、きっとあります。
だって、同じ心を持っているのですから。
読む度に苦い思いがしましたが、改めて、事件のあらましを読んでいきます。
そのあらましは、全て加害者によって語られたものを元に構成されていました。
そこには、被害者の悔しい想いはひとつも書かれていません。
言葉はおろか、遺体すらまともに残せずに死んだのですから、当然ではありましょう。
ある記事では、いくつかの点が疑問視されていましたが、答えは得られていないようでした。
……加害者には分かっていたはずですが。聴取は、十分なものであったのでしょうか?
――一度外に出た時に何故、逃げられなかったのか?
靴がなかったのでしょう。
幼い頃、言い聞かせられたことの中で、強く印象に残っていることがあります。
『何かあったら、絶対に靴を履いて逃げろ』
裸足では満足に走れません。遠くまで歩くことも困難です。
ましてやこのような非常時であれば、他人のものでも履いて出るべきだったでしょうが、それもしなかったのでしょう。……馬鹿なことです。
――家族に電話をかけさせられた時、助けを求めなかったのは何故か?
脅されていたのでしょう。
こう言わないと、家族に危害を加えるぞ、と。
既に自らが暴行を受けた後、家族が同じような目に遭うかもしれない恐怖によって、助けを求める声を飲み込んでしまった。
あとは、どの段階でそうされたのかは分かりませんが、喉を潰されていたと思います。
おそらくは、煙草で。
幼い頃、数年に渡って、ずっと『声がでなくなったらどうしよう』という、強迫観念がありました。
喉を鳴らしたり、鼻歌を歌ってみたり、とにかく声を出していないと落ち着かなかったのです。