コンクリート
黒いうさぎが指をさした事件の概要は、ざっとみても凄惨なものでした。
そのうさぎはまだ学校に通うお年頃で、アルバイトをした帰り道。
お気に入りのドラマの最終回を楽しみに、ぴょこぴょこ急いでいたところを、いきなり横から蹴り倒されたところから始まりました。
いきなりのことに驚いていたのでしょう、蹴った人の仲間にあっさり騙されてしまったこと。
その後、乱暴されたこと。
逃げようとしても、逃げられなかったこと。
長期にわたる暴行の末、動けなくなった後。ドラム缶に詰められ、コンクリートで固められて、捨てられたこと。
命日は、白いうさぎと黒いうさぎの誕生日の、前日でした。
ひとつひとつ、間を置いて休みながら、信じられない気持ちで辿っていきました。
白いうさぎは、憶えはなくとも、これは確かに自分たちにあったことなのだろうと思いました。
生まれ変わっても、消えない痛み。
黒いうさぎと共に抱えてきた苦しみと、飲み込んできた言葉と、その事件はことごとく整合していたものですから。
白いうさぎは、困惑しました。
それなりに、自信はあったのです。
どんな大変なことであっても、受け止めて、整理して、前を向けるくらいに強くなれたはずだと。
でも、そこに書かれた顛末は、遺族や犯人たちのその後は、そんな自信ごと白いうさぎを吹っ飛ばすほどに、悲しいものであったのです。
黒いうさぎは何も言わず、静かに白いうさぎを見つめていました。
白いうさぎは――すぐには何の答えも出せず、悶々と考え込みながら、新しい仕事場で働く日々を過ごしました。
そんな悩みを抱えた日々の中、白いうさぎにとっては、とてもタイムリーなドラマの放送が始まりました。
死因を究明する、死と向き合いながら悩みながらも、たくましく前を向いて生きる。そんな人たちを描いたドラマでした。