あたたかいもの
黒いうさぎのいない日々は、やるせないものでした。
仕方がないので、木でこしらえた人形を作って、時々、お喋りをしているつもりになってみました。
ひとり遊びにしては、不思議と楽しいものでした。
生きていくには、お金が必要です。
白いうさぎは、いつか黒いうさぎを元気にするためにも、せっせと働きました。
平日の事務のお仕事の他に、土日に結婚式で歌うお仕事を掛け持ちするほどでした。
そうして生きている内に、更に不思議なことが起きたのです。
いつのまにか、胸の中にあたたかいものがありました。
白いうさぎにとってはなんでもないものではありましたが、周りの人たちはそれをとても喜びました。
次第に、白いうさぎの周りの人たちに、笑顔が増えていきました。
白いうさぎも嬉しくなって、前よりも活動的になっていきました。
新しくできた友だちと一緒にお祭りに行ったり、お酒をのんで酔っ払ったり、小さな旅行をしたり。
そんな余裕もできて、前よりも随分、生きやすくなってきたようにも思えました。
このあたたかいものは一体、なんなのでしょうか。
ある日、ふと、気づいたことがありました。
結婚式で、よく読まれる言葉の中に、このあたたかいものとよく似たものがあったのです。
遠い昔、誰かに宛てられた手紙の中の一文でした。
そこでは――愛、というものについて、語られていました。
白いうさぎはぷんすこ怒ることがあったので、そこだけは少し違うかなあ、と思いましたが。
この胸の中にあるあたたかいものは、どうやら、そこで語られているものと、とてもよく似ているようでした。
けれどもそれは、白うさぎの心の中にあり、他の誰に分かるものでもありませんでしたから。
不思議だなあと思いながらも、大事に秘めておきました。