白いうさぎと黒いうさぎ
ここで、話を少しだけ、遡りましょう。
白いうさぎと、黒いうさぎの話です。
白いうさぎが物心ついた頃からずっと、黒いうさぎは苦しんでいました。
人前では平気そうな顔をしていましたが、白いうさぎの前ではいつも、胸を掻きむしり唸りながら、涙をこぼしていました。
そして、その痛みをぶつけるように、白いうさぎをぶつのです。
白いうさぎも苦しかったのですが、黒いうさぎほどではないのでしょう。
周りを見渡しても、黒いうさぎを助けてくれそうな人はいません。
白いうさぎは、それならばいつか自分が、黒いうさぎを助けられるくらいになるんだと、がんばって生きていました。
白いうさぎは、白いうさぎなりにがんばっていたのですが。
黒いうさぎはそれでは満足できなくて、もっと、もっとと、より一層激しく白いうさぎをぶつようになっていきました。
きっと、過去によほどつらいことがあったのだろうと。
聞いてみても、黒いうさぎは何も教えてくれません。
白いうさぎを毎日、ぶって、ぶって、ぶつばかりでした。
しかし、そんな日々にも終わりが来ました。
黒いうさぎは、その苦しみから、ついには動くこともできなくなってしまったのです。
白いうさぎは、それがとても嫌でした。
いくらぶたれたっていいから、生きていてほしい。
そんなことばかり思って、生きてきたものですから。
白いうさぎは、動かなくなった黒いうさぎを、柔らかな綿を敷き詰めた箱の中に横たえました。
あたたかくてやさしいもので箱の中を満たせば。
つらいことを忘れて、少しでも眠れれば。
いつかひょっこり起き上がって、また白いうさぎをぶちにくるかもしれません。
そんな日を夢見て、白いうさぎはまた、がんばって生きていました。