愛の手を握る
そこでは、生前の名前の代わりに、己の証として花が与えられる。
すべての人物は、全てを忘れていけるように、その花の名前で呼ばれるようになる。そんな死後の世界でのお話でした。
どうしても忘れられない記憶を抱えながら彷徨う主人公は、黒いうさぎの気持ちを代弁しているようでした。
白いうさぎはそれまで、なんとなく理解してはいたものの、あまり自分のこととして捉えられていなかったような事柄が多くありました。
しかし、それらを書いていく内に、徐々に実感が芽生えていきました。
昔のことは、思い返すのが苦手でした。
ずっと開きっぱなしで、ふさぐことができない感覚があり。
心にはいつも、他人の感情が覆いかぶさってきて、自分の感情は埋もれ朽ちていきました。
ゆっくりと時間をかけて、でも確実に、感情が一つ一つ、壊れていくのです。
楽しいも、嬉しいも、怒りも、喜びも、苦しみも、痛みも、ついには悲しみすら剥がれ落ちていく。
そうして黒いうさぎが動かなくなっていく様を、白いうさぎは、ただただ見つめることしかできませんでした。
何も感じなくなっても生きていくことに、意味はあるのか?
そんな風に思ったことすらありました。
ずっとこちらを見ていた灰色のオオカミも、同じように思ったのかもしれません。
でも。
何もかも失っても、美しいものなんて一つもなく醜くなっても、愛してもらえた。
それなら、きっと。
何もかも失っても、何も感じなくなっても、誰かを、何かを、愛することはできる。
そんなことを、黒いうさぎは、灰色のオオカミの心から、学んだのです。
白いうさぎにとっては、いつの間にかひょっこりそこにあった愛は、黒いうさぎが、こうして見つけたものだったようです。
黒いうさぎはそれから、ずっと灰色のオオカミを見つめていたのかもしれません。
白いうさぎは、灰色のオオカミのことを知ったのは最近だったので、なんだかずるいなあと思いました。ハンドルネームの方は、ちょっとは知っていたのですがね。




