できること
白いうさぎは、灰色のオオカミ宛てに手紙を出したり、時々紙ひこうきを飛ばしたりしながら、日々を過ごしていました。
一か月ほど経ちましたが、やはり一向にお返事はきません。
やはりここは、白いうさぎが何か妙案を出すしかないのでしょう。
これまでも、物語を書くことで、ちょっとずつ色んなことがよくなってきました。
他にできることも思いつきませんし、白いうさぎは、再びペンを執りました。
今度の物語は、あほな狸がやさしい狐と一緒に変なマンションから脱出する、そんなお話になりました。
すると、黒いうさぎが言いました。
『この通りにできれば、灰色のオオカミと一緒にいられるようになるよ』と。
正直、訳が分かりませんでした。
確かに、あほな狸は白いうさぎとよく似た性格ではありますが……こんな変なマンション、どこにも見当たりません。
何でも、それらは何かを暗喩しているだけで、それそのものが描かれるわけではないらしいのです。
巷で言われている予言と呼ばれるものと似たようなものだと、黒いうさぎは言いました。
時期が来たら自然と分かるものもあるが、ほとんどは注意深くさぐっていかなければならない、とも。
必要となるのは、何かしらの駆け引きです。
そのためにはまず、己の手札を知らないことには始まりません。
白いうさぎと、黒いうさぎが持っているもの。
青い目――物事の本質を見抜く。
希望――何ができるのかはよく分からない。
愛――何ができるのかはよく分からない。
白いうさぎが把握していたのは、このぐらいです。
青い目については、曇ってはいたものの、白いうさぎにもずっと付いていたものですから、そこそこ分かります。
人の心の在りようや、言葉の裏、それぞれの持つ気質や性質などがみえます。
といっても、視覚的にみえているわけではなく、全く別個の感覚で捉えているところがあるので、他者に証明することは難しいですが。
白いうさぎは、黒いうさぎに尋ねてみることにしました。
希望とは、何でしょうか?
『例えるなら、究極の夢想者。閃きに長けており、また存在するだけで周囲の生きものの心を明るくする。現実ではなく閃きに基づいた予言が可能のため、悪い状況を好転させることができる。ただしその実行は困難であることが多い』
愛とは、何でしょうか?
『超絶現実主義者。どこまでも真実を求める。事実に基づいた予測は群を抜いて的確である。また存在するだけで周囲の生きものの心の支えとなる。言うなれば計算高いため、物事を実現させることに長けている』
なるほど、以前ものすごいスケジュールと仕事量でもなんとかまわせたのは、愛のおかげだったようです。奇跡だ、なんて思うくらいギリギリのところでうまくいったことも、そういえば何回かありましたっけ。
希望で夢見て、愛でそれを実現する。
それが、白いうさぎと黒いうさぎにできることだとして。
そうするためには――圧倒的に、事実たる情報が足りていません。
白いうさぎは、これからどうするかを決めるためにも、まずは情報を集めることにしました。