ひめゆり
大事な用事もありますが、せっかくなので、ちょびっと観光もしました。
海や空の青さは眩いほどに美しく、植物も生き生きとしています。
地元の人たちの歌や踊りも賑やかで、熱を感じさせる力強さがありました。
鍾乳洞なんかもあって、海水でしょうが、そこの水がまたひどく魅惑的でした。
とっぷり頭から浸かって、しばらくぷかぷか浮かんでいたら、ものすごく元気になれそうだなあ。
白いうさぎは、そんな風に思いました。
むせかえるような夏に、青く澄んだ海。
この地は白いうさぎと、とても相性が良いようでした。
そんな中で、白いうさぎは、ある塔にも行きました。
悲しい出来事があった場所に建てられた、慰霊の塔です。
白いうさぎは、花を供えて手を合わせながら、なんだか落ち着く場所だと思いました。
その後、資料の展示を見ていった時。
黒いうさぎが、ひとつの写真を指さして、言いました。
これが、はじまり。
それは、一人の生徒でした。
故人の写真が多く掲示されている中では珍しく、学徒隊として亡くなった者ではありませんでした。
白いうさぎが不思議に思っていたことが、ここでひとつ、明らかになりました。
青いうさぎは一体何のために、此方に来たのか? 何故、何度もやり直しをしていたのか?
物語にも書かれたことではありましたが、青いうさぎは決められた日数を生き延びないと、また赤ん坊に生まれ直さなければならないという契約をしていました。
その日数は、元いたところでの1000日、時間の流れが違うので、此方でいうと10000日です。
27年と数か月を越えて生き延びれば、もう生まれ直すことはありません。
けれども、お友だちが、先生が、仲間が、みんなこんな風に亡くなってしまったから。
この時代、何よりも、希望が必要だったことでしょう。
それを持っていた青いうさぎは――ちゃんと、平和と呼べる日が来るまで、おいそれと帰るわけにはいかなくなったのです。
これが、青いうさぎが経験した最初の挫折であったのだと、黒いうさぎがぽつりと呟きました。