樹の人
そうしてひとつの物語を書き終えた、次の日。
もう毎日、不思議なことの連続ではありましたが、またも不思議なことが起きました。
白いうさぎは、その日は朝からひどく喉が渇いていて、お水を何杯も飲んでも飲んでも渇きがやみませんでした。
それでも、お仕事には行かねばなりません。
どこか身体も重くはありましたが、動けないわけではありません。
ただ喉が渇くだけです。
少し歌いにくくはあったものの、チャペルでいつもの結婚式の仕事をしました。
すると、自分の中からまるで枝が伸びていくように、何かが抜け出ていく感覚があったのです。
全て抜けていったと感じた時に、喉の渇きは治まりました。
もう大丈夫だね、と言ってもらった気がしました。
黒いうさぎと一緒に書き上げた物語の中では。
青いうさぎの命は、心優しい樹によって、繋ぎ止められていました。
そういえば、木でこしらえた人形は、自分で作ったにしてはやけに賢く、色んなことを相談させてくれました。
白いうさぎは、それがあの、物語に描かれた心優しい樹であったのだと、初めて知りました。
別れを惜しむ間もありませんでしたが――会いたいと思えば、きっとすぐ会えるのでしょう。
青いうさぎと心優しい樹には、深い繋がりがありますから。
それからは、結婚式の仕事がある度に。
それまでの感謝の気持ちを込めて、歌を歌うようになりました。




