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  蛇足 ~何の意味もありません予めご了承下さい~



 <じんぶつしょうかい> 

   ※みんなの特徴※



 メル・カロン……もっこす。人の話は聞かない。常に他人のペースを乱そうとする。理想の睡眠時間は十時間。好物は子どもとオリーブの料理、趣味は研究実験。好きなタイプはミザミで、嫌いなタイプはサンライズ。

 シリウス……ど直球。優等生なのに諦めが悪い。一途過ぎて清々しい。そこはかとなく育ちがいい気がする。メルに対する突っ込みは割りと冷静なところがシュールでいいですね。

 ハレー……良心の塊。この物語の誰よりも常識羊。それなのにしばしば酷い目にあっているのは……。

 ワンズ……神様。

 アンク……シリウスを戸惑わせるのが得意。

 ヒメリエ……かわいいです。

 ディアナ……日常の中にスリルがあっていいですね。

 ヤジャ……驚き所。

 ドライセン……鈍感。

 ロイ……デレない。

 ミザミ・カサブランカ……一番男前。身内に限り細かいことは気にしない。気になったら無気力でやり過ごす。

 マフィー・リーフィー……呼吸のように人を陥れる。自分は特になんてことない。

 オリーブ……苦手なものは魔術。料理の鬼。

 ノヴァ……悪魔にしか興味がない。

 サンライズ……マイペース。メルは同属嫌悪。

 トウフウイヅキ……漢字で東風。しかしトウフウと読むと……。

 












 ―ある館の甘い罠― 




「よろしくお願いします……」

「こちらこそよろしくお願いしますね」


 僕の名前はエミール・イドマン、今年で十六歳になる。

 突然だが今現在、目の前には陰鬱な屋敷の玄関間が広がっている。

 掃除は行き届いているし、造りも決して安っぽくはないのだが、いかんせんあまりにも飾り気がない。花瓶には緑一色の葉、絵もなく調度もなく見えるのは深紅の絨毯と家紋くらいだ。雰囲気が重くなるのも仕方がないと言えよう。出迎えてくれたメイドさんがまともそうなのが唯一の救い。

 覚悟はしてきたのだが、やはり少し弱気になってしまった。

 冬の街の曰くつき貴族の住む、カサブランカ家。

 他でもない、僕は今日からここで働かなければならない。



       ※



「この屋敷で働くにあたって……エミール君は何が一番重要だと思いますか?」

「何が……」


 到着後、改めて屋敷の案内をしてくれることになったイルメリさんは、のんびりと廊下を歩きながら尋ねてきた。金髪のかわいらしい人だが年齢不詳だ。窓から見える曇りがちな街は空の機嫌が悪く、光が弱くて薄暗い。

 緊張もあるしもともと頭も良くないので、僕は首を横に振った。


「えー……絶対服従? いえ、責任感とか、ですか?」


 呪われている、影の黒幕、呪術師、鴉の化身など、当主の恐ろしい噂はいくつもある。

 なのでそう答えたのだが、イルメリさんは母親が子どもを見るような優しい笑顔を向けてきた。つまり的外れだと言外に言われた。


「いいえ。順応性ですよ。これです。順応性。いいですか? はい、順応性」

「順応性……」


 三回連呼。

 

「って、何に」

「住人。出来事。雰囲気。これです」

「はぁ」

「まあ、誰でも初めは慣れませんものね。重要なのは二度目、三度目なのです。これを頭に叩き込んで、さあ行きましょう」

「はい……」


 何に慣れなければいけないのだろう。僕は俄かに不安が増すのを感じて唾を飲み込んだ。実験台にでもされるのだろうか。それとも、魔術儀式を手伝わなければならないのだろうか……。

 ありえなくもなさそうなことを考えながら歩いていると、


「きゃぁああぁあああ!!」

「何っ?」

「なんでもありません」

「なんでもないっ?」


 この間、三秒くらいだった。

 順番的には、ものすごい悲愴的な悲鳴が二階から聞こえてきて、僕は当然驚き、イルメリさんに即座に宥められた。これだ。わからない。なんでもないのに悲鳴を上げる人が住んでいるというのだろうか。

 眉一つ動かさないイルメリさんについていくと、西の一番端の部屋から濁った緑色の煙が漏れていた。僕は今日初めて緑色の煙を見た。禍々しかった。


「いろんな色があります」


 心を読んだように言われたが、それは置いておくとして、ここには「劣悪の魔女」と呼ばれるマフィー・リーフィーさんが住んでいるらしい。注意事項は次の通りだ。

 性別女。よく悲鳴を上げるマッド錬金術師。町民のような無害そうな姿をしているが一番たちが悪い。実験に誘われても絶対にのってはいけない。基本的に近づかない。目を合わせない。

 猛獣?


「毎日のように悲鳴が聞こえますので、マフィー様とそのほかの人との違いは聞き分けてくださいね! 当主を狙う暗殺者が来ることもあるかもしれませんので。それからマフィー様の部屋の掃除は専門家にしか出来ないので、もし挑戦したい場合は教えてくださいね!」

「はい。挑戦しません」


 幾ら札束を積まれてもすぐ死にそうなので、予め断っておき、僕らは三階へと続く階段を上がった。

 上がりきった先、左側から視線を感じて何気なく振り向くと、何か真っ黒な毛をして赤い目をしてオスの牛ほどはありそうでしかし牙が見えている爪も長くて強靭そうな凶暴そうなナニカがいた。

 目がおかしくなったとは思えない。涙が出そうだ。

 しばらく呼吸の仕方を忘れたような気がする。


「はい! あれは悪魔人形です」


 人形はもっとかわいいはずじゃないか。僕の抗議を無視して、イルメリさんは左奥の部屋の住人、ノヴァさんについて説明しだした。

 通称「悪魔博士」。魔術師の世界で有名人。常に悪魔研究をしている。悪魔人形はよく屋敷内をうろつくので、刺激しないように気をつける。彼自身は話が通じるので大丈夫。

 大丈夫と言われたところで……。


「当主の片腕ですね。仲良くなったら悪魔人形をもらえるかもしれませんよ!」

「手に余りそうですね」


 僕は棒読みで返答し、しばらくまぶたをマッサージしていた。

 そして一通り三階の案内を終えたところで、奥にある当主の執務室の扉が開いた。イルメリさんの指示に従って、廊下の脇に避け、軽い礼をとる。こっそりと見てみると、出てきたのは貴族の衣服を纏った若い青年だった。暗い目にあどけなくも見える東国風の顔立ちが、厳格さと不思議な色気を混同させている。立ち振る舞いが洗練されていて、しかし弱弱しい優雅さではなく堂々としており、僕は心の中で感嘆していた。厳しそうだけれどかっこいい。当主のお客様かもしれない。

 彼が行ってしまうと、イルメリさんが頬に手を当ててため息を吐いた。


「いつ見ても当主は高貴かつ高潔ですね」


 あれ? 当主?


「当主……!?」

「当主です」

「だって、若い! 普通の人!」

「エミール君よりは年上ですよ。立派な貴族様です」

「え、ああ、そうかもしれませんけど」


 ミザミ・カサブランカ当主。五分後に僕は認めた。仕事ぶりは容赦ないが、身内にはかなり甘い(無気力)らしい。どんな薄気味悪い壮年かと思っていたので、これは結果的に嬉しい誤算だったかもしれない。そう思うことにしよう。

 そして一階へ向かうために階段を下りていると、下の方から話し声が聞こえてきた。どうやら二人の青年のようだ。次の瞬間、イルメリさんにがしっと腕をつかまれ、僕の心臓は跳ね上がった。一体何が。


「イルメリさん? イルメリさん?」

「う……」

「はい?」

「運命……!」


 イルメリさんの目がこれ以上ないほど潤んで輝いていた。だが僕は運命というのは大げさなので偶然という言葉に置き換えたい。

 つまり偶然出会えたら運命を感じてしまう。というのも、


「お疲れ様です」

「どうも~」


 すれ違う形になる二人は、どちらもかなりの美系だったのだ。特に金髪の青年の方がすごい。目を引くし、非常に整った造作をしていて、それもさわやかで優しそうな顔立ちで、理知的かつ誠実そうだ。こんな陰鬱な館にいると間違って天使が紛れ込んだのではないかと思う。まさかこの人も魔術師だというんだろうか?

 心を読まれたわけではないだろうけれど、彼の青い目が僕を見て、動悸がした。


「あ、もしかして新しく来た人ですか?」

「は、はい、はい、その、あの、えーと、あの、」


 イルメリさんが説明しようとしているが全然出来ていない。それくらい、天使の微笑には威力があった。

 僕は仕方がないので自ら名乗り、彼らを助けることにした。シリウスさんとアンクさん。職務は異なるが、なんと二人もカサブランカ当主に雇われているらしい。


「何かあれば何でも聞いてください。慣れたら、良い職場だと思うから」

「割と向いてるんじゃない? じゃあね~」


 とても気軽な感じで二人は上階へ姿を消した。僕は額の汗を拭った。びっくりした。良い意味でこちらも普通とは言えないんではなかろうか。

 ようやく恐慌状態から脱したイルメリさんが、嵐のごとく喋りだした。


「ああ、素晴らしいですよね。美しいかつ神々しい上に完璧すぎます。もう私は今日を満足しました。数年前この屋敷に来られたのですが、シリウス様は魔術師を相手にする聖人様なのですよ。もちろんメイド達の中で一番人気です。私もシリウス様派です。断然。当主派も多いですけどね。アンク様派も密かに。アンク様は魔術が使えるのですが、魔術師を名乗ってはいないのです」

「はあ……」

「二人とも想い人がいるのですけどね。それはそれです。付き合いたいわけじゃないんです。影から見守るのがいいわけで特にシリウス様にはメル・カロン様という魔女がおりましてこれがまた本当に美しくて最近はいらっしゃらないのですけれど――」

「はあ……」


 五分後、僕の頭の中にはいらない情報がたくさん詰め込まれていた。どうしよう。

 どうにかイルメリさんを誘導し、ぐったりしながら一階へ向かう。疲労のせいか、廊下の角を曲がったところで危うく誰かとぶつかりそうになった。


「きゃっ!」

「わ、すいませんっ!」


 かわいらしい悲鳴がして、彼女が持っていた器が地面に落ちそうになって、僕は慌ててそれを支えた。一度弾んだが、なんとか器は彼女の手の中に納まる。

 割らなくてよかった。相手も同じように、ほっとした様子の声を出した。


「よかったわ……その、ありがとう」

「いえ、僕の方こそ」


 謝り、顔を上げたところで、声が出なくなった。

 赤い。目の前の、つやを湛えた唇が果実のようだった。それを際立たせる真っ白な肌、濡れたような漆黒の髪と瞳。間近で見た、妖艶な肢体と無防備な表情のギャップが、あまりにも魅力的で瞬きできない。

 美人だ。

 イルメリさんではないが、まさに僕の理想。

 まじまじと見つめすぎたのか、その女性は首を傾げて、合点したように皿を差し出す。


「なあに? これが食べたいの?」

「あ。う、はい、ありがとうございますっ……」


 理由は全然違ったのだけど、思わず頷き、僕は小さなショコラらしいお菓子を摘んで急いで口に入れた。イルメリさんもちゃっかり横から指を伸ばして食べていた。その味に、またしても衝撃を受けた。


「お、おいしい……!」


 単においしいというのすら憚られるほど、文句なしに。今まで食べたショコラはショコラじゃなかったと思う。これだ。甘みと苦味のバランス、見た目、口どけ、風味、香り、全てが最上の状態で存在している。

 イルメリさんも目を輝かせて言う。


「相変わらず素晴らしいです! オリーブ様は天才です!」

「いやだわ、大げさね……」


 オリーブさんというのか。

 気高い容姿に照れた笑みを浮かべて、彼女は頬を染めていた。僕は口をあけたままずっと見とれていたような気がする。彼女が行ってしまうと、イルメリさんが意味ありげに笑顔を作った。


「運命でしたか? かわいらしい方でしょう? オリーブ様という、魔術が苦手な魔女なんです。そのかわり、料理全般がとにかく素晴らしくて。優しい方なので、よく差し入れしてくれて、男性使用人をはじめ皆大好きなのですよ」


 僕ももうすでに大好きだ。異論はない。


「以上で主な住人の方々の紹介は終わりです。何か質問はありますか?」


 改まってイルメリさんが聞き、


「いえ、特に。がんばります」


 僕は大きく頷いた。

 すっかり固定観念が取り払われて少し清々しかった。いつの間にか窓の外には、晴れ間も見えている。

 何はともあれ、最後の出会いだけでも十分にここで働く価値があるんじゃないだろうか?











 


ありがとうございます楽しかったですm(  )m

以降後日談を真面目に進行しますのでよろしくお願いいたします。

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