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魔女と七人の子ども達<3>

 o。.ヤジャ.。o



 大丈夫なのかな。本当に、ほんっとーに大丈夫なのかなっ!?


 僕、ことヤジャは魔女さんの家の隅っこで、きょろきょろとしつつ頭を抱えつつ、大忙しだった。だってあのメルさんはとても綺麗で優しそうな女の人だけれど、これ以上なく魔女なのだもの。シリウスはああ言うけれど、万が一にも誰かが食べられたりしたら本当に大変だ。


「うぅ……」


 でも。

 と、そっと周囲を見つめてみて思う。部屋の中央に置かれた石のテーブルで、二人並んで話をしているシリウスと魔女さんは、すごくすごく絵になっていた。見慣れているけれどシリウスも間違いなく美少年で、僕なんかとは違ってしっかりしているし、だからといって威張ったりもしない。珍しく魔女に会いたいなんて、もしかして好きになってしまったのかもしれなくて。つまり、魔女さんとシリウスのカップル? わあ、メルさんがシリウスの頬を触って、シリウスが微笑んで──なんだかこれはかなりビューティー&デンジャラスーー!?


「うわぁん、助けろ少年っ!」

「え? エエっ!?」


 そんなとき一人でパニックになっている僕に突っ込んできたのは、コウモリの羽が生えた黒い子羊の人形でした。それは不思議なことに喋ってて、飛んでて、つぶらな瞳で、毛がもふもふしてて……。


「か……かわいいね〜」

「かわっ!?」


 なごむ……! 思わず僕はその羊さんを抱きしめてへらりと笑ってしまった。すると黒羊は伝説のハニワのような顔になり、一瞬白羊に変身しちゃったりして。ど、どうしたんだろう? 大丈夫かな? でもそれもかわいい。

 僕の心配をよそに、数秒で元に戻った黒羊さんは、高い声でキイキイと喚き始める。


「かわいいだってえ!? 悪魔なのに! 俺悪魔なのにっ!」

「アクマっていう名前なの? 僕、ヤジャって言うんだ。よろしくね」

「ああ、ヤジャね。こちらこそ……じゃねえよ! 名前じゃねえよ! 今時そんなボケが許されるのか!? 名前はハレーってのが一応あるっての! 確かにさあ、こんな森の結界にも引っかからないような低級悪魔で人形で飛ぶことぐらいしか出来ないけどさあ……子どもに遊ばれるような容姿だけどさあ……ぐすん」

「ご、ごめん……」


 泣かされるならともかく、誰かを泣かせるなんて経験は無い。よく理由は分からないけれど、僕は謝りかける。けれど、その声は元凶によって掻き消された。


「羊ちゃんっ、逃げるな!」

「ヒメリエ……」


 一つ年下の、ウェーブがかかった茶髪が可愛らしい、僕らのやんちゃすぎるお姫さまの登場でした……。

 信じられないけど、曰く悪魔、らしいハレーがあからさまにビクついて、僕は一瞬で状況を理解する。なるほど、ヒメリエに遊ばれていたんだね。それだったらその気持ち、誰よりもよく分かる。


「ハレー、そんなに簡単にめげちゃダメだよ……ヒメリエは決して悪気があるわけじゃなくて、なんていうか、基本的にやりたいことをやりたいようにやってるだけだから!」

「ダメすぎる!?」

「なんか、皆甘くなっちゃうというか、だから自由奔放になっちゃったんだよ」

「典型的じゃねえか!」

「ヤジャの癖になんか馬鹿にされたっ! 毎晩枕元に恐い話しに行くよ?」

「ひぃっ! ノーサンキューやめてえ!」


 恐い話とかあり得ない絶対ムリ……!

 ハレーと一緒になって部屋の片隅でガタガタ震えていると、いつもならディアナやシリウスが助けてくれるのだけれど、今日は違った展開だった。魔女、メルさんの美声が僕らの思考を引き付けたのだ。


「そうだ、子どもたち。せっかくだから星の森の奥を案内してあげよう」


 案内?

 星の森の深部を?

 興味よりも不安が圧倒的に勝ったのだけれど、それは僕だけみたいで。絶対やばいのに。自然と顔を引きつるのと対照的に、皆は好奇心で目を輝かせていた。特に、ヒメリエが……ヒメリエが賛成すれば皆賛成なわけで……ううっ。


「わあい! 行きたいっ」


 案の定元気な声が上がり、後はお決まりの展開なのでした……。


 


「というわけで、よろしく!」

「はい?」


 そして魔女さんは、なぜか僕に手提げ籠と薬草の見本が書かれた紙を渡してきた。

 笑顔に見とれそうになるのはこの際我慢することにして。

 一体案内してくれると言っていたのに、なぜ笑顔で家を送り出されるのだろう?

 ぎこちなく首を傾げれば、メルさんは不意に僕の顎に手を伸ばし、人差し指でなぞりながら顔を近づけてくる……って、なんでですかアンビリバブル!?


「自由に見てまわってくれていいから、この薬草を手に入れるまで帰ってきちゃだめだよ? わかったかな、少年」

「キャーー!!」


 悲鳴! 顔が熱くなって冷たくなって眩暈がして動悸がして、僕は死にそうになりました。はい。おそらくちょっと死んだと思います。

 だってどうしてそんなセクシーな感じで! 背筋がぞくぞくするような……! 優しい手で、心臓を撫でられるみたいな感覚なんて、きっと金輪際無いと思う!


「やーくーそーくー、しよっか?」

 

 僕はパニックになりながらぶんぶん首を縦に振り、


「はぃいっ! 指きりげんまんでもなんでもっ……」

「ふぅん、契約だね? いいだろう」

「え?」

 

 気付いたときには僕の小指にメルさんの小指がそっと触れていた。

 笑みを消した神秘的な顔がその唇で、短い呪文を呟いたのだと思う。

 長いまつげの向こうの眠ってしまいそうな瞳を見ながら、確かにそのとき僕は、見えない細い糸で縛られた。でもそれは、なんだったのだろう? 言葉に当てはめるとしたら意識の欠片、と言えるのだろうか。

 

「ハレーは貸してあげよう。それじゃ、達者でね」

「あ……」


 ドアが閉まる直前、僕は初めてまっすぐに彼女を見ることが出来た。

 光が閃くように、どうして僕にそんなことを頼んだのか、分かった気がして。だから僕は自分の小指を見つめて、彼女との約束を果そうと思ったのだと思う。


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