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寂しい男2


ラダさんはゆっくりと話し始めた。


「俺はこの村では割と裕福な方だった。いい嫁さんにも恵まれ、可愛い娘もいて、毎日幸せだったよ。


…【あの日】まではな。」


「あの日?」


「ああ。お前たちは東の魔王に捕まっていたから知らないんだったな。1ヶ月前、この国、ガリアの王権が変わったんだ。」


「何っ!それは本当か!?」


声を発したのはレティだった。


「あ、ああ。どうしたんだ嬢ちゃん。いきなり血相を変えて。」


「…わりゃわはそんな事聞いてないぞ。ガリアには見張りを置いていたはず…。それなのに連絡が来なかったと言うことは…。」


「すみませんラダさん。レティはたまにこうなるんですよ。まるで何かに取り憑かれているみたいで俺もよく驚きます。」


「そうか…。とても辛い思いをしたんだな。こんなに小さいのに…。気の毒な事だ。」


ラダさんはブツブツと何か呟いているレティを見て言った。


何とかごまかせたようで、ラダさんは話を続ける。


「ガリアの前王レオナルド王はとても素晴らしい王だった。他人にやらせるにはまず自分からと言う精神を持っていて、魔物狩に出られる時は自ら先頭に立つような勇猛な王だった。


レオナルド王のお陰でこの辺りは魔物も少なくとても裕福なところだったんだ。その勇猛さは他国でも評判で、突撃王とつげきおうなんて呼ばれてたよ。」


「ラダさんはレオナルド王の事をとても尊敬されてたんですね。」


「ああ。

しかし、1ヶ月前。悲劇が起こった。


レオナルド王が急死したんだ。

国は病死だと発表したが、どうもに信じられねぇ。


あの勇猛なレオナルド王が病気なんかで死ぬなんて考えられないんだ!俺以外の国民も当然怪しんださ。でも、国からの答えはやはり変わらなかった。」


「そして、次に王となったのはレオナルド王の兄であるラドベルク様だった。


ラドベルク様は以前から怪しい魔術の研究や、魔物や、死刑囚の死体を解剖ショーとか言う名目で広場で解剖したり、奇行の目立つ妙な噂の多い人だった。

その噂や奇行から多くの国民の信頼を得られず、兄であるにも関わらず、弟のレオナルド様が王権を持つに至ったのさ。」


「しかし、レオナルド様がお亡くなりになった今。ガリア王国の王はラドベルク王になってしまった。


ラドベルク王に変わってからのガリア王国は酷いありさまだ。ラドベルク王は金の欲しさにガリア王国の周辺の領主の地位を金で売り始めたんだ。


金を持ってる貴族たちはこぞって領主になりたがった。領主になればその地の権利は諸々手に入る。要は金さえ払えばその領地を好き勝手にできるってことだ。」


「王の風上にも置けぬな。」


レティが静かにつぶやき、俺の膝を枕がわりに寝転んだ。


どうやら魔王様はおねむの様だ。


「そして、前領主に変わってこの領地を金で地位を買った領主は最悪な奴だった。ミドナイ家の当主マルラス・ミドナイ。奴は金の亡者でクソ野郎だ。


ミドナイの野郎は、まず税金を以前の2倍に増やした。しかも、徴収日を月に2回に変更するおまけ付きだ。そして、税金を払えなくなった家から財産を次々と差し押さえていったんだ。」


「ひどい…。領主と言うより盗賊みたいじゃないか。でも、そんなに税金が高いなら、逃げて行く人もたくさんいたんじゃないですか?みんなで逃げてしまって手もあったのでは…」


そう質問するとラダさんは俯いて絞り出すように呟いた。


「…嫁を人質に取られてもか?」


「え?」


「ミドナイはこの、カイナ村の領主になった時に、一番大切な物は何だと村人全員に聞いてきた。」


「まさか…。」


「村人達の答えの中で最も多かった答えは、家族だったそうだ。


そう。奴は村人が答えた大事なものを一つの家庭から一つずつ持って行ったんだ。


俺は奴の問いかけに嫁と娘と答えちまったんだ…。」


「それからは地獄の1ヶ月だった。俺は狩の腕に覚えがあったからまだマシだったが、次々と、税金を払えない村人が王都のミドナイの屋敷に連れていかれて行ったよ。連れていかれた人間がどうなっているのかはわからないが、どうせろくな事ではないことはわかっている。」


「そして昨日。ついに俺は税金を払えなくなり、娘、レイが税金のかたに連れていかれてしまった。しかも、狩道具の弓も一緒にな。」


そう言って涙をぬぐいながらラダさんは言った。


彼の手よく見るとは皮がめくれたり、マメが出来たりとぼろぼろだった。恐らく1ヶ月間毎日休まず獲物を借り続けたのだろう。


「毎日毎日獲物を狩りに出かけたが、ダメだったよ。俺は嫁も娘も守れなかった。


後一週間で次の徴収日が来る。次の徴収日に税金が払えないと、俺の家族は終わりだ。


奴隷として売られるか、ラドベルク王の実験の材料になるかのどっちかだろう。」


語り合えたラダさんは鼻水を啜りながら言った。


「すまんなこんな辛気臭い話を聞かせちまって。」


「いえ、そんな事は無いですよ。俺から聞いたんですから。」


「いや、悪い。こんな話をしたところでどうなるってわけでもねぇのにな。


おっさんの長話に付き合ってくれてありがとよ。話したら少し楽になったような気がするわ」


そう言ってラダさんは部屋の奥でゴソゴソと何か物を取り出した。


「ほら、そろそろ寝な。この家には布団もベッドもないが、屋根だけはあるからな。嬢ちゃんもお眠むみたいだしな。」


そう言ってボロボロの掛け布団を俺に差し出して、ラダさんは小さく笑った。



その笑顔を見たとき、俺の頭の中に映像が駆け巡った。


犬小屋の様な小さな檻の中で事切れた少女。娼館のなかでボロ雑巾の様にこき使われ倒れている女性。そして、小さな果物ナイフを手に大きな屋敷の警備に槍で腹部を貫かれて倒れているラダさん。


…ッ!


どうして俺はこんなに鮮明に人の死をイメージできるのだろう。まるで、未来予知の様に…。


見たことの無い景色ですらも鮮明にイメージできてしまう。血の匂い。悲しみ。苦しみ。その全てが痛いほど鮮明に脳内に焼けつけられる。


…気がつくと俺は口にしていた。



「俺がなんとかしてみせます。」


やはりこの性分は死んでも治らないらしい。






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