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ぼくらは「ヤバイやつ」だと思われたい。




『オレ、普段はおとなしいけどキレると何するかわかんないんだよねー』



『実はアタシこう見えて、昔はやんちゃしてたんだよねー』



『いやぁ、実はヤクザと知り合いなんだぁ』



 抑えきれない自尊心を顔ににじませながら彼らは平静を装う。しかし、心の中では自分が「普通のヤツとは違う」ということを知らしめたいという虚栄心を充満させている。



 別にそれが悪いことだとは思わない。自分のことをよく見せたいと思うことは悪いことではないし、誰だって多かれ少なかれ他人に一目置かれたいという欲求を内に秘めているものだ。



 ただ、そういうことをいう人は往々にして普段はあまりパッとしなかったり地味だったりする。そういう、いわゆるあか抜けない人たちが無理をして自分を大きくみせようとしている所を見るとなぜか背中がむずがゆくなってしまうし、目を覆いたくなってしまう。



 なぜだろうか?たぶん、そういう人たちに限って自尊心を隠すのが下手で、彼らの自尊心が透けて見えるのがどうにももどかしいんだと思う。



 実は自分にも隠れた一面があって自分は普通の人間ではないんだよと直接言ってくれればよいものを、それを回りくどく、ありもしないエピソードでカモフラージュして、そして、あげくにはその自尊心をカモフラージュできてないところが恥ずかしい。そして、何よりも本人がそのことに気づいていないのが恥ずかしい。



 でも彼らにはどうすることにもできない。だって彼らはそのことに気づいていないのだから。だから、僕が代わりに言ってあげようと思う」



「おい、ここを開けろ!」



 背後からドンドンと力強く叩くドアを叩く音がする。おまけに怒声つきだ。おそらく駆け付けた教師たちのものだろう。



意外と早かったな。僕が屋上でメガホンを使って演説し始めてものの2、3分でやってくるとは。もう少しかかると思っていたんだけどなぁ。だけど、ドアの前には放置されていた木材や机で事前にバリケードを作ってある。教師たちもやすやすと僕を止めることはできないだろう。



改めて演説を再開する、登校中の人気の多い時間帯を狙った成果か眼下には大勢の聴衆が僕を見上げている。



 「彼らはみんな、自分が “ヤバイやつ”だと思われたいだけなんだ!!」



 「普段は誰にも見向きもされない日陰者だからこそ、周りの人に自分のことを見てもらいたいんだ!だから、ちょい悪自慢をして自分の自尊心を満たしているだけなんだ!そんな彼らのことをどうか責めないであげてくれ!」



 僕が最後のセリフを言い切るや否やガラガラと背後の木材や机が崩れ落ちる音が鳴り響いた。それから僕が複数の教師陣に取り押さえれれるまでにはものの10秒もかからなかった。



「お前は朝っぱらから屋上で何をやってるんだ。しかも、公衆の面前でなぜ全裸でスピーチをしているんだ!!お前が一番 “ヤバイやつだよ”!!」



隠して一糸まとわぬ僕は教師たちにあえなく取り押さえられてしまった。



僕は上手くカモフラージュできていただろうか。









 










 


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― 新着の感想 ―
[良い点]  意外な結末。  すごくまじめに読んでいたらショートショートのような作品でした。  おもしろかったです。
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