二十四 喧嘩するほど仲が良い…?
今回は若干ギャグ混じりだったりするのかもしれませんw
数日後の崇仁坊、栄邸――。
喪の帳が少しずつ上がってくる中、不知火が部屋に訪れていた。
「…皇太子様は、何をするつもりなんだろう」
「それは分からない。まだお考えを何一つ示されていないからな」
「そっか…。――私は、どうなってしまうのかな…このまま、皇太子様に嫁ぐことに、なってしまうのか…?」
草魏はそう言うと悲しそうに笑った。
そんな草魏に不知火が歩み寄ろうとしたときだ。
「草魏様!」
部屋の襖が勢いよく開き、慌てた様子で草魏の侍女・舜夏が入ってきた。
「どうした舜夏。そのように慌てて」
「こ、皇太子様から直々の文に御座います!」
「皇太子様から!?」
吃驚した草魏と不知火の声が被る。
舜夏から文を受け取りながら何が書いてあるのかと緊張してくる。
封を切り、中を見てみる。
「……え…」
「どうした?」
「…婚約しろって言うような文章――何処にも、無い」
「無い!?」
『栄草魏
そなたに二つ聞きたいことがある
一つは 無理強いをされていた婚約の件について
もう一つは三人の皇子に関して。
この二つの件どのように考えているかを聞かせて欲しい
明日の午の刻 東宮で待つ
李愈』
「…無い」
「でしょ?……って誰からそんな話を…無理強いされていたなんて」
そう言えばそうだよな…と不知火も考え込む。
舜夏はその間に栄流に知らせると部屋を立ち去った。
「…誰が伝えたんだろ」
草魏がぽつりと呟いた直後。
「私が東宮に自ら赴いて話をしたからですよ」
「え?」
「水伊!?て、テメェいつから其処に!?」
「ついさっきです。大して時間は経っていません。…まぁ犀嚴様のお力をお借りしたのですけども」
「犀嚴殿の!?」
「知らぬ仲では御座いませぬ故、少しお頼み申したまでです。…で、不知火殿何か言いたいことがあったらおっしゃってください」
「え?不知火?」
「…水伊と犀嚴殿はどういう関係だ」
「何を聞かれるかと思えばそのようなことですか。…短く言えば宮城で初めての友人、とでも言ったところでしょうか。…何ですか、その年が離れすぎてるのにとでも言いたげな顔」
水伊に睨まれぐっと不知火は押し黙る。
此奴の性格と犀嚴殿の性格で噛み合うのが不思議でならん。
どうやったら噛み合うんだか本気で聞きたい。
「…昨期から貴方の心の声が聞こえてくる気がして耳を塞ぎたいです」
「な!?テメェ昨期から言わせておけばそんなことを…!」
「あーもー其処までにして!此処で喧嘩しても意味無いでしょ!?」
「…これは、失礼なところをお見せしてしまって」
「お前がふっかけたんだろ!?」
「少しお黙り願えますか。それともこの場で斬って進ぜましょうか?」
「ちょ、ちょっと水伊!落ち着いて!不知火も不知火よ!ちょっとは落ち着いて!」
(いつからこの二人こんな犬猿の仲になったのよ…)
要と不知火がそう言う関係(なのかは微妙だけど)なのはわかるけど…。
水伊と不知火……ああ、何か合わない。
「…はぁ…」
「草魏殿?如何なさいまして?」
「御免、頭が痛いよ」
「……それって良い意味ではないですよね」
「いや、良い意味って何。普通に頭痛いって事?」
「勿論。…恐らくこの言い合いやら何やらを見て頭痛くしたんでしょうね」
「だーいせーかい」
怠そうに答えて机に頬杖を作る。
この二人が喧嘩をしているところ、初めて見たのに慣れた風景のように見えるのは気のせいなのかな。
…そうか。要とので見慣れてしまったんだ。
「…水伊」
「何ですか?不知火殿」
「あんま喧嘩ふっかけんなよ。要とやって随分慣れたが」
「言っておきますが要殿とは少し違いますからね。口で終わるのが要殿ですが私の場合は剣に至るのでご注意を」
「てめ…!またんな事いいやがって…!」
「――ねぇ頭痛薬飲んできて良い?本当に。それもあるけど何処か楽しそうに笑ってる水伊が怖い」
「あら、気のせいじゃないでしょうか」
「いや今だって十分笑ってる」
「気のせいですよ?草魏殿」
「…わ、わかったから、ちょっとその手おろそうか!すっごい怖い…!そのまま抜刀なんてしないでね!?」
「大丈夫です。貴方の左にいる方になら抜刀しても良いとは思うんですが」
オイコラそれって俺じゃねぇか!
あら、誰も貴方とは言っていませんよ?
ぜってー俺だろ!
さあ?どうでしょうね?
水伊を侮ったら負けだ。
辺りから怖い雰囲気が悶々と…!
…要大丈夫なのかしらと本気で心配する自分がいて苦笑する。
事実このように恐ろしい(と言ったら殺されそうだが)彼女を持っている要は大丈夫なのだろうか。
怪我とかしていない現時点では大丈夫っぽいが。
「ちょ、ちょっと真剣な話の時にそんな喧嘩しないで…!話逸れてる!」
「ああ…申し訳ないです。何処かの誰かさんと会話をしているうちに逸れてしまったみたいで」
「悪かったな。どっかの探り屋みたいな行動取ってる奴と話してて話逸れた」
…何この二人。
喧嘩友達自称できるんじゃないの?
あ、いや…友達じゃない。
二人の間に小さい火花が散ってる。…こわっ。
不知火の怖い顔でも水伊は笑顔で返せるなんて。
これは絶対水伊の勝ち。
不知火がどれだけ藻掻いたり足掻いたりしても水伊が勝つわこれ。
「…兎も角私と犀嚴殿は友人と言うような関係で結ばれている。それだけの事です」
「――分かった。それで協力を求めた訳ね」
「元々宮城に仲のいい人はそんなに多くありませんでしたし、ご協力をお頼みしたのは夜。草魏殿や楼々殿を起こすわけにはいきませんでしたから」
「そんな気を遣わなくたって良かったのに」
「その様なことで体調を崩されたら堪ったもんじゃないですよ」
「…あ…そう、か…」
草魏はそう言い終わったと同時に誰かの気配を感じて襖の方に威圧めいた視線を送る。
影がうっすらと見えた瞬間草魏はああと納得してしまった。
むやみやたらと長身。
恐らくは……
「かーなーめー」
「何ぼーっと突っ立ってるんですか」
「テメェの気配はとっくに気づかれてんだぞ」
「ん?やっぱそうか?」
その声と同時に部屋の襖が音もなく開かれる。
その瞬間から不知火の顔は更に不機嫌さを増した。
「この呑気野郎が。いきなり現れてその呑気さはすげぇな。」
「それは褒めてないな?それにいつも呑気に草魏といちゃついてるテメェに言われたかねぇな」
「あんだとゴラ…!テメェも水伊といちゃついてる癖によ…!」
「あぁ?言わせてみれば楽しい事言ってくれるじゃねぇか」
要と不知火の間に火花が散る。
「…草魏殿、頭痛薬買いに行きます?」
「是非とも。この二人の喧嘩は慣れてるけど頭痛いわ」
「本当に慣れて良かったんだか良くなかったんだか」
「恐らく慣れてもなーんの意味も無いと思うよ」
「ですよね…」
話も完全に逸れたと草魏と水伊の口からは溜息ばかりが零れる。
そんな事お構いなしとでも言うように要と不知火の言い合いは続いている。
「…喧嘩するほど仲良いってこれを言うのかしら」
「分からないですね…。要殿と不知火殿の場合自分が納得するまでとことん言葉をふっかけますからね」
「…はぁ…」
「溜息しか出ませんね。……東市に行きましょうか。大事な話の途中だったのですが」
「え、でも今…東市って…」
「――そうでした。皇帝陛下崩御に伴い、店は開いてませんでしたね」
「じゃあ…」
「このまま待つしか無いみたいですよ」
呆れ顔を保ったまま二人はまた溜息をついた。