表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋慕桜  作者: ふうや
18/26

十八 悲しい決意

すいません><  もうこの一言に尽きます;

「楼々…」


目の前で横たわる少女――憂楼々は未だ目を覚ます様子を見せない。


輛麟の剣から何とか逃れたのは良い。

その途中で楼々が倒れたから事は少しばかり大きくなった。

(全く。熱があるなら無理しない方が良かったのに)

憂邸で熱があると憂月に言われてから漸く熱があったんだと気がついた。

もう一寸早く気がつけば良かった。


でも見た限り楼々自身も熱があるとは思っていなかった様子だが。

(やっぱ鈍感だ)

想いの鈍感は直っても他の所は鈍感のまま何てね。

僅かに苦笑してから楼々の額に手を当てる。

……まだ熱い。

(一体どれだけ高い熱出してたんだよ、本当に)

熱とは思えないような走りっぷりは一体何処から来たわけだ。

無茶も休み休みにして欲しい。




今この場に身を置いているが、逃げたために宮城から追われる身となってしまった。

どうやって逃げればいいのか。

(逃避行なんてやる気無いし…)

憂月殿やその他のみんなに迷惑かかるだけだし。


そうやって考えていたとき――。


「……うーん…」

「楼々…?」

「…!あ…私倒れて此処に来たんだよね?」


そう言って楼々は起きあがろうとするが柳耀は駄目だと止める。


「な、何でよ」

「楼々自分の体がどういう状態か分かってる?まだ熱下がりきってないんだ」

「何ってるのよ。熱なんて出てないわ。平気よ」


そう言って立ち上がるが数秒後に楼々の体は傾き柳耀に受け止められる。


「…だから言っただろ。大人しく寝ておくんだ」

「でも」

「だーいじょうぶ。幾ら追われる身になったとしても絶対逃げるから」

「ちょ、ちょっと!それって柳耀殺すためじゃないの!?」

「うん。多分ね」

「何けろっとしてるのよ馬鹿!」

「だって楼々がいたらどうって事は」

「何こんな危険な状況でそんな事言うのよー!」

「こんな時こそ、だから。安心させておかないと楼々何しでかすか分からない。何しろ破天荒なんだから」

「うぅっ。わ、悪かったわね!」

「――…ど」

「え?もっかい言って?」

「其処が好きなんだけど」

「…!」


(ま、またこんな状況で…っ)

顔を赤くするやらはらはらするやらで楼々はある意味で忙しい。

柳耀は侮れない。

いつ何処で口説くか分からない。

時と場合って言う物を教えさせないと駄目なのかしら、と本気で思ってしまう。


「…楼々?」

「柳耀の馬鹿」

「な、何で俺馬鹿?」

「こんな状況でのらりくらりと柳耀に寄り添ってる暇はないのよ!逃げないと駄目じゃないの!」


それに早く腕離してっ。

そう言われて柳耀は漸く自分が楼々を支えっぱなしだと思い出す。


「もう。柳耀の方がよっぽど鈍感じゃないの!」

「何で其処で鈍感なのさ。鈍感な楼々に言われたくない」

「う、五月蠅いわね!…もう良い。柳耀一人で逃げて。私自分で逃げるから」


ちゃんと生きて帰ってよねっ。

そう言うと「待てよ!」と言う柳耀の制止を聞かずそのまま部屋を飛び出した。


(違う…こんな事言いたかったんじゃない…)

本当は二人で逃げたい。

なのに。

自分は何をしたかったんだ。





でも、戻れない。

柳耀も追ってきていない。

この状況で戻るという選択肢は見つからなかった。



馬に跨りそのまま適当に走る。

(でも言ったからには逃げてみせるっ)

体の怠さがどんどん悪化していくのにも気づかず楼々は北へと馬を走らせた。



***


「…言い過ぎた…か」


部屋に取り残された柳耀は楼々の後ろ姿が消えてからそうぽつりと呟いた。

だが直ぐにはっとした表情をし、部屋を飛び出した。

(こうしちゃいられない。楼々何処に行ったか探さないと)


放っておいて万が一輛麟の手に渡ったら。

考えるだけで辛くなる。


…そんなことさせるものか。


馬に跨り長安の彼方此方を走り回る。

(くそっ。何処に行ったんだ…!)


東市にさしかかったとき。


「りゅ、柳耀兄様!?」

「あ、莉紫。…楼々、見かけなかった?」

「楼々さん?えっとね…確か兄様と逆方向の方に馬で駆けてたのだけれど…。兄様と何かあったの?」

「ちゃんと帰ってきてから話すよ。ありがとう!」


そう言うと方向を変え莉紫に背を向けた。

その後ろ姿を見送りながら莉紫は口を開いた。


「…喧嘩かしら」


そう言うとくすっと笑った。

(あぁ…笑い事じゃないわ)

そう思いつつ、暫く肩を揺らしていた。


***



一方楼々は、過所を片手に長安を出る門まできていた。


「はい?私を見かけたら止めてください?」

「あぁ。輛麟様から、そう聞いている」


(りょ、輛麟が…!?)

逃げるときに長安を出ると言うことは確かにあり得る。

…それで片っ端から門を抑えたわけね。


「と言うことは私に捕まれと」

「そう言うことだ」

「……良いでしょう」


柳耀が聞けば何を言っている!と叱られるような返答だった。


「…ただし」

「何だ」

「あの方が殺そうと計画を立てている幼馴染みの柳耀には手を出さぬように、と輛麟にお伝え下さいませぬか?」


それが柳耀へせめてもの償いだ。

(これぐらいしないと……)


「………分かった。…此処で待機せよ」


楼々の覚悟は固いものだった。

こんな事柳耀が許すはずもない。

でもこれぐらいしないと柳耀を殺すという輛麟の計画を潰すことが出来ない。

(一度私があの方の傍にいれば諦めてくださるはず)


暫くしたときだ。



「…ほう。自ら捕まりに来たとは。中々だな、憂楼々」

「あら、そうでしょうか。私は柳耀を守るために出たまでですわ」

「それでも構わぬ。…直ぐに宮城へ向かうぞ」


そう言うと輛麟の馬と楼々の馬は宮城へと走り出した。

この状況を柳耀が見ていないことを願って。



***



北の方へ馬を走らせては見たものの、楼々の姿は見当たらない。

(何処に行ったんだ…!……ま、まさかもう長安を抜けたのか!?)

だとしたらどれだけ凄い速さで馬を操っていたのだろう。

楼々が部屋を飛び出して、柳耀が追いかけるまで二分ぐらい。

普通なら見つかるはずだ。


ふと、柳耀の頭に嫌な予感が通過する。

(――まさか)

いや、そんなはずは無い。

あのことを言った楼々の顔は真剣そのものだった。


「りゅ、柳耀兄さん!」


柳耀のずっと下に赤毛をした少女――豹駕が見えた。

肩で息をしている状況から見ればなにやら焦っているようだ。


「豹駕?どうかした?」

「い、今楼々姉さんがいたんだ!で、その横に」


あの輛麟って人が一緒にいたんだ!


「何だって…!?」

「楼々姉さん、嫌がる様子も見せず普通について行ってる!行かなきゃヤバイよ柳耀兄さん!あのままじゃ婚約を本気でさせられちゃう!」

「わ、分かった。今行く。ありがとう豹駕!場所は!?」

「東市の近くだよ!」


ありがとうと言うと急いで馬を逆方向に向け、走り出す。

馬が疲労するかもしれないが、其処を今気にしている場合ではない。

(楼々…!)


輛麟…!

一体何をやらかすつもりなんだ!




***



宮城、輛麟の部屋――。



「で、聞いたでしょう?柳耀には手を出さぬように、と」

「あぁ。聞いた。…だが、私からも条件がある」

「――婚約、せよ」

「流石だな。…そうだ。それしか無い」

「皇子候補の柳耀がいるのに、何故他の皇子を求められる」

「あの者は処刑せねばならぬのだ。勝手に皇子の座を降りたなど論外だ」

「なら尚更ですわ。そんな事で柳耀を殺して貰っては困ります」

「それぐらい当たり前だ。今まで斯様な事で処刑されたものなどたくさんいる」


そなたの考え通りに通すわけには行かぬ。


楼々は少し俯き考えを巡らせる。

この状況だと輛麟は自らが出した条件に答えてくれそうにない。

…と、なると。


「…良いわ。婚約する」

「ほぅ…。なにやら裏がありそうだが」

「何にも御座いませんわ」


即答し輛麟を見る。

やけに愉快そうな顔をしている。

…見るだけで吐き気がする。


「これで良いでしょう?柳耀を殺さないで」

「承知した。其処までそなたの覚悟が大きいのなら」


(いつまでその強気が続くかわからぬがな…)

憂楼々。

婚約はほぼ無理矢理に頼まれたものだが、本気で惚れそうだ。


あの者は周りを笑顔にさせる魅力があるらしい。


「憂楼々。一つ言っておく」

「何でしょう」

「私は本気でそなたに惚れた」

「…!」


そう言うと輛麟は立ち上がり襖の外へと姿を消した。

(これは…まずいことになっちゃった…)

でも言い出したのは自分。

事を丸く収めなければ。



楼々は近くにあった髪と筆に柳耀への手紙を書き始める。


ごめん柳耀。約束破っちゃった。

でも、これぐらいしないと守りきれないの。


私が輛麟と婚約したことで柳耀は殺されずに済むの。


だから安心して。



そんな短い言葉だったがこれでも棟は伝わるだろう。

縦長に折りたたみ机におく。

(…疲れた)

振り回されたりなんなりして疲労が多い。



そう思った瞬間だった。

再び体を襲ってきた怠さに耐えることは出来ずそのままゆっくりと地面に向かって楼々の体は落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ