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恋慕桜  作者: ふうや
15/26

十五 帰還

ちょっと甘めです。

苦手な方はUターン!

「姫様。漣葉殿の容態は」

「傷が深いから介抱するのに手間が掛かるわ」

「それにかれこれ数週間寝たきり状態ですしね…」

「いつお目を覚まされるのやら」


昏睡状態の漣葉の周りには、桃莉を始め海天、千蓮、蘭竜の四人がいた。


「時々意識を取り戻すけれど直ぐに意識をまた無くすのよ」

「何か夢でも見ておられるのでしょうか」

「その可能性もありますけども…」

「せめて良い夢である事を願っておこう」


そう言うとまた沈黙が走る。

聞こえるのは四人の小さい呼吸だった。


と、その時――。


「うっ…」

「漣葉殿!?」

「何かあったのかしら」

「ら……そう」

「らそう?」

「……漣葉の幼馴染みさんだったかしら。その子良爽って名前だったわ」

「一体どちらでその名前を」

「一時、あの子と会ったことあるのよ。東市でね。その時に隣にいたのが、この子だったのよ」

「また抜け駆けしてそんなことを」

「抜け駆けって人聞きの悪い。此処の生活が嫌になって抜けただけよ」

「…左様でございますか」


海天はこれ以上追求せずに、話を止めた。

そして苦しそうに歪んでいる漣葉の顔に視線を移した。


だが次の瞬間、漣葉はカッと目を見開き飛び起きた。


「れ、漣葉殿!?」

「何事でございますか!?」


漣葉は数秒何も言わずに硬直していたが、直ぐに我に返り辺りを見渡す。


「き、気がつかれたか」

「え?…あ、はい」

「此処、宮城よ。覚えてる?貴方が重傷負って此処まで運ばれてきたこと」

「覚えています。…でもその後からは、何も」

「無理も御座いません。昏睡状態だったのですから」

「にしてもどうなさったのですか。突然飛び起きたりして」

「――良爽が殺されそうになった夢を見たので…多分それで飛び起きたんじゃないかと」

「左様に御座いますか…」

「でも大丈夫なの?飛び起きたりして、傷開いたりしなかった?」

「いえ、平気です。…もう動けるみたいなので」

「駄目。あと数日は此処にいなさい。…まだ傷の手当て完全には終わってないのよ」

「そ、そうなのですか」


漣葉はそう言った後、再び寝床に付いた。

(良爽は…どうしてるんだろう)

調べ物があると言って出かけたきり会えずじまいだ。


「彼の会いたいのですか?」

「え…?ら、良爽のことですか?」

「えぇ。凄く会いたそうなお顔をなさってますよ」

「…数週間前に調べ物があると言って出かけたきり会えてないんです…だから…」

「そう言う訳ね…夢の中でもその子の事を想っていたのは」

「気がつけば良爽のことばっかり考えてました」


そう言うと漣葉は苦笑した。

(いつの間にこんな風になっちゃったんだろ…)

今までこんなに想うことはなかった。


何故なのかはうすうす自覚している。

でもそれを素直に言えないから困っている。


「……お客様のようね」

「え?客?」

「えぇ。誰かがこの部屋に向かってきてるわ。…恐らく貴方目当てよ。一旦席を外すわ」

「我々もそういたします故。何か御座いましたらお呼びください」

「え、あ、はい」


(本当に俺に用がある人なのか?)

内心疑いつつ訪問者を待った。


確かにこの部屋の近くで足音が聞こえる。

でも…これは…

(走ってるよな…?)

かなり早い足音がこの部屋に近づいてくる。


暫くしてこの部屋の前で止まったと同時に勢いよく襖が開けられる。

「漣葉っ!」


扉の外で荒く息をする人物は漣葉が数週間会いたいと想い続けた人物だった。


「…!?ら、良爽っ!?」


そう言った後漣葉は驚きを隠せず飛び起きる。


「傷は…だ、大丈夫なのか…!」

「え、あ、うん。何とかだけど…って何処でその情報を」

「今すれ違った桃莉殿に聞いた。お前が重傷負って寝ていたって聞いて」


心配になって見に来たんだ。


そう言うと漣葉の傍によりあちこちに巻かれた包帯を見る。


「酷い…」


傷の多さに良爽は愕然とする。

包帯が巻いている場所は見える限りで十カ所以上はある。


「誰がこんな怪我を」

「…蜂咏の賊の一隊に所属する硫璃って言う人。……楼々姉が蜂咏によって重傷になったんだけども」

「なるほど。漣葉は巻き込むためにか。本当の狙いは楼々のはずだから」

「うん。……あれ、良爽って調べ物してたんじゃ…」

「してたけどその時に丁度宮城に漣葉を見てきてくれって憂月殿から頼みが来てな。そうしたら…こうなってたから」

「俺もう一寸強くなんないとヤバイなー。こんなんじゃおちおち外に出ることさえも出来ねぇや」


そう言うと漣葉は半ば無理矢理に笑顔を作った。

(どうしよう。…泣きそうなんだけど…)

そんな為に偽の笑顔を作ったところで直ぐに見破られる。


「……漣葉、無理矢理笑ってないか」


(やっぱり)


「…泣きそうなんだからしゃーねーだろっ」

「泣きたきゃ泣けば良いんだよ」

「――はえっ?」

「だーかーら!泣きたいときは素直に泣けつってんだろ」

「それで泣けるならとっくに泣いてる…!」

「…何で泣きそうなんだ」

「んな事言えるかよ!」


(『良爽が帰ってきたから』なんてまともに言えるわけねーだろっ)

そんなこと想っているうちに視界がぼやけて来た。


「御免、俺顔洗ってくる」


そう言って立ち上がり良爽の横を通り過ぎようとしたとき――。

漣葉は手を良爽に掴まれそのまま引き寄せられていった。


「え…!?」

「…そんな顔で泣かれたらほっとけねぇだろ」


(余計に泣かすつもりなのか…!?)

離せと漣葉はじたばたするが良爽がそれを許すことはなかった。


「突然帰ってきて驚かして…!最悪だっ」

「何だ。それの所為か」


(しまった…!どさくさに紛れて本心言ってしまった!)


「悪かったな…!文句あんのかっ」

「ねーよ。……数週間帰ってこなかった事は…悪かった」

「えっ?」

「本当のことを言うと調べ物自体は二日で終わってたんだ。…でも…」

「でも…?」

「いや、何でもない…」

「何だよ!」

「良いって言ってるだろ…」

「良爽…?」


どうして、どうしてそんな辛そうな顔をするの?

そう言うつもりだったのに言葉が出なかった。


「俺が泣きそうだ。こんなに弱かったなんてなって想うと」

「…良爽は強い。俺はそう思ってる。…だから、話して。でも、の後」

「――守りきれないんじゃ無いかって想って、距離を置いた」

「!?何馬鹿な事をやってるんだ!」

「今の俺に守ることは出来ない。…そう思うのは、間違いなのか」

「…こんな事言うのもなんだけど、守ってくれてるだろ。いつも俺の傍にいてくれたのは誰?良爽じゃないの?」


それだけで十分守ってることになってるんじゃないの?違う?


良爽の腕から抜け、正面から向き合う。

(今の良爽は…何か違う。弱音を吐くことが多くなってる…)


「そう、なのか…」

「そうだよ。…だから…その、辛そうな顔しないで?」

「え?」

「自分の所為でこうなった的な顔しないでよ。見てるこっちが辛いじゃないの」


だから、笑って?

そう言うと漣葉は良爽に向かって微笑んだ。


「漣葉…」


――そうだな。

そう言うと良爽はやっと本物の笑顔を見せた。


「ありがとな、漣葉」

「そんな大層な事してないって」


(…うぅ。本当に泣きそうなんだけどどうしてくれるんだっ)


「漣葉?お前、とうとう泣き出したか?」

「なっ、何だよその言い種は!…こっちは死ぬ思いで良爽のこと心配してたんだからなっ」

「そうなのか…?」

「そうだよ!も、文句あるかっ」

「…いや、無い。寧ろ嬉しいな。其処まで俺を心配してくれてるなんてさ」

「幼馴染みだから…それだけ」


(違う。…違うよ…)

心の中で今言った言葉を必死になって否定した。

本当の答えが言葉となって出てくるのはいつになるだろう。


言わないといけないのは知っている。

でも、言葉に変換されないのだ。


「良爽っ…」

「え!?ど、どうした!」

「俺、どうしたら良いんだよ…言いたいことが言えなくて、どうしようも無い気持ちになって…」

「いきなり…どうしたんだよ、漣葉」


抱え込んだ漣葉の背をそっと撫でつつ、良爽は静かに問うた。


「本当のことが言えなくていつも辛かった。心の中で出てるのが本当の答えで…口から出てるのは殆ど嘘のことなんだ」

「おい、それって」

「御免。…でも、嘘付きたくて付いてる訳じゃないんだ」

「なら……構わないけど」

「いつも気がついたら泣いてた。また言えなかったって」

「それには気がついてる。いつも、辛そうな顔して泣いてる」

「え…?どうして…」

「気がつけ。いつも漣葉の部屋を見に行ってるからだ」

「…そうなんだ」

「お前の言いたい事って、何だ」

「それが言えたら苦労しないっ!」


そう言うと膝をまた抱えた。

顔を埋めてる服に染みが出来ていく。

(本当に、泣いてる…)

肩を震わせ始めた漣葉を掛ける言葉すら見つからない良爽はずっと見つめていた。


「…漣葉…」

「――良爽が、好き」

「…え!?い、今なんつった!?」

「良爽が好きって…言った」

「それが…本心か」

「…………うん」


吃驚して数秒固まった後、良爽は淡く笑った。


「な、何で笑うんだっ」

「いや、可愛くなったなーって」

「何そんな恥ずかしいこと笑顔で言ってるんだよ…」

「初めてあった頃とは大違いだなって想ってよ。あの頃は男の子にも見えたんだけども、今は女の子にしか、見えない」


漣葉の涙を拭き取りつつ、そう言う。

当の漣葉は顔を真っ赤にしたままだ。

思わず言ってしまった本心に慌てているのだろうか。


「…覚えてる?良爽は。東市で一回俺が口を滑らせたのは」

「覚えてるよ。…お前は気づかなかっただろうけどあの後お前に向かって一言言ったんだぜ」

「え?何て言った?」

「『俺も漣葉が好きなんだよ』って言った」

「……え、えぇぇぇ!?」

「何素っ頓狂な声あげてるんだ」

「いや、だだだだだってっ。良爽一時俺のこと嫌いだって断言したじゃないか!」

「あれはからかわれてどう言ったら良いか、分からなかったから」


上手い言い逃れが見つからなかっただけなんだ。


そう言うと漣葉の髪に指を通す。


「…そうなんだ…」

「悪かった。その事に関しては。……っておい、漣葉」

「何?」

「顔真っ赤だぞお前」

「だ、誰の所為だと思ってるっ!」

「誰だろうな」


良爽の所為だよ馬鹿ぁ!

更に顔を赤くして良爽にかみつく。


「ば、馬鹿ってお前…」

「いつもいつも俺良爽に振り回されっぱなしだっ。もう嫌だ!」

「悪かったな、振り回してるつもりはなかったんだけど」

「十分振り回してるよ!本当にもー…私が混乱することぐらい予想してから言ってよっ」

「…!?れ、漣葉…?」

「え?どうかした?」

「お前今、自分のこと私って言わなかったか?」

「――…あっ」


(うぅ。本性がっ)

今まで男みたいな言葉を使っていたのは本性なんかじゃない。

本性は歴とした女の子だ。

女言葉は喋れないとみんなには言ってきたが実はちゃんと喋れるのだ。


「何だよお前ー余計に可愛くなりやがってこの野郎っ」

「あーもーだからそんな事言うな!だから今昨期のことは取り消し!」

「やだね。やっと女の子らしくなったんだからそのまま行け」

「絶対いーやーだ!」

「何処までも頑固だな漣葉は」

「もう何とでも言え!」

「…でもさ、事実お前が女らしくなったろ?」

「何処がだ!これの何処が女だ!」

「全部」

「即答しないでよ…」


はぁと、漣葉は溜息をつき布団に潜る。


「傷治ったらちゃんと戻ってこい。待ってるから」

「――分かった」

「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。宮城内を片っ端から偵察して憂月殿に報告しなきゃなんねーから」

「うん。…その、頑張って」

「任せとけ。今の言葉で力貰ったから頑張れる」


(うっ。またそんな恥ずかしいことを平気で…!)

そう思いつつ、こくこくと頷き、良爽を見送った漣葉だった。

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