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恋慕桜  作者: ふうや
13/26

十三 果たされた約束 伝わった想い

激甘が嫌いな人、柳耀×楼々が嫌いな人は回れ右をお願いします。

夢の中での約束は   必ず果たす


そう 決めているから――



***



「――んー…」


そう言って目を開けたのは楼々だった。

(此処、宮城よね…?)

辺りをぐるりと見渡し、宮城だと言うことを確認した。


ふぅと息をついた後楼々ははっとした。


「柳耀は何処?…それに」


(私この床で寝た覚えないんだけれど……)

まさかね、まさか柳耀が運んだ訳じゃないよね。

でもそうだとしたら柳耀は何処に――?


ゆっくりと上半身を起こしたとき、楼々の右手にふさふさとした感触の物が当たった。

其れが何なのかを確かめるため楼々は身を少し乗り出した。

その直後、楼々は息をのんだ。


「りゅう…よう」


外から吹く微風に消されてしまいそうなぐらいの小さな声で楼々はそう言った。


ふさふさしていたのは柳耀の髪だった。

と言うことは、やはり…

(柳耀が、私を此処まで運んでくれた…?)

そう確信した瞬間楼々は顔が一気に熱を帯びていくのが分かった。


え、じゃあまさか抱き上げとかされた!?

(あわわわわ。考えるだけで恥ずかしいよーっ)

楼々は顔を両手で覆い、顔の温度を下げようとした。


と、その時だ。

背後から楼々の腕を引いた者がいた。

思わずきゃっと楼々は叫ぶ。


そのまま背後の者に抱きしめられ、数秒硬直する。

そんな楼々の後ろから声が聞こえた。


「やっと、目覚ましたね。楼々」


柔らかくて、優しくて。

その声を楼々は唯ひたすらに待っていた。


「――ただいま」


柳耀のその一言が楼々の耳朶を滑る。

(そうだ。約束だった…夢の中での約束だ)

そう思い出すと楼々はゆっくりと口を開いた。


「…おかえり、柳耀」


柳耀の腕の中でゆっくりと体を返し、瞳を見つめる。

そんな楼々の顔がふと歪んだ。


「柳耀…っ」


涙声が柳耀の頭に響く。

一ヶ月以上、会えなかったのだ。

辛さは募る一方だった。


「何?楼々…」


楼々の解かれた髪に指を滑らせながら柳耀は優しく問う。

ただ楼々が言いたいこと全て聞かなければと言う思いで。


「任務で、何があったの…?こんな顔にまで怪我して…」

「敵が、無茶苦茶強かった。今までにないぐらいに。負傷していく内に意識を失って。…その後、気がついたら家の前にいて」

「え?じゃ、じゃあそれって誰かが運んでくれたって事よね…?」

「誰かは…分からないけれども…。思いっきり意識無くしてたし。…楼々」

「なあに?」

「一ヶ月以上、悲しませて御免。…夢の中で会えただけでも嬉しかったけれど…やっぱり現実の方が良いよね」

「当たり前じゃない…!」

「…で、楼々が言いたいことって、何?」

「――――好き。柳耀が、好き」

「…ろ、楼々…!?」

「ずっと気がついてなかったの。…ほんと、鈍感にも程があるわよね。でも娘子に言われて気がついた。これはただ、柳耀を気にしているだけの気持ちじゃないんだって。もっと別の感情なんだって分かって。…だから言わなきゃって…」

「…俺も同じ事言おうとしてた。まだ鈍感なのかと思ったけどもう違うんだね。…草魏娘子に感謝しないとね、これは」

「そうね…。…って柳耀も同じ事を…」

「楼々がどう思っているか分からなかったから、言えずにいたんだ。……怖かったから」

「怖かった?何が…?」

「もし俺が気持ちを伝えたとして、拒まれたり分からないって返答されるのが、怖かったんだ」

「柳耀…」

「でもさ、今なら楼々も言ってくれたし、安心した」

「!…うん!」


そう言うと楼々は傷を気遣いつつ柳耀の体に顔を埋めた。

それを両手で柳耀は優しく受け止める。


「ねぇ…柳耀」

「ん?何?」

「…知ってるよね。今私が婚約迫られてるのは…」

「知ってるよ。……それを、守りに来た。楼々を誰かに渡すなんて冗談じゃない」

「早速俺の物宣言?」

「当たり前でしょ。俺は楼々を守るために生まれたんだから」

「何か違うでしょ。…でも、私が思うのは柳耀しか私を幸せに出来ない気がした。柳耀以外の誰かが私を幸せにするのは難しいと思う。それに今回の場合は強制だし…」

「そうだね…。だったら尚更だよ。…俺は絶対、楼々を渡さない」


柳耀の真剣な顔が楼々を安心させた。

(柳耀…)

くすっと笑った後でまた柳耀の体に自分の体を預けた。


「柳耀…」

「どうした?」

「私、逃げれるかな。輛麟の手から」

「大丈夫だって。それに楼々は一人じゃないから…」

「そうよね。もう、怖がらなくて良いよね」

「そうだよ…。大丈夫だから」


柳耀の声を聞いて楼々はもう泣く寸前だ。

(こんなに優しく言われたら…泣きそうだよ…)


「――楼々?」

「な、なんでもない!」

「…泣いてる?」

「泣いてないよっ」

「…はぁ。泣いてるじゃんか」

「な、何か文句ある……の…?」


柳耀の指が楼々の目に滑る。

吃驚したように楼々は数秒硬直した。


「今なら泣いても良いって。何したって構わないから」

「で、でも…」

「俺が全部、消すから。辛い事だって悲しい事だって。…俺の所為だって言うのは、分かってるから」

「どうして!?どうして、柳耀が悪いの!?」

「一ヶ月以上楼々を悲しませたんだよ?そんな事して、許されるはず無いじゃないか」

「私は、確かに悲しんだよ…でも、でもね帰ってきてくれたからそれで良い!柳耀が今この瞬間私の傍にいてくれるならそれで良い!」


一瞬柳耀は虚を突かれたように固まったが、直ぐに顔をふっと戻し「あぁ」と答えた。


「楼々が許してくれるなら、良いよ」

「よかった。…私が泣いたのは、柳耀が……その、優しすぎるから…」

「…それだけ、楼々が好きだから…だよ」

「りゅ、りゅうよ」


柳耀と言おうとしたところで、その口が塞がれる。

瞬時に楼々はそれがなにかを悟り、目を閉じた。


唇が離れた後、柳耀はさっきよりもきつく、楼々を抱きしめた。


「…楼々が、好きだから。誰よりも。…だから、これからも傍にいさせてくれる?ずっと、楼々を守りたいから」

「柳耀…っ。…勿論だよ!私だってあるだけの力で柳耀を守る。気持ちに気がついてからそう思ってたから」

「分かった」


そう言って柳耀は楼々に向かって笑った。


だが、その笑顔も瞬時に消えた。


「楼々危ない!伏せて!」

「え!?」


言われるがままに楼々はその場に伏せる。

そんな楼々の視界を横切ったのは一本の矢だった。


「矢?!何でこんな所に」

「……誰かいる」

「流石だな。乱柳耀」

「――輛麟か」

「柳耀!?輛麟を、知ってるの…!?」

「任地で、此奴に会ったんだよ」

「ちょ、一寸待ってよ!じゃあ最近輛麟を見かけなかったのは」

「そうだ。任務の場所で乱柳耀を消そうと思ったのだが…。生きていたとはな」

「俺が死ねるわけないだろ。…待ってる人がいるのに、無惨に散るなんて出来やしない」

「まぁ良い。…さっさと憂楼々を渡すんだ」

「無理だ。…楼々は、俺の大切な人だ。誰にも渡しはない。例え、お前が皇帝の命で動いているとしても」


楼々を庇うように前に出ていた柳耀はその場で抜刀した。


「…楼々」

「え?何?」

「俺から、離れないで」

「…!分かった」


そう楼々が承諾すると同時に柳耀は楼々の手を取り走り始めた。


「柳耀!?」

「何とかして逃げよう!これしか手段は無いんだ!」


そう言うと、柳耀は剣を鞘に入れながら宮城の門目掛けて走り続けた。

怪我をしているとは思えないぐらいの速さだった。


宮城の門には何故か見張りの宦官がいなかった。

(何で宦官がいないのかしら…)


そう思いつつ、柳耀と共に宮城の外へと出た。

一旦足を止めた後、楼々は荒い息を吐き続けた。


「楼々!?大丈夫!?」

「へ、平気……疲れた、だけだから…」


だが疲れたどころの話じゃなかった。

体に力が入らないし、怠さまでも覚えている。

一体自分の体で何が起きているのだろう。

(どうしよう…気が、遠くなっていく感じが…)


そう言うと同時に楼々の視界は一気に真っ暗になった。


「楼々!?」



楼々の耳にその言葉しか入ってこなかった。

(柳耀――)

心でそう呟きつつ、真っ暗な世界に身を投じてしまった。

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