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恋慕桜  作者: ふうや
11/26

十一 夢の中


なんなんだ此処は。

昨期から真っ暗で、何も見えない。


「俺は一体…何処に居るんだ…」


一度立ち上がり、辺りを見渡すが四方八方闇ばかり。

(…って楼々は?!)


「楼々!?いるなら返事して!」


叫んでも全く反応がない。

(じゃあ…此処夢の、中…?)

先程自分はようやく意識を取り戻して、重傷状態の楼々を助けた。

…それから?

(それから俺、なにやってるんだ?夢の中って事は…ろ、楼々の部屋で寝てしまった!?)

あちゃーと柳耀は頭を抱える。


「取り敢えず、ここから出ないと……」

『帰ってきて…柳耀…』

「――え!?楼々!?」

『お願い――言いたいことが、言えないよ…』

「言いたいこと!?って楼々!何処に居るんだ!」

『帰ってこなかったら私…私…どうしたら……』


その後楼々の声が聞こえることはなかった。

(…悲しませたままにするものか!)

柳耀はそう心で言うと出口のない闇をただ一心に走った。

一心に走って、待っている人がいるのなら。

それだけで良い。

目指すべき場所が、君の所なら――


「――楼々」


一旦足を止め、辺りを見渡すが全く変わらない。

真っ暗なままだ。


「くそっ!」


(出口は、何処なんだ…!)

『…柳耀』

「え…?」

『目を…目を覚まして!お願い!こんなのだよ!ちゃんと、起きて私の名前を呼んで!せっかく…せっかく此処までたどり着いたのに、意識無いなんて…そんなのっ、そんなの』

「意識、不明…!?」


(俺がいつ、そんな状態に…!?)


『家で目を覚まして…私の所に来てたなら一声掛けてよ…』

「まさか…あの場所で俺、意識不明に!?」


(寝てて意識不明になるとか…)

嘘だろ…

このまま自分は楼々の元へたどり着けるのだろうか。

笑って彼女の名を呼べるのだろうか。


と、その時だ。

突然周りが明るくなった。

同時に楼々の声も途絶えた。


「此処は……」


(昔来たことある花畑じゃないか。楼々が連れてきてくれたっけ…)

取り敢えず此処に何で連れてこられたのだろうと柳耀は辺りを見渡す。

と、右に視線を滑らせたところで柳耀ははっと息をのんだ。


「楼々…!?」


同じように吃驚している状態の楼々が居た。


「あれ…私何でこんな所に…取り敢えず此処から、出ない…………と…」


楼々が柳耀を見たとき、声が小さくなっていった。


「嘘!柳耀…!?」

「…楼々…」


風に持って行かれそうな小さいな言葉で柳耀はその言葉を口にした。

柳耀が一歩踏み出そうとするよりも、楼々の方が早かった。


「っ…柳耀!」


柳耀に向かって楼々は一気に走り出す。


「どれだけの間待ったと思ってるの!」

「…御免。本当に。…その前に俺、あの部屋で意識不明になったの…?」

「なってた。最初の内、寝息が聞こえてたけど後になって突然途絶えて…。脈診てもぴくりとも動かないんだもん…。だから急いで太医殿を呼んで…」

「じゃあ夢の中で聞こえてた声は…その時の楼々が本当に叫んでた言葉なんだ」

「夢の、中…?」

「真っ暗な中で楼々の声が聞こえたんだ。帰ってきて、とか」

「確かに…言った気がする。叫んでたかもしれない」

「――近所迷惑」

「仕方ないじゃない!せっかく来てくれたのに…一言も、喋ってくれないなんて」

「いや、喋ったはずだよ」

「…え!?」

「じゃあ、楼々を手当てしたのは誰」

「宦官様よ。柳耀そっくりだったけど」

「俺なんだけど。憂月殿に頼んで宦官の服、貸してもらった」

「…う、そ…」

「何処までも鈍感だね、楼々」

「――気持ちだけは、鈍感じゃなくなった」

「え…」

「いつまでも鈍感だなんて思わないで!もう良い。言わない」


機嫌を損ねたのか、楼々は柳耀に背を向けて歩こうとする。

その袖を柳耀は掴む。

ただ、離したくないという一心で。


「待って。今、俺に言える?」

「…えっ」

「ちゃんと聞きたい。楼々の気持ちがどうなのか」

「まだ言えないよ…辛くて言えないよ…。あくまで夢の中で会っただけだから…。本当に会えたときに、言うから…」

「そんなの、耐えらんねぇよ」

「え…!?」

「また俺が意識不明になったらどうするの。それでも楼々はちゃんと会ってから言いたいの?」

「うん。…そうだ。柳耀、行こう!」

「は?何処に…!?」

「現実世界。…今離れたら、また消えるかもしれない。戻ってこないんじゃ無いかって思うと、怖くて…」


柳耀の腕を掴み、楼々は走り出す。


「笑ってお帰りって言うから。それで言いたいこと全部言うから…」

「…じゃあ、俺だって笑って楼々の名前呼ぶ。ただいま、もね。それで俺も言いたいこと全部言う。すっごい溜め込んでる」

「楽しみにしてるね。柳耀」

「うん…」


ふと、楼々の足が止まる。

花畑の方を指さし、口を開く。


「――そう言えば此処、覚えてる?この花畑」

「当たり前だよ。楼々が連れてきてくれたんでしょ」

「流石柳耀ね…。良かったよ。覚えてくれてて…」


七年前、綺麗な花が咲いてると言って楼々は此処に柳耀を連れてきた。

(此処で俺、楼々への想いを自覚したんだよな…)

花冠を付けて走り回っていた楼々を思い出す。

それだけで柳耀は嬉しくなって笑みを漏らす。


「柳耀?どうしたの?」

「ううん、その時のこと思い出したんだ」

「あの頃も本当に楽しかったな…。あの花畑、未だ誰も知らないんだよ?」

「そうなの!?」

「うん。私が馬で遠乗りに出かけて見つけたから…。またあの場所に行きたいなぁ…」

「じゃあ、俺が意識取り戻したら行こう。今の時期綺麗だと思うから」

「本当っ!?」

「…悲しませた分、償いたいし」

「そんなの、気にしなくて…良いのに」

「え?どして?」

「だって今此処で逢えたから良い。……あ、れ…」

「楼々!?」

「私、透けてる…」

「嘘…」

「また、あの時と同じだ…」

「あの時…?」

「一回夢の中で柳耀が私の名を呼んで走ってきたとき有ったんだ。でもその時思いっきり私透けてて…声さえも届かなかったから」

「でも今は、届いてるよ…?」

「…もうじき現実世界に、帰れるよ。柳耀」

「本当?」

「うん。…待ってるよ。現実世界で、柳耀に会えること。笑っておかえりって言うから…じゃあね、そろそろ…消えるから」

「分かった。…って俺もか」

「柳耀。ちゃんと、私待ってるから。柳耀が、私の前で目を覚ましてただいまって言うまで」

「楼々からのおかえりだけを俺は待ってるから。…ちゃんと果たそうな、楼々」

「当たり前よ……じゃあね…」


そう言うと楼々は白い光に包まれた後、消えていった。


その直後、突然気が遠くなっていった。

抗う間もなくその場に倒れ込んだ。

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