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これR15でセーフなのか怪しい代物になりつつあります。比喩表現多目なので直接的では無いですが、頭のおかしさがね、作者含めてですね……。

 その魅力的なものを今すぐ奪い取って、じっくりと眺めてやりたいという衝動が頭を支配するけれど、十何年かの人生で培われた常識が踏みとどまらせてくれた。


「うわ、怖いな、君、今にも僕を刺しそうな顔してる」


あ、表情を隠し忘れていた。

照れ隠しにえへへと笑ってみると、店長さんは少し顔を赤くした。ああ、美女の笑顔ってやつは罪なものだ、などと自惚れてみる。


「で、店長さん、それ、いくら?5万円以内なら言い値で払うわ」


「うえぇ?!それってバイト代全部無くなるんじゃないの」


「元々刃物の蒐集のためのお金だもの、貯金も出せば、10万まで都合出来るわ」


この店のはモノが良いから、1本買うとお小遣い制の同級生がひっくり返るような金額になるけど、お小遣いに加えてバイトもしている私には毎月買えるくらいだ。ここ以外でお金を使うなんて言ってもたまに親がいない時にコンビニに寄るくらいだ。貯金はかなりの額に達している。


「あーっと、これ、貰い物なんだ。元々タダのものを、商品として高値で売り付けるわけにはいかないよ」


「売り物じゃないんだ」


「文字通り、ね。いや、最近自分で持ってるやつが増えすぎちゃって、管理できなくなってきてさ、この新たな悩みの種を、君に押し付けようかなって」


私にとっては天使のラッパ、福音に等しい。というか彼はこんな良い物を他人に譲り渡そうというのか。


「こんなに綺麗なのを、私が貰っちゃって良いの?」


「綺麗で良い物でも、バタフライナイフだから、アクションしてると割りとすぐに悪くなっちゃうんだよ、あー、でもなぁ」


歯切れが悪い。今日の店長さんははっきりしてくれない。


「何かあるなら言って、後顧の憂いは望むところじゃないわ」


「難しい言葉使うね、あっと、実はこのナイフ曰く付きでね?今風のバタフライナイフなのに、前の持ち主のおじいさんが蔵を整理してた時に出てきたらしいんだ、変な話だろう?」


「なんだ、そんなこと、孫とかがふざけて入れたんでしょう、桐の箱まで用意するなんて、凝った悪戯だけど」


「……なら、良いんだけどね、それじゃ、持っていってくれる?」


「勿論よ、でも、売り上げに貢献しないのは後ろめたいから、ポケットナイフでも買うわ、持ち歩けるのが欲しかったのよ」


「感謝感激雨霰。どうぞごゆっくりご覧くださいお客さま」


こんなときだけ半分おどけた風に店長らしくするんだから。

でも、持ち歩きたいってのは良いけど、持ち歩くならさっきのバタフライナイフでも良いような。

そんな迷いも持ちつつ、私は店内を歩き回るのだった。



***



「毎度ありがとう、また来月ね」


店長さんが手を振ってくる。本当に心配になるなぁ、あそこが潰れたら、他に行くとこないんだけど。普段お客さん来てるのかなぁ。

今のバイト辞めて、あそこに置いてもらおうかな、そろそろ、刃物もお腹いっぱい、というか引き出しいっぱいになったし、お給料安くても良いから、店長さんを手伝いたいかも。

そこまで考えて、笑いが込み上げてきた。若い男の人の店で働くなんて、両親が知ったらなんて言うだろう。しかも2人っきり。なんだ、私は恋する乙女のようじゃないか、好きな人のいるところでお仕事したい、だなんて。

ははは、おかしい。頭がおかしいのは承知の上だったけど、こんなこと考えるなんて本格的にイカれてるかも。

私はにやける口許を買い物袋で隠しながら、家に帰るのだった。



***



帰宅して夕食もそこそこに、私は部屋に戻る。買い物袋はあやしまれそうなものだけれど、店長さんが気をきかせて無地のものを持たせてくれているため、今のところバレる様子は無い。

跳ねる心を抑えつつ、私は桐箱に入った銀色の蝶と対峙した。

手に取って、刃を出してみる。それは今まで買ったどの刃物よりも美麗だった。柄にもなくはしゃいで、一振りすれば、空気が『斬れる』感覚というものを味わえた。何かの境地に至った武人のような感触だ。

肌に乗せるだけでそこが裂けてしまいそうなほどに鋭利な切れ味。これを作った人間は、何か人から外れた行為でもしたのだろうかと思わせる妖しさだった。

……刃物というのは持てば何かを切りたくなるものだ。いつも買ってきたら、束ねた紙を切ったりリンゴの皮を剥いたりするのだけど、これをそんなもののために使う気にはならない。

この冷たい刃を、熱い何かに突き立てたい。

異常な興奮と熱を、ナイフの冷たさで冷ましながら、私はベッドに潜った。



***



朝。あれから眠れなかったけれど、頭も目も冴えている。

夜中、ずっと考えて、私は結論に至った。悪い冗談みたいな、最高の結論。

学校に到着して、早速品定めを開始した。なるべく目立たないのが良い。なくなっても気付かないモノ、あるいは気付きにくいモノ。

しばらく見渡して、良い品を見つけた。誰も気にかけない、見向きもしないもの、それゆえに私の目に留まった可哀想な、不良品。

足音をたてないように、揺れで壊してしまわないように、それに近付く。値踏みをして、値切りをする。もうほとんど私に付いてくるみたいに、その品物は手元に入ってきた。



***



やってきたのは、地元民も寄り付かない山奥。ここで私はその品物を愛でるのだ。


「ね、ねぇ、いきなり外って、すごいね」


「スリルがあって良いでしょ、ま、私だって見られたくないからこんな辺鄙なところに来てるんだけど」


微笑みかけてやれば、堅くなっていたモノが私に全てを許す。私はどこまでも邪気を感じさせないように笑いながら、モノを愛でていく。表面だけの愛だけれど、満足させるには充分過ぎる。


「あは、これ、凄い……!」


「そうね、私も、気持ちいいわ……」


次第に高まって、やがて突き抜ける。その瞬間に私は______隠し持っていたあの蝶の口で、品物の蜜を吸いとった。


「あっ、がぶっ!?いたっ、痛い痛いイタイ良い良ヒイィィィ!ああははっ、嘘っ、嘘おぉぉ!?」


壊れた不良品が、身から自身の証を失って、狂い悶える。今この間に、かつてない満足感が、私を満たす。

なんて、狂った願い、なんて、狂った刃だろう、これは、狂ったモノだけを、叶えてくれる夜の蝶なのだ……。

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