剣の舞
その男を見たのは町はずれの林の中である。武者修行をしている剣士か何かのようだ。この男を襲えば、食い物か金がいくらか手に入るかもしれない
強くなる、そう決意して故郷を飛び出してから何年がたつだろうか。様々な人間と戦ってきた。数人の盗賊を相手に戦ったこともあるし兵として砲弾や矢の飛び交う戦場を駆け回ったこともある。2年たつと少し腕がたつ程度の人間には負けなくなった。
故郷を飛び出して5年がたった。盗賊まがいのことをしている男に三度戦いを挑んで殺されかかった。初めて出会った、どうしても勝てない人間。この5年間、本当に強い人間は無意識に避けてきたのかもしれない。それ以来どんなに鍛錬を積んでもどんなに戦っても自分がこれ以上強くなっていないと感じた。自分のしていることがむなしいと感じるようになった。道行く旅人や商人を襲って金を奪い、酒に溺れるようになってからは月日も忘れた。
男が剣を構える。構えは素人同然だった。だが、でたらめな太刀筋はすべて急所を突き自分の斬撃はすべて躱された。この男の剣技はまるで生き物のようにうねり、何か剣とは違うもののようだった。自分が戦った中で1,2を争う強さだ。だが自分の知っている強さや弱さとは違う全く異質なものをこの男は持っていた。
何度か剣を交わした後で男と向き合う。闇で顔は見えないが漂ってくる圧力が少しずつ大きなものになった。見たときは平凡な印象しか受けなかったが今や勝てる気がしない。いや勝つのは無理だろう。それどころかどんな手を使っても逃げられない。立ちすくむ自分に男が近づく。腹に衝撃があった後、目の前が暗くなった。