正反対幼馴染み
高校生の高槻柚子架《たかつき ゆずか》と幼馴染みの染木苺《そめぎいちご》は二人で流星群を見に行く事に。そこで二人が願った事とはーー?
「流星群が見たい!」
空が高くなり、空気が冷え始めたこの頃。
テスト終了で浮き足立っているクラスで、彼女は私にそう言った。
それに対して、私は一言。
「…はぁ?」
我ながら、気の抜けた返事だったと思う。
いやだって、やっとテストが終わると同時に、徹夜生活にも終了を告げられた時点でこの言葉。
誰でも、気の抜けた返事になると、思う。
「だぁかぁらぁっ!流星群!流星群が見たいの!」
彼女こと、染木苺は眉間に皺を寄せた。
いや眉間に皺を寄せたいのはこっちの方だ。
昨夜は、課題に予習に復習にと、かなりの量の勉強をこなした。気付いた時にはもう朝、なんて生活をしてたんだぞ。
「ねぇ、聞いてる?柚子架ぁ…」
「いや、聞いてはいるけど…急に何?」
そう言えば、ぱぁっと花が咲くように輝く顔。
彼女の茶髪がふわふわと踊るように揺れた。
「あのね、今日の夜、流星群が見られるんだって!」
「うん、それはさっき聞いたから。」
私が聞きたいのはそういうことじゃなくて。
「何で、急に流星群が見たいなんて言い出したの?」
「うーん…」
いや待て、何故考える。まさかいつものか。
「わっかんない!」
…そう、いつもの。
彼女はかなりの天然だ。それはもう、クラス中から天然ちゃんと呼ばれるほど。もう十数年も幼馴染みやってるけど、昔から天然だ。
たった今、そのいつもの天然が炸裂したのだ。
「いや…取り敢えず、今日の夜は無理だって。私が眠い。」
「どーせ、“真面目ちゃん”のことだから徹夜したんでしょー?うぅ、だって一生に一度見られるかわかんないんだよ!?」
かく言う私の渾名も、真面目ちゃんなんだけど。
ていうか、一生に一度は言い過ぎだろ。
「ね、お願い!絶対に綺麗だから!!」
結局、断れなかった私は、天然ちゃんと、流星群を見に行く事になりました、まる。
まあ、私も気分転換になるし、いいかなって。
「…、はぁ。」
かれこれ十三回目の溜息だったと思う。
帰りがけに苺は、私にこう言った。
九時に、コンビニの前集合だよ!と。
それはもう、はっきりと言った。“九時に”と。
そして今の時間は十時だ。
もう一度言う。一時間過ぎた、十時だ。
「…いい加減帰るぞ…」
一時間もコンビニで時間を潰せた私を誰か褒めて。
だって電話しても出ないんだよ!?あれ、私何のためにここにいるんだっけ!?流星群見に行くんだよね!?
発案者が何故来ない!?
「あっ、ゆーずかーっ!」
やっと来ました。天然が、やっと来た。
「遅い」
「ごめんごめん!いやぁ、思いの外説得に時間が掛かっちゃって!」
てへ、とでも言うような勢いで彼女は言った。
説得に時間掛かるって何…。
「親に止められたんだけど、柚子架と一緒って言ったら、『高槻さん家の子なら大丈夫だね!』って一発オッケー!」
それは単に苺が危なっかしいからじゃ…。
「取り敢えず、歩きながら話そう。もう一時間も遅れてる」
「うんっ!柚子架は萊地お兄さんに止められなかったの?」
私の兄は、高槻萊地という。今は大学三年生で時々心配性な所があるけど、優しい兄だよ。
「ん?止められたよ。いや、止められたってか家に帰ってからニ時間程追いかけられたけど。撒いてきた」
あれ、何で苺が苦虫噛み潰したみたいな顔してんの。
「…それ、大丈夫なの?」
「え?大丈夫でしょ。兄貴だし。」
もう諦めたと思うし。…多分。
昔、苺と遊んでた時兄貴に尾けられてたから断言はできないけど。
「ほら、早く行くよ」
「うんっ、行こ!」
辺りは真っ暗で、もう周りなんてよく見えない。
昼間より寒くなって来て指が悴んで来る。
「で?その流星群がよく見える場所って何処なの?」
「もう着くよ!あ、あそこ!あの公園!」
小高い丘の上にある公園。遊具は片手で数える程しか無く、全体的に寂しい印象の公園だ。
でも周りに背の高い家はないし、空が見やすい。
「やった、誰もいないっ」
見えた途端に走り出す苺。
「はあ…。苺ー、転ばないでねー…あっ」
転んだ。不憫な事に、コンクリートの上で転んだ。
「いてて…」
「あーもう。だから走るなって…。ほら立って」
「えへへ。柚子架、お母さんみたい」
誰が。誰がお母さんだおい。
「私、柚子架が幼馴染みで本当に良かったと思うよ」
無邪気に、純粋に。真面目にそんな事を言うもんだから、私は咄嗟に掴んでいた手を離してしまった。
起き上がりきれてなかった苺は、当然また倒れる。
「痛い!痛いよ、柚子架!?何で離すの!?」
「急に真面目な顔をするんじゃない!何もない所で転ける天然がっ!!」
半八つ当たりだというのは理解してたけど、仕方ない。うん、仕方ないって事にしといてください。
面と向かって言われると恥ずかしいんです。
「うー。よいしょ。さあ、行こー!」
立ち直りが早いなこいつ。
転んだのなんて無かったかのように公園のベンチに座る彼女。
私はその隣に座って空を見上げた。
「うわぁ…。綺麗だねぇ…」
夜色の空に散りばめられた星たち。
ひとつひとつがキラキラとネオンのように輝いている。でもあんなきつい光じゃなくて、もっと淡い、見ていて落ち着くような光。
その空を、一筋の光が駆け抜けた。
「あっ、来た!」
隣を見れば、星に負けないくらいキラキラ輝いく苺の顔。
私が見ているのに気付いたのか、お願いしよう!と呑気な事を言いながら指を組み、目を閉じた。
…お願い、か。
もし、流れ星が願いを叶えてくれるなら…。
(…染木苺と、ずっと、いつまでも、幼馴染みで、友達でいられますように…)
私が心の中で言い終わると同時に、流れ星の数が増した。まるで、私の願いを叶えようとするように。
「わああっ、増えた増えた!見て、あっちも!」
隣の幼馴染みは、嬉々として空を見上げている。
「落ち着いて、苺。近所迷惑だよ」
「うん!落ち着くね!」
いや落ち着いてるように見えないんですけど。
「ねぇ、柚子架は何をお願いしたの?」
にっこりと尋ねてくる苺。
それに対して私は、はっきり答える事ができなかった。
言ったら苺は引くかな?なんて思ってしまって。
「…言ったらお願いの意味なくなるんじゃない?」
「そーなの?じゃあ、私の教えてあげるね!」
いや待て。ちょっと待て。やっぱり落ち着いてないだろ。意味なくなるって言ってんだろ。
「だから、言ったらお願いの意味なくなるって!」
「なんで?私のは大丈夫だよ!」
意味がわからない。苺の天然さは最早私の手には負えないのか。そこまで行ったか。
「だって、柚子架に関する事だもん」
ふっと、頭に浮かんだ言葉。
小さい頃、苺に言われたあの言葉。
「大切な、高槻柚子架と、ずっと仲良しさんでいられますように。」
「大切な、染木苺と、ずっと仲良しさんでいられますように。」
重なった私達の言葉。
ぽかん、と目を見開いた苺は一拍置くと声を上げて笑った。
つられて、私も笑う。
「ふふっ、覚えてたんだ!」
「だって何回言われたと思ってんの?会う度、ずっと仲良しだよ!ってさ。毎日じゃん」
「流石、真面目ちゃんだね!よく覚えてた!」
「いやそこ関係ない」
『ずっと、ずーっとなかよしさんだよ!』
『うん!わたしもいちごちゃんとなかよしさん!』
幼い時に交わした約束。
ずっと、ずっと、仲良しさんだよ。
流れ星を背景に、私達はずっと笑いあったとさ。
…そして、これは後日談です。
「柚子架ぁぁっ、助けて!」
「今度はどの教科!?」
流星群を見に行きたくて頭が回らなかった染木苺さんは、五教科中、二教科の赤点を貰いました。
「流れ星に、赤点取りませんようにってお願いすれば良かったー!」
「うるっさい!早くテスト直ししなさい!ここ違う!」
「そう言えばさー、流星群見に行った日、やっぱり付いてきてたよね」
「…は?」
え?と首を傾げた苺は計算の手を止め、とんでもない事実を話した。
「萊地お兄さん、流星群見に行った日、付いてきてたよね?帰るとき、ダッシュしてたの見えたよ」
それを聞いて、私は絶叫。
そうか、そうか。だからあんなに汗かいてたのか…!
「…あぁぁぁぁんの…っ」
その日、ちゃーんと、兄貴は締められましたとさ。
初めまして、朧月です。
初の投稿で緊張しています…。
誤字、脱字など、あると思いますがそこは大目に見ていただけると嬉しいです。
最後まで読んでくださった方も、まだ読んでいない方も、この小説を見ていただき、ありがとうございました!