~死刑執行人の暴走~
第一章 帰還
逃亡して数年が経った。
まさか、故郷に帰ってくるなんて夢にも思わなかった。
タンカーの貨物室の隅で、俺は仰向けに寝て物思いに耽っていた。
4、5年前…正確には数えていないが、同じようにタンカーに乗って故郷を離れたことを覚えている。その後の事はあまり覚えていないが、色々な戦場を連れ回され、訓練を受け、戦った。ただ命令書通りに人を殺す。何も考えず、ただ指示されるがまま殺した。非情で残酷な行動が許される世界だった。平和な故郷とは、まるで別世界だった。
自分が行ってきたことが正しいとは思わない。人を殺しても正気でいられるのか不思議なくらいだ。人をただの“モノ”としか思えない。殺した人間の人生なんて知らないし、気にしない。そいつが死んで悲しむ家族や友人なんて知らない。動く肉の塊としか思っていないのだろう。だから無心で人を殺せる。
戦場で戦っている間も殺人衝動は湧いてきた。ただ、昔のように暴走することは無くなった。抑える必要が無くなったからだろう。しかし、未だ殺人衝動が湧き起こる理由はわからないままだ。予想ではたぶん自分には足りないのだろう。理解できないのだろう。愛というものが。
愛といえば、戦場で戦った時に一人の変人と出会った。普段は一人で任務に就くが、その時は珍しくバディを組んだ。
バディとは口を利かなかったが、そいつも同じく口を利かなかった。だが、そいつは武器と会話していた。愛用のライフルに女の名前で語りかけていた。第一印象はただの変人だった。しかし、戦場での戦いは一流だった。まるで武器と意思疎通をし、呼吸の合った戦い方だった。それが愛の力ならば、そいつに敵わなかった理由は俺に愛がなかったからだろう。
俺も武器に愛着が湧くかと思ったが、そうでもなかった。故郷を出る前から持っていた刀は未だ手放さなかったが、名前を付けたり話しかけたりはしていない。当たり前か。
そんなことを考えていると船が停止した。そろそろ港に着く時間だ。
久しぶりの故郷だが、やはり故郷に対する愛着も感じなかった。
第二章 暴走
故郷は相変わらず平和だった。自分が居た戦場が嘘のようだ。人々は忙しく働き、遊び、銃声なんて無縁の世界だった。
一つ変わった事といえば、国民が戦争反対を叫ぶデモが目立っていた事ぐらいだろうか。どうやら、政府が戦争と関わる法律を変えようとし、国民がそれに反対しているらしかった。俺からしてみれば、十分平和だった。罵声の代わりに火炎瓶が飛んでこないだけマシだ。
まあ、この騒ぎが故郷へ帰ってくる理由なのだが。
今回の任務は、この国のトップの暗殺だ。イベントに出席するターゲットを狙撃する。後は国外に逃走するだけ。依頼主はこの騒動をよく思っていないらしい。トップが消えれば、怖気づいて法改正をしないだろうというのが魂胆らしい。俺には関係ない話だが。もうこの国の人間ではない。
狙撃ポイントも任務に必要な物資もすべて揃っている。遂行手順もすでに用意されている。俺はいつも通り、無心に任務を行うだけだ。
決行は明日の昼、イベントに出席するターゲットが大衆の前で演説するために壇上に上がった瞬間を狙撃する。その後、攪乱用の爆弾を爆発させ国外に逃走する。今までの任務の中でも、非常にシンプルな任務だ。いつもであれば拠点を壊滅させる。だが、今回の任務は今まで以上に重要だ。俺が放った一発で国ひとつの未来が変わる。どう変わるかは知る由もないが。
俺は狙撃ポイントの寝袋で眠りについた。明日、自分の国が変わることを知らない国民のように。
■■■
ピッタリ起床予定時刻に起きた。日頃の訓練の賜物だ。軽く軽食を取り、狙撃ポイントでライフルを構えた。
イベントは大通りで行われ、多くの人々が集まっている。天気は快晴。壇上までの見通しも良好。風も穏やかだ。
あと数秒でこの国は変わる。そこには何の感情もない。ただ的を撃ちぬけば良いだけ。簡単なことだ。
スコープからターゲットが壇上に上がるのが見える。俺は引き金に指をかけた。残るは引き金を絞るだけ。そこに感情はなく、意思もない。愛国心も慈悲もない。無感情。無関心。それでいいのか?
「……!?」
頭の中で声が響いた。何処か懐かしいあの声が。
(オマエの意思はないのか?)
「……やめろ」
(オマエに野望はないのか?)
(……うるさい!)
思い出せ‼ この俺を‼
オマエの意思を‼
なぜオマエは殺す‼
その意味を思い出せ‼
オマエは誰だ⁉ オレはオマエだ‼
思い出せ‼ 意思を‼ 野望を‼ 存在理由を‼
「ウルセエエエエッ‼」
俺は引き金を引いた。ターゲットに銃口を向けたまま。
遠くから悲鳴が聞こえた。大衆が世界の変化を悟ったように。恐怖と悲しみの叫びがここまで響いてくる。国のトップたちも慌てふためいている。何が起こったか認めたくないかのように、目の前の出来事を理解したくもないかのように。
“ターゲットも含めて”遠くの惨状を呆然と見ていた。この国の主義の象徴でもある『話し合いの場』が爆発とともに煙を上げ崩れていく様を。国家が崩れていく様を。ただ呆然と……
俺は、その光景を眺めていた。この惨事は指示に含まれていない。ターゲットも死んでいない。俺は確かに引き金を引いた。『国家を壊滅させる引き金』である“爆弾のスイッチ”を。
「作戦成功。」
そう言った俺の顔は笑っていた。
■■■
実戦経験を積んでいた時、俺は「死刑執行人」、「嵐龍」と呼ばれ恐れられていた。相手を殺す様は、微笑む骸骨の死神というよりむしろ無慈悲に無表情に無感情に罪人を葬る死刑執行人だった。敵陣を縦横無尽に走り、相手の後ろから鎌首をもたげて食いちぎる。俺の通った痕は、嵐が過ぎ去った後のようだった。
俺は人を殺したかった。それが叶った。だが、なぜこんなにも満たされず、空虚なのか。満たされるためにはどうすれば良い?殺したりないのか?もっと多くの人間を殺せば良いのか?
“フフフッ”
“もしかしてお困り?”
久しぶりに心の奥底が疼く。
“答えを教えましょうか?”
殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼殺せ‼
■■■
まだ崩れていく音と人々の悲鳴が聞こえてくる。外は大パニックだ。警察や軍が動き出すのも時間の問題だが、今いる場所がすぐにばれることはない。だが、逃げるなら早く動かなければ。俺は任務を失敗した。もうサポートは受けられないだろう。
しかし、俺はその場から動けなかった。まだ興奮が冷めなかった。ようやく思い出せたのだ。自分の意思も野望も存在理由も。俺の殺したかった相手をようやく思い出せた。俺が求めていたものはこれだ。
“なぜ殺さなかったの?”
いつも頭に響く“あの”声が聞こえた。
“教えて?なぜ殺さなかったの?”
声が響く。
“ねえ?なんで?”
心を揺すぶる“あの”声が聞こえてくる。
“教えて!なぜ殺さなかった⁉”
後ろから
第三章 解答
俺の後ろにあの時の少女が立っていた。まだこの国を去る前に同じ学校のクラスメイトだった女子だ。俺がこの国を去るきっかけになった子だ。
「なぜ君がここに?」
“それは分かってるでしょ?なぜ殺さなかったの?”
僕の問いかけに、彼女は苛立った口調で答えた。
“私は言ったはず。もっと殺せって。なのに何で?”
“なのに何で一人も殺さなかったの?”
そう、僕は建物を破壊しただけで誰も殺していない。建物はあらかじめ無人にしておいた。
「それは思い出したから。自分の意思を。」
“意思?それは人を殺すことでしょう?殺人こそがあなたの意思でしょう?”
「違う。」
“だったらなぜ今まで人を殺してきたの?それが意思でないとしたら何なの?”
「それは君がよく知っているはずだよ?」
“私?私は何も知らないわよ⁉知らないから聞いてるんじゃない?”
「そうだった…君にはなかったな。意思とか野望とか存在理由とか。君はただ単に存在しているだけだった…」
そう、彼女は意思もなく野望もなく存在理由もない。
人間ではない。
名前は……
「…運命」
To be continued…
今作は、前作「殺人衝動~死刑執行人の解放~」の続きとなります。前作の伏線を回収しようと思いましたが、今回はさらに伏線が増えて訳が分からない2巻だった思います。これまでの伏線は3巻でまとめて回収しようと思っていますので、頑張って書きます!




